小学校講師 三田みゆきさんの話
私は24歳、教員養成大学を出て2年目です。去年卒業したんですが、
地元の県の教員採用試験に不合格になり、現在は中学校の講師を
続けています。教科は英語です。それで、現在勤務しているのは
〇〇町の〇〇第一中学校というところなんです。教科担任だけで
学級担任はやってないので楽なんですが。この学校に来て
4ヶ月になりますが、生徒がふつうと違うというか、いろいろと
変なところがあるのに気がつきました。まず最初に気がついたのは
その体の大きさです。ええ、大きいんですよ。すごく背が高い。
それは、着任式のときからわかりました。体育館の窓際に並んでいるのが
3年生なんですが、みなぞろりと大きい。まるで欧米の兵士が
並んでいるような感じだったんです。不思議に思って調べてみました。
そしたら、忠3の男子の全国の平均身長って170cmに少し足りない
くらいでしょう。ところがこの学校の統計は182cmだったんです。10cm
以上も大きい。地域的な遺伝ではないかと思いました。お会いした父兄も大きい
方が多いんです。それに他地域から転入してきた生徒は、普通というか、
一般的なその年齢の身長だったからです。あと、これはだんだんに
気がついたことです。ある特定の発音がうまくできない子が
多いんです。英語でいうと「æ」ですね。catなどの単語に使われ、
よくアとエの中間のような音と言われますが、ここの子たちは
みなうまくできないんです。「キョット」みたいになるんです。これも
すごく不思議で、例外がないんです。もしかしたら、喉などの構造に
問題があるのかもしれないと思いました。あとは、全体的に
動作がにぶいんです。体が大きいせいかとも思いましたが、素早い動きが
苦手みたいなんです。一度、確かめようと思って体育の授業を見學に
行ったことがあります。そしたらそのとき、器械体操の跳び箱を
やっていましたが、みな動きが鈍く、並んで跳び箱を跳ぶのに、上手に
できる子がほとんどいなかったです。高さは4段なのに、みな足は長いのに
乗り上げてしまう・・・、まあ、これ以外は普通といえば普通なんですが、
たまたま休み時間に教室で授業の準備をしていたとき、あんまり走り回って
遊んだり、女子もSNSやテレビの話をしている子がいなかったんです。自分の席で
本を読んでいる子が多かった。それも全部同じ本です。「海の奇譚」という題名で、
学級文庫にあるんですが、30冊以上並んだ本が、全部それだったんです。
これ、おかしいと思いませんか? どういうことなんでしょうか?
〇〇民族歴史資料館勤務 宗田宗介さんの話
ここの地域の歴史資料館に勤務しています。3年前からですね。これは県の
施設なので、県の教育委員会が管轄しているんです。え? この地域には
身長の大きい人が多い? ああ、気がついていますよ。もう3年目ですから。
この地域に昔からいる人はたいがい180cmは越えてますね。それでも
小さいほうなんです。70代、80代のお年寄りでも、190cmから
2mを越えるような人もいるんですね。ちなみに、私が勤務している
資料館の雑務係も地元の方で、もう60歳を超えた再雇用ですが、
190cmはあるんです。あとそうですね、ここは漁師町なので、
海関係の資料が多いです。昔の和船とか、漁網、木製の浮きなど。
ほとんどは地元の旧家で寄付してくださったものです。うーん、
史跡とよべるほどのものは町にはありませんね。
太平洋戦争時の戦死者の碑くらいですか・・・ああ、あれがあった。
鯨塚です。まあ、直径30cm程度と推定される柱穴ですね。寄り鯨と
言いまして、現在でもありますが、浜に鯨の漂着死体が流れ着いたものです。
それがそこまで腐ってなければ肉をとったり、ヒゲや皮を加工したりします。
昔は鯨が一匹漂着すれば、「七浜潤う」と言われたものです。ただ、
鯨は大きいですし、漁も行われていましたが死人が出ることもありました。
ですから、鯨は荒ぶる神としても怖れられ、それが祟りをなすことが
ないよう、残った骨や腱などを埋めたところに建てたのが鯨塚です。
え? 発掘? まさか。もう300年近く前の話ですから、掘っても
ほとんどが土に返ってるんじゃないですか。もしかしたら、土を
分析すれば脂肪酸の割合が高いとか出るかもしれませんが。
それに、地元の人の信仰の対象になってるので、掘り返すなんて言ったら、
怒られますよ。ええ、現在でもお参りにくる方が多いんです。
お年寄りがほとんどですが、若い人もいますよ。柱穴に御神酒を注ぐ人が
多いですね、そして何らやお教のようなものを唱える。だけどそれ、
まったくお経のようにも日本語のようにも聞こえないんです。
呪文のような感じですね。一度興味を持って、意味を聞いてみたんです。
そしたら、わからない、ずっと昔から先祖代々続いているものだ、と
言ってましたね。ああ、もちろん今でも漁業はやってます。
町の中心的な産業ですから。ここらはいい漁場らしく、不漁ということは
聞いたことがありません。獲物は、今は鯨ということはないんですが。
さすがにそういう話は聞いたことがありません。
大学生山本雄一郎さんの話
ああ、山本と言います。私立大学の3年です。こないだレンタカーで
友人と3人で旅行をしてまして、いや、youtubeに投稿するための
あてどない旅です。日本海の海岸沿いにずっと車を流しまして、
海岸風景や漁港であれば漁の様子をカメラにおさめる。宿泊はたまには
民宿に泊まったりもしますが、ほとんどは車中泊です。あとね、
迷惑にならない程度で砂浜で焚き火をやったりもします。そこでコンビニで
買った酒を飲むんです。それもビデオに撮りましてアップするんです。
けっこう好評で、登録者は1万人を超えてます。でね、3日ほど前、
移動のために夜中に車を走らせてたんです。海沿いの国道で、そのあたりは
高速はないんです。海は崖下で、かなりの高さがありました。
で、ですね。そのとき走っていると、眼下の砂浜に明かりが見えたんです。
炎は揺れていて、篝火か松明のようでした。何だろう?と見ていると、
道が広くなった場所があり、そこにバンを停めました。そしたら、そこの
向かいの山の斜面の登り口に柵で囲まれたところがあったんです。
そしてその脇に木札が立ててあり、懐中電灯で照らしてみると「鯨塚跡」と
読めました。四角い柱穴のようなものがありましたね。道の崖のほうは
ガードレールがありましたが、もしも転落すれば助からないだろうという
高さでした。そして砂浜では火がちらちらと動き、大勢の人がいるように
見えました。何をやってるんだろう? お経を読むような音が聞こえていました。
ただ、お経とは抑揚が違っていて、なんとなくアフリカなどの呪歌のように
聞こえたんです。そしてかすかな太鼓の音も。さっそく仲間の一人が
ビデオカメラを出して構えました。何かのお祭りか神事だろうが、
いい絵が撮れるかもしれない、そう思ったんです。やがて、呪文は
急速に高まり、2人の男が出てきました。半裸で、頭から何かをかぶっています。
ワカメかなにかの海藻のような感じでした。そして、2人は向かい合って
いろいろなポーズを取っていましたが、やがて浜にいた全員が、沖に向かって
平伏するようなポーズをとったんです。そしたらそのとき、晴れたいい天気
だったのに、突然大粒の雨が降り出したんです。紺色の空が雨雲で黒くなって
いました。そして海に向かって、一筋、二筋稲光が・・・そのとき見たんです。
海から巨人が立ち上がるのを。そうですね、太ももまで水に沈んでましたが、
その大きさは20m以上はあったと思います。巨人・・・? ただ残念なことに
黒いシルエットになっていて、顔などの詳細はわからなかったんです。巨人は膝を
かがめ、浜にいる人たちに向かって手を広げ、「我が子らよ!」と叫んだんです。
