bigbossmanです。今回は食品流通の会社に勤めるOさんから聞いた話です。
知人から心霊体験をされたことがある人がいる、と紹介されまして、
行きつけの大阪の料亭でお話を伺ったんです。Oさんは40代の前半、
背が高く、バリバリのビジネスマンという印象の方です。
「あ、どうも。bigbossmanともうします。怖い体験をなさったそうで」
「いや・・・怖いというわけじゃないんです。ただ、ひじょうに不思議な
体験でした」  「どのような?」  「今から4年前のことです。私の会社、
本社は東京にあるんですが、一泊で神戸に出張になりまして」  「はい」
「神戸のビジネスホテルに予約を取ったんです。当時はコロナ禍明けで、
まだそんなに混み合ってはいなかったです」  「それで?」  「出張は

1日がかりの予定でしたが、とんとん進んで午前中で要件は終わりました。

午後がぽっかり開いたので、せっかくだからと京都見物に行ったんです」
「なるほど」  「私はじつは御霊信仰に興味を持っておりまして、京都では、
上御霊神社と下御霊神社に行ったんです」  「へえ、御霊に興味をお持ちとは
珍しい」  「まあ、京都には何度か行って、金閣寺のような観光地は
ほとんど回りましたので」  「なるほど」  「しかし、これが悪かったのかも
しれません。その夜、不可思議な出来事があったんです」  「どんな?」
「それをこれからお話するんですよ」  「「ああ、口をはさんですみません」
「いえいえ。でね、神戸に戻って、夕食がてら一杯やりました」  「はい」
「それからホテルに戻ったんですが、9時頃でしたね」  「で?」
「なんの変哲もないビジネスホテルで、名前を言えばbigbossmanさんも

ご存知かもしれません。フロントでカードキーを受け取って、部屋は

 

5階でしたので、エレベーターに乗ったんです」  「はい」  「そしたら、

5階の廊下に、自販機のコーナーがあったんですよ。ビールとかカップ麺の

自販機がいくつかある」  「ああ、わかります」 「そのときは疲れてましたから、

まずは部屋に入ってベッドに横になりました、それでウトウトと

眠ってしまったんです。で、目が覚めてスマホを見ると、12時を少し回った

時間だったんです。喉が乾いてました。まあ、部屋の冷蔵庫に

ミネラルウォーターはあったんですが、ビールと何かつまみはないかと、

部屋を出てさっき見た自販機のコーナーにいったんです」 

「はい」  「ビールの缶を2本買いました。つまみ類はなし。でね、

そのコーナーの奥の隅に変な自販機があったんです」  「変な、というと?」
「全体がね、淡い青い光につつまれてたんです。しかも自販機自体は白一色で」


「へえ、見たことがないですね。何の自販機でした」
「缶ジュースだと思いました。しかしメーカー名はどこにもなくて、
並んでいるのは180mlくらいの細長い缶。全部同じでね。しかも、
赤い字で何か書いてある。顔を近づけて見たら、缶の中央に縦書きの筆字で、
「思ひ出」と書いてあったんです」  「そういう飲料はないですよね」
「はい。私も不思議に思いましたが、それよりももっと変なのは、
購入のボタンがみな10円となっていたことです」  「10円、そんなのは
ないですよね」  「私もおかしいと思ってお金を入れないままボタンを押して
みたんです」  「どうなりました?」  「そしたら、ガコンと音がして、
取り出し口に缶が出てきたんです」  「で」  「見本にあるのとまったく
同じ缶でした。何が入ってるんだろう?と興味を引かれました」


「毒などだと思いませんでしたか」  「いや、仮にも知られたホテルですし、
それは考えませんでした。あとまあ、飲料が入っているには妙に軽い気が
しました」  「うーん」  「とりあえずビールとともに部屋に持って帰ろうと
思ったんですが、そのときもう一度自販機を振り返ったら、ボタンに
書かれているのは10円じゃなくて、10年だったんです」  「10年、
どういことでしょう?」  「そのときはわかりませんでした。で、好奇心

いっぱいで、部屋に入ってデスクに座ると、まずその缶のプルタブを

開けてみたんです。そしたら・・・」  「そしたら?」   

「とくに何も起こりませんでした。プシュッと気体がもれるような

音はしたんですが、中身は空。逆さにしても何も出て来ない」 

「奇妙ですね」  「はい。そのときは何かのジョークの缶だと思ったんです。

 

ほら、南極の空気の缶詰なんてのがあるじゃないですか。
だからもう一度缶をためすがめつ見たんですが、どこにも何の記述もなし」
「で」  「わけがわかりませんでしたが、お金を入れたわけでもなし、
缶をゴミ箱に突っ込んで、少し仕事をすることにしたんです」  「はい」
「出張の復命書を書いてしまおうと思ったんです。様式はパソコンに入ってますし」
「で」  「その頃には酔いもほとんど覚めてましたしね。20分くらいで
復命書は書き上げて、さてビールを飲んで寝ようと顔を上げました。
そしたら」  「そしたら?」  「デスクの脇にずぶ濡れの男の子が
立ってたんです。8歳の」  「8歳ってわかるんですか?」
「わかります。それ、私の弟なんです。8歳で亡くなった」  「ええ?
どうして」  「そのとき、家族で沖縄旅行に行ったんです。弟は生まれつき


心臓の持病があったんですが、どうしてもシュノーケリングがやりたいと言って。
まあ、インストラクターがついてたし、サンゴ礁の深さは1m程度で足も立つ。
大丈夫だろうと思って父もやらせたんですが、どうも海水を飲んでしまったらしく、
慌てて立ち上がったときに心臓発作が起こして亡くなってしまったんです」
「その弟さんが?」  「ええ、死んだときの年齢のまま、海水でべったりと
前髪が額に張りついていました。海パン一丁で、痩せていて肋骨が
浮き出ていました」  「うわ」  「でもね、怖いとはそのときは

思わなかったんです。懐かしいという気持ちと、自分だけが

生きていて申し訳ないという気持ちと」  「で?」 

「でもね、怖いと思ったのは弟の次の言葉です」  「どんな?」
「弟は波の音のような低い声で、兄ちゃんありがとう、僕に会うために

 

10年も寿命を払ってくれて」  「えええ、じゃあ自販機に書かれていた

10年というのは・・・」  「どうやら私の寿命らしいです」 

「それでどうなったんですか?」  「弟はデスクの上に小さな白い貝殻を

落として消えました。名前を呼んでも二度と出てきませんでした」

「どうしたんですか?」  「部屋を飛び出して自販機のとこへ

行きましたよ。そしたらさっきの機械はなくなってて、
同じ場所に一般的な飲料の自販機があったんです」  「うーん」
「まあ、今となってはよかったと思いますよ。もしかしたらまた10年払って
2本目を買っていたかもしれない」  「不思議な話ですねえ」  「そうでしょう。
でも本当にあったことなんです。その証拠というか、そのときの貝殻は

持ってきてます。それは消えませんでした。ほら、これですよ」  「ううう」