俺は岬と言って、ある会社のディーラーでメカニックをやってる。
そう難しい仕事じゃない。今は昔と違って、アッセンブリー交換がほとんど
だからな。俺はただ組み立てをするだけで、修理と呼べるようなもんじゃない。
あとは点検とリコールの対応とかだな。で、そのディーラーはずっと新人の
採用がなかったんだが、今年一人入った。でも、メカニック仲間じゃないし、
営業のほうでもない。受付の女の子だよ。前やってた人が、事情があって
辞めちゃったんだ。その女の子の自己紹介では、コンピュータの専門学校出で
21歳。なんでも中学校までは沖縄に住んでたんだが、家に都合で
東京に出てきて高校に入ったということだった。美人? さあ、どうだろうな。
化粧っ気があんまりないし、髪は古風な三つ編み、眉は描いたりしてなくて、
毛虫のように黒く太かった。そのくせ、南方出身なのに、色は抜けるように
白いんだよ。それに小柄だ。小学校6年生くらいしかないんじゃないか。
よく入社試験にパスしたなと思うが、もしかしたら縁故採用なのかもしれない。
でな、所長の肝いりで歓迎会があったんだよ。場所は会社の近くの
地元の繁華街だよ。でな、その子、けっこう酒が飲めたんだ。それも
チューハイとかじゃなく、焼酎のロック。なんでも、沖縄では子どもの頃から
泡盛に角砂糖を入れて飲んでたらしい。それで鍛えられたんだと。
でな、一次会が終わって、次はカラオケに行ってた。その子、A美としておくが、
あんまり乗り気じゃナさそうだった。カラオケが苦手らしく、歌も沖縄の
民謡のようなものを一曲歌っただけだった。で、そこでお疲れ様と解散した。
けっこう飲んでたと思うんだが、あまり酔っているような感じじゃなかった。
電車で帰るのか聞いたら、アパートがすぐなので歩いて帰ると言った。
でな、俺は終電に間に合いそうなんで駅へ急いだが、途中でスマホがないことに
気がついたんだよ。「あれ、カラオケ屋で出して忘れてきた」そう思った。
取りに戻るしかないか、なくなったってことはないだろう。ただ、今から
戻ると終電に間に合わなくなってしまうな。まあ、しかたがない。
いざとなったら駅前のサウナに泊まってもいいし。ということで、
なるべく大通りを避け、近道をしてカラオケ店まで戻ったんだよ。でな、
人気の少ない通りに出て、何気なくビルとビルの隙間を見ると、奇妙なものが
いたんだよ。ベージュっぽい色のコートの女だ。あれ、これってさっき
別れた新人の女子に似ている。小柄なのも同じだ。何でこんなとこに
入ってるんだろう。そこはどちらのビルもアパートではない。
よく見ようとして異常なことに気がついた。その女、頭がなかったんだよ。
そのかわりに首が白いヘビのように伸びて、ビルの雨樋にぐるぐる絡みついていた。
「何だよこれ?」上を見上げると暗い夜空の、ビルのてっぺんあたりに
白いものが見える。あれが顔だ、首が伸びてるんだ。ろくろ首? そんな馬鹿な。
俺はあまり驚いたので「ああっ!」と大声を出してしまった。それが聞こえた
のかもしれない。女の首がスポッと抜けたんだよ。そしてせまい隙間をぐるぐると
飛び回っていたが、やがて俺のいるほうに降りてきた。A美の顔だった。
俺の30cmほどの距離、顔の高さに止まると「あら、先輩じゃないですか?」
「お前!首、首が・・・」 「あら、沖縄ではわりと普通なんです。古い家系には
よくいるんです」 「ろくろ首が?」 「いえ、ですからろくろ首とは違って
抜けるんですよ」 「そんな馬鹿な。何をしてたんだ?」 「てへ、じつはさっき、
遠慮してあんまり食べなかったので、お腹が空いて蝙蝠を食べてたんです」
何を聞いているのかまったく理解できなかった。沖縄の古い家系? 蝙蝠を食べる?
俺が硬直しているとA美は「会社の人に言わないでくださいよ。人間じゃないからって
首になったら困るし。もしそんなことをしたら、先輩を食べちゃいますよ。
でも、できればそんなことはしたくないんです。骨の処理がたいへんなので」
俺の耳元に顔を近づけてこんなことを言ったんだよ。
※ 首が抜けて飛び回るろくろ首を、飛頭蛮と言います。
