注意報
俺は、ある資材会社に勤めている27歳で、妻と2人暮らし。
まだ子どもはいない。で、朝起きてきて歯を磨くために洗面所に入った。
鏡を見て歯を磨いていると、鏡の右下におかしなものが映っていた。
髪がボサボサの青白い女の顔だ。うらめしそうな目つきでこちらを
にらんでいる。齢は30代前半くらいだろうか。「あちゃー」と思った。
出勤前なのに運が悪い。今日は濃度が高い日なんだな。女の顔から目を
そらさずにいると、顔はそのままスーッと鏡の中を移動していき、
そのまま右上辺に消えていった。俺が居間に入ると妻は隣り合った
キッチンでトーストを焼いていた。俺は妻に、「いや~まいった。
今さっき鏡の中で女を見ちゃったよ」すると妻は「えー、マジ?
それだと霊障局に電話しなきゃいけないわね。あなたも立ち会ってよ」と、

面倒くさそうに言った。そこで俺はまず会社に電話し、留守電に、「〇〇です。
幽霊見ちゃったんです。スミマセン遅れます」と言った。それから
霊障局に電話をかけ、リモコンでテレビをつけ、NHKにチャンネルを合わせた。
ニュースをやっていたが、しばらくして天気予報に変わった。
お天気キャスターが出てきて、ひとしきり今日の天気を解説したが、
どうやら雨は降らないようだ。そして最後に、「今日の霊障濃度は77%です。
霊を目撃した場合は必ず霊障局に連絡してください」とつけ加えた。
それから朝食を食べたが、メニューはバタートーストとベーコンエッグだった。
着替えをしていると玄関のチャイムが鳴った。おお、早い。
霊障局の人だな。朝から警戒してるんだろうな。出てみるとやはり
霊障局の人で、俺が事情を話し、霊障局員はカバンからテスターを出して

鏡に近づけた。そして機械の数値を読み取り「ああ、これなら問題はないですよ。
かなり古い霊みたいです。おそらくこの建物が建つ前にこの場所に
住んでて亡くなった人でしょうね。放置でかまいません」  「そうですか。
ご苦労さまでした」こういうやりとりをしたんだ。そして霊障局の職員は
帰っていき、妻が「たいしたことなくてよかったわね。会社も間に合いそう」
と言った。俺は車通勤なんだ。地下の駐車場から車を出して、いつもの
道を通り、2つ目の交差点に近づくと、信号機のまわりに人だかりがしてた。
そこは1週間ばかり前、子どもが事故にあった場所で、その子は亡くなって、
現場には花束や缶ジュースなどが並んでいた。それを多数の通行人が取り巻いて
見ていたんだ。「ああ、霊障だな」と思って車から見てたら、花束の中から
血まみれの男の子が「バア」と言って顔を出した。やっぱり。

しかし、これだけ見ている人がいるんだし、中にはスマホを出している人もいた。
おそらく誰かが霊障局に通報しただろう。俺がするまでもないな・・・
こうして霊障注意報の1日が始まったんだ。

 



天狗
うちの親父の話だよ。私鉄で駅長まで勤めたんだが、60歳で定年退職した。
定年延長は望まなかった。十分な退職金が出ていたしな。

で、何を始めたかというと、なんと山岳修行なんだよ。

「昔からやりたかった。念願がかなった」と言ってた。
それからは白山や大仙、霊峰と呼ばれるところに入っていき、山登りをしたり
滝に打たれたりをした。長いときで1ヶ月、短くて2週間ほど山に籠もってる。
しかも山伏の格好は一式用意したし、ほら貝まであった。あまり鳴らすのは
得意ではないようだったが。で、たまに家に戻ってくる。修行の成果か、
もとは80kgほどあった体重が、どんどん痩せてきた。家で食べる食事も
少量だ。俺が心配して「親父、大丈夫か」と聞いたが、親父は渡って
「計画どおりだ。何でもない」と答えていた。で、親父のこの生活はなんと


10年も続いたんだよ。体重は50kgほどになり、骨と皮の外観だが、
背筋にビシッと筋が通ったように立ち姿がよくなった。それにジャンプ力も
すごい。こないだ見てたが歩道橋を登るとき、3段飛ばしで登ってたんだ。
もうすぐ70歳になるとは信じられないだろ。よほど山で厳しい修行を
していたに違いない。そして70歳の誕生日前の半年間、食事は食べなくなった。
秋に拾ってきた銀名を炒ったものしか食べないようになったんだよ。
さすがに栄養失調にならないかと思って「親父、大丈夫なのか?」と聞いたが、
「問題ないよ」と笑っていた。そしていよいよ親父の誕生日の日、朝起きてくると
親父は「満願成就の日だ。今日の昼、わしは天狗になる」って言ったんだ。
もちろん冗談だと思った。この日は土曜日だったので俺も家にいた。
そして昼になり、その日の昼食はそうめんだったが、親父だけはいつものように


銀杏を食べていた。でな、家には鳩時計があるんだが、
12時になってパポ、パポと鳴り出し、鳴り終わったときに親父の鼻が
ずんずんという感じで伸び始め、あっという間に20cm近くなった。

親父は「うむ、いよいよだな」と言い、「洗面器に水を張って持ってきてくれ」と

続けた。何に使うんだろうと思いながら準備すると、

鼻の伸びた親父は両手を頭の上に伸ばし指先をそろえると、

飛び上がってザブンと洗面器の中に消えたんだよ。
俺と妻はあっけにとられてそれを見ていた。それ以来ずっと行方不明だ。
やっぱり天狗になったんだろうか??