土曜日の夜。道頓堀の金龍ラーメンの角に言ったんだよ。そんな時間に
何をしに行ったかっていうと、ビデオを撮りに出た。youtubeの番組を
持ってて、それに動画をあげるためだよ。あいかわらずすごい人出で、
そのほとんどが外国人のようだった。まあ、これについては
オーバーツーリズムの問題もあるだろうが、観光業の人はウハウハだろうな。
小一時間ばかりビデオを撮って、そろそろ帰ろうかとしたとき、
「おい、あんた」と背後から声をかけられた。何だ?と思って
振り向いてみると、和服のじいさんが俺に向かって指を突きつけてたんだ。
じいさんは萌黄色に白い紋のついた和服を着ており、禿げかかった頭の
横の白髪を伸ばしていた。俺が「え、何ですか?」と聞くと、じいさんは
「なあ、頼みがあるんだよ」と言ってきた。あ、これは新手の詐欺か何かか?

と俺は警戒した。しかしここでじいさんはニヤリと笑い、「頼みってのはなあ、
あんたに宝くじを買ってほしいんだよ。それも1枚だけでいい。なあ1枚なら
300円だし、安いもんだろ」こうい言ったんだ。俺はわけがわからなかった。
「宝くじなら自分で買えばいいじゃないですか」  「わしが買ってもまず
当たらん」  「俺だって当たらないですよ」  「いや、そんなことはない。
わしにはわかるんだ。あんたは高額当選するよ。でなあ、もしも当たったら
教えてやった礼金として、わしにいくばくか寄進してくれればいい。
そうだなあ、1割くらいもあればいいか?」とうてい信じられない話だった。
おおかたいろんなやつにこうやって声をかけてるんだろう。そう言うと、
「わしを信じないというのか? 50年間、占いの修行をしてきたこのわしを。
わしには当たるやつがわかるんだ。だからこうやっていつも人混みの中にいる」

だんだんうるさくなってきた。それで「信じませんよ。他の人に言ってください」
言い捨ててその場を離れようとした。そしたらじいさんは「わしの力をどうあっても
信じないと言うんだな。そうだなあ、じゃあ あれを見ろ」そう言って金龍ラーメンの
龍のつくりものの看板を指差したんだよ。「え、あれが何か?」俺が
そう言った瞬間、その看板の龍の首がぐんと伸びたんだよ。そして大きな口を
開けて俺の頭をがぶりとかじった。「え、え、え?」しかし、そう思ったのは
一瞬だけで、われに返ると龍の看板は元のまま、しかも誰もそっちを見ても
いなかったんだ。今のは何だ??  いや、たしかに龍の首が伸びて俺の頭に
噛みついた・・・で、俺はじいさんの言うことを信じてしまったんだよ。
もよりの宝くじ屋でサマージャンボを1枚だけ買った。しかし・・・冷静になって
考えると当たるとは思えなかった。じいさんは俺の連絡先を聞くと、

「当たったら必ず知らせろよ。とぼけるんじゃねえぞ。いいか1割だからな」
そう言って人混みにまぎれて去っていったんだよ。そして・・・当選番号の発表の
日になり、期待はしてなかったが、なんとその一枚が3等の100万円に
当たったんだよ。迷ったがじいさんに電話をした。そして当選のことを言うと
「そうか。やっぱり当たっただろ。俺にはわかるんだよ。運のないやつに宝くじを

当てさせることはできないが、これから買えば必ず当たる  運のいいやつは

わかるんだ」俺が、「あのとき作り物の龍の首が伸びたのはどうして?」そう聞くと、
じいさんは笑って「あれは簡単な催眠術さ。ちょっと練習すれば誰にでもできる。
トリックだよ。だけど、ああやってみせないとわしの言うことは信じないだろ」
こんなふうに言ったんだよ。そんなことがあって、俺はじいさんに1割の10万円を
支払ったんだが、それでも90万円もうけたことになるな。まあ、こんな話なんだ。


道頓堀店