俺は田崎と言って、いろんな会社や公官庁のITシステム構築を
担当している。その日俺は、朝からずっと外回りをしていて、会社に
2回目の連絡をしたときは午後3時に近くなっていた。電話には
課長が出た。俺が「予定の3件は回りました。通常のメンテナンスで、
特に大きな問題はありません。もうすぐ3時ですので、これからあと
一ヶ所だけ回って直帰したいのですが」こう言うと、課長は
「そうか、ごくろうさん。直帰は許可します。どうかゆっくり休んでください」
と言ったあと、思い出したように「ああ、そういえば午前中に奇妙な電話が
かかってきたぞ。お前のことが知りたいっていうんだ」 「へえ、誰で
しょうか?」  「それが相手は血統調査所と名のったんだが、それ以上の
ことは言わないんだ」  「で、教えたんですか?」  「まさか。個人情報

と言って断ったよ。お前、心あたりあるのか?」  「いえ、まったく
ありません」  「そうか。じゃあ、詐偽か何かかもしれんな。気を
つけろよ」  「大丈夫ですよ。貯金なんてありませんから」こういうやりとりが
あったんです。でもまあ、貯金がないのは本当だし、特に心配もしないまま
忘れてしまってたんです。最後の会社の仕事を終えると5時少し過ぎ、
俺は駅のコンビニで、その日の分の缶ビールを買って、まだ少し電車まで
時間があったので、駅舎の外に出て噴水のベンチで休んでたんです。
そしたら・・・背後で咳払いが聞こえました。かなりわざとらしい感じの。
振り向いたら、植え込みの後ろで老人がニコニコしていたんです。
古風な黒いコート姿でした。片手にステッキ。髪は総白で小柄でしたが、
年齢がよくわからない。というのは、その顔にはしわがなく、のっぺりと

して見えたからです。老人は前に回ってくると「突然失礼しました。私は
こういうものです」と名刺を渡してよこしたんですが、そこには
「血統調査所、主管 柏木逸郎」とあったんです。ここで課長との電話を
思い出しました。「あの、もしかして会社に電話をかけてきた方でしょうか?」
「そうです」老人は平然とそう言い、俺が名刺を返そうとするのを押しとどめて、
「いや、必要はありません。あなたのことは調べさせてもらいました。
間違いなく6部族の末裔の方です」  「6部族? 何のことです?」
このとき、俺の脳裏には不審な気持ちが雲のようにわき上がってきていた。
それを見透かしたように老人は「大丈夫です。詐欺などではありません。
といっても信じられないでしょうね。自分から私は詐欺師ですなどと名のる
ものはいない。じゃあ詐欺ではない証拠をお見せします」老人はそう言うと、

黒い革カバンから分厚い封筒を出して俺に手渡してよこしたんだ。
「何です?これ」  「まあ、中を改めてみてください」それで俺が中身を
ずらして半分ほど出すと、それ中央に留め紙のついた札束だったんだよ。
中もお札で、本もののように見えた。300万くらいか?「これは?」
と聞くと、「差し上げます。というか、本来あなたが相続するはずのお金の
一部なんです。総相続額は4億ほどになります。後日必ずお渡ししますが、
その前に2つ、質問に答えてください」  「質問? 何を?」
「そうですね、1つはあなたの左肩にアザがあるでしょう。その形をここに
書いてみてください」そう言って手帳とボールペンを出してきた。
たしかに俺の肩には子どもの頃からアザがあるが、会社でそのことを言った
ことはないはずだ。学生時代の水泳のときもサポーターで隠してたくらいだ。

何でこのじいさんは知ってるんだろう。そう疑問がふくらんだが、目の前の
300万、そしてさっき言ってた4億という言葉に押されて、手帳にアザの形を
書いてしまったんだよ。それは直径5cmほどの蜘蛛の巣のような形だった。
じいさんは「おお、これは間違いない」と言い、続けて「次の質問です。あなた、
子どもの頃から、霊感が強いと言われたことはありませんか」じつは俺、
この質問にも心あたりがあったんだよ。たしかに5,6歳の頃には、この子は
霊感が強いと周囲からよく言われたし、実際に失くし物を見つけたことも多かった。
そのことを言うと「じゃあ、間違いはありませんな。いや失礼なことをしました。
念には念を入れたかったもので」とじいさんは言い、「まだ時間が早い。そこらで
コーヒーでもどうですか。おごらせていただきます」と言ったんだよ。それから
駅のスタバでいっしょにコーヒーを飲んで電車に乗った。ただし行き先は

俺の部屋ではなく、いつもとは別の電車だった。「どこへ行くんで?」
「まあまあ、封印ですよ」  「封印??」わけがわからなかった。
「目的地に着くとみなさん待っておられます」  「「みなさん?」
「さきほど言った6部族の方ですよ」そして小1時間ほどで電車はとある駅に
着き、そこは住宅地の小さな駅だった。時間は8時を過ぎていた。駅舎を出ると、
5人の人が待っていた。男が3人、女が2人。俺を入れると6人だが、これが
6部族なのか? みな年齢も服装もバラバラで、中には小学生の男の子もいた。
じいさんは「そろいましたね。行きましょうか?」と言い、俺以外のみなが
うなずいた。「行くってどこに?」  「この先の児童公園の奥の神社にある
武者塚です。このあたりは古戦場でね。戦国時代の末には激しい戦いがあった
ようです。ただし、武者塚には問題はありません。問題はその下です」

「下に何が?」  「じつはその塚、ある古い墳墓の上に建てられているんです。
おそらく古墳時代以前に遡る古いものです。そして今夜が復活の日になっています」
「誰の?」  「その墳墓の被葬者です。宿儺族の一員ですよ」俺は呆然として
じいさんの顔を見返したが、他の5人は平然として話を聞いていた。
宿儺族って何だ? それからさらに駅前の食堂で時間をつぶし、そのときにみなが
自己紹介をした。男の子は田中ですと言い、小学4年生とつけ加えた。どうやら

親は来ていないようだった。そして10時近くに歩きで児童公園に向かった。
すっかり暗くなっており、住宅地なので途中、歩行者は見なかった。
やがて神社の境内にある武者塚をみなで取り囲んだ。塚は1,5mほどの高さの
どこにでもあるものだった。ただし、その下の土はこんもりと盛り上がっていた。
じいさんはカバンから白っぽい縄を取り出したが、それは目の荒い網、蜘蛛の巣の

ようになっていた。俺のアザと同じ形だ。じいさんが投げ上げるように

ふわりと塚の上にかぶせ、そして6人が一人ずつ6本の縄の端を握った。

じいさんが口の中でモゴモゴと呪文のようなものを唱えると、握った縄にビンと

力が入ったのが感じられた。そしてじいさんが「復活します」と言ったとたとたん、土の中から勢いよく蛸の触手のようなものが飛び出してきた。「みなさん、

縄を離さないで。力を緩めてはなりません」触手は俺の顔のほうまで

伸びてきており、もうすぐ触れそうだった。じいさんはコートをはらりと脱ぎ、

すると腰に長い剣が吊るしてあった。日本刀ではなく両刃の剣だった。

じいさんは塚の近くまで歩み寄り、剣を頭の上まで振りかぶって
塚の脇に突き立てた。その瞬間、オーンという音が頭の中に響き、剣を通された
縄は引きちぎれて俺は尻餅をついた。同時に、地上に出ていたいくつもの

 

触手はするすると引っ込もうとしたが、途中でしなびたように朽ちた。
じいさんが「終わりました」と言い、他の5人がいっせいに拍手したんで

俺も真似したんだよ。これがすべての始まりだった。

この後、宿儺族の復活を阻止する長い戦いが続いたんだよ。