これ、今から30年くらい前のことだよ。当時はまだサブスクなんてなくて、

DVDもない頃だった。VHSビデオの時代だな。しかもレンタルビデオ屋の
全盛期だった。で、その夜は俺のアパートに仲間2人が来てて、
夜の8時ころから酒飲みながらビデオを見てたんだよ。といっても
エロビデオじゃないぞ。ああ、このとき来てたやつは田中と吉村って
名前にしておくか。どっちも仮名だけどな。で、その日見てたのは
実録もので、「世界衝撃事故映像part3」ってビデオだった。田中が
そういうのが好きで、これを借りてきたのも田中だったはず。
シリーズものの3巻目だったんだと思う。どんな内容かというと、
世界でテレビ放映されたいろんな事故の映像を集めたもの。
だからやらせとかじゃなく、実際に画面の中で人が死んでるんだよ。

でな、最初は街中で車が暴走したとか、列車が脱線したとか、
スカイダイビングでパラシュートが開かず、地面に人が激突して死んだとか
そういう映像が続いた。たまたまホームビデオとして撮ってたときに
事故が起きて、そのときの映像がテレビで流されたんだろうな。
なかなかの迫力で、車に跳ね飛ばされた人が回転しながら宙を舞ってる
様子が映されたりしてた。でな、俺たちは缶ビールを飲みながら
焼き鳥をつまみにその映像を見てたんだよ。で、20分くらいして
火事の映像特集になった。高層マンションが火事になって、下の階からだんだん
上に火がまわってきて、逃げ遅れた人がベランダとかから助けを求めてる。
そして、その人たちがパラパラと下に飛び降り始める。
でも、そこはマンションの8階とかだから、絶対に助からない。

ハシゴ者なんかも救助に来てるんだが、それは届いても4階の高さくらい
までで、もう絶望的な状況なんだよ。そのとき写ってたのは南米の某国の
火事だったな。吉村が「こいつら、どうして飛び降りるんだろうな。8階だったら、
万に一つも助かるチャンスなんてないのに」それで俺が、「あれはたぶん、
ただ下の階で火が燃えてるように見えるけど、実際はマンションの中全体に
火が充満してるんだろう。だからものすごく熱い空気と有毒ガスが
背後から迫ってるんだろうな。それで助からないとわかってても、苦しさの
あまりに飛び降りてしまう。冷静な判断をする余裕がないんだろう」
「ああ」そのとき、画面はベランダにいる女の顔が大写しになった。
望遠レンズで撮ったものだろう。その女は大きな口を開けて何かを叫んだが、
当然音声は入ってない。そして次の瞬間、ベランダの手すりを乗り越えて

下に飛び降りたんだよ。そしたら、それまで黙ってビデをを見ていた田中が
「ああ、喉が乾いたな。喉が焼けるように熱い」って言ったんだ。でもよ、

手には缶ビールを持ってるんだし、変なことを言うなあとそのときは思った。
で、その田中がつと立ち上がった。「何だ、どうした?」  「便所に行ってくる」
そう言って田中は便所に入ってったんだが、すぐに戻ってきた。「やけに早いな」
で、見ると手にトイレ用の洗剤のポリ容器を持ってたんだよ。あのよくある
緑色のやつだ。そしてそれを俺たちに見せつけるように、持ったままの手を

前に伸ばした。何をするんだろうと思ってたら、田中のやつ、いきなり
キャップを開けて嬉しそうな顔をしながらそれを飲み干したんだよ。
「あ、何するんだ」当然、飲めるわけもないから、田中は途中で青色の液体を
吹き出し、くたくたと膝をついてうずくまった。

「大変だ!」ってことで救急車を呼ぶ羽目になった。見ていた俺らが事情を
説明したためか、田中はすぐに胃洗浄されてなんとか いち命はとりとめたが、
2週間近く入院することになった。・・・後になって田中に、何であんなことを
したのか聞いたんだが、全然覚えてなかったんだよ。トイレに立った記憶すら

なかった。これな、もしかしたらだけど、ビデオの中のベランダから

飛び降りた女にあのときに憑かれたんじゃないかと思うんだよ。

まあ、わかんねえけどな。そのときのビデオの残りはもう見なかった。

誰も借りないようなビデオだけど、たぶん期限までに俺が返したと思う。
あれから30年もたってるから、とっくに廃棄されてるんじゃないかな。
・・・あの手のビデオはおっかねえもんだということがわかったよ。
遊び半分で見るようなもんじゃないな。いい勉強になった。