ああ、私は米山と言いまして。地元の市役所の産業振興課にいます。
で、これ、今から話すのは、かなり長いスパンでの出来事なんです。
私が高校3年のときに始まって。私は今37歳で、去年までですから
18年前が発端ってことですね。3月のことです。当時私は地元の
国立大学に進学が決まってて、もう勉強する必要はなし。あとは
高校の卒業式を待つという状態でした。でね、毎日遊び暮らしてたんです。
といっても、まだ高校生なので酒を飲むわけではなく、いつも
同じ高校の、やはり地元の大学に進学が決まってた山田と高橋ってやつと
つるんでたんです。その日も高橋の家で夜の9時ころ、漫画読んだり
ゲームやったりしてたんです。そのときに山田が、
「何かかったるいなあ」って言い出して。「じゃあどうする?」

「うーん、ああそうだ、これから肝試しに行かねえか」  「今からかよ」
「別にいいだろ。もう大学は合格してるから、遅くなっても親は
何も言わねえよ。それに授業もないから、明日休んで寝てたっていい」
山田の言うとおりで、高校はもう授業はなくて、卒業式の練習が
ちょっとあるだけだったんです。「肝試しか、どこへ行く?」
「そうだなあ・・・ああそうだ。一ツ森公園の隅のお堂はどうだ?
各自がそれぞれ一人で行って、行ってきた証拠にケータイでお堂の
正面の写真を撮ってくるってのは」  「ああ、面白いかもな」当時は
スマホはまだ出てなくて、ここで言ってるのはガラケーのことです。
あと、一つ森公園というのは100mもない丘のてっぺんを切り開いて
草を刈ってベンチなんかを置いてあるところで、高橋の家からは

歩いて30分くらい。チャリだと10分程度で行けたんです。うちの地方は
雪は降らなくて、3月でもチャリを使ってました。「往復で30分は
かからねえよな。よし、一人ずつ出よう。その間、漫画読んで待ってようぜ」
「だな、あそこはジョギングコースがあって、街灯もあるから、暗くて
見えないことはないな。それにこの季節だから、さすがにカップルとかも
いないだろう」ここで話に出てきたお堂というのは、公園の頂上広場の隅にある
人の背丈くらいの小さいお堂で、観音開きの戸がついてました。中は見たことが
あるけど、御神体の石が浅い座布団の上にのってました。灰色のつるつるした、
あんまりありがたくないような石です。そう話が決まって、順番をTVゲームの
勝敗で決めた結果、最初が高橋、次が山田、最後が私というふうになりました。
高橋が「じゃあ、行ってくるぜ」と軽いノリでチャリで出かけ、

私たちはまた部屋に戻って漫画読んでたんです。高橋は20数分で戻ってきて、
あっという間って感じでした。「早いな」  「お堂の写真撮った」  「見せてみろよ」
高橋のケータイに残ってた画像は、フラッシュ撮影だったせいか、少しぼんやり
してましたが、あのお堂の正面が確かに写ってました。そのときは
おかしいとも怖いとも感じませんでしたね。そして次が山田の番でした。やつも
チャリで出ていきましたが、30分たっても戻ってこなかったんです。
1時間が経過して、残された私と高橋は「これはおかしい」ということになり、
2人で高橋を探しにいくことにしたんです。一本道みたいなものだから、途中で
すれ違うことはないだろうと。一ツ森公園には、急いだせいかすぐに着き、
やはり誰も人の姿はなし。「おーい、山田あ!」誰もいないのをいいことに
大声でそのあたりを叫びまわりました。高橋はジョギングコースに降りて、

そこを進んでいき、私は頂上広場をウロウロしました。そしてお堂の前にきたとき、

なんだかすごく嫌な気持ちになったんです。え、どうしたんだろう? そのとき、

突然に扉が開きました。そして中にあったのは山田の正面を向いた頭・・・
「ひえ~っ」と叫びました。その声を聞いて高橋も駆けつけてき、動けないでいる
私の肩を揺さぶりました。「首、首!」と言ってお堂を指さしましたが、扉は開いた

ままで、中にあるのは御神体の石・・・私が中に山田の首があったと言っても、
高橋は信じていない様子で、「だってこのお堂、人が入れる大きさじゃねえだろ」
そして近寄っていきましたが、お堂に変な点はなかったんです。山田は
どこにも見つからず、ケータイにかけてみても着信してるものの、誰も出ない。
「山田のやつ、どこに行ったんだ? 何でケータイに出ないんだ?」   「さあ」
でね、結論から言うと山田は見つかったんです。なんと自分の家のベッドで

寝てたんですよ。熟睡しててケータイには出られなかった。それで、後で山田に
「お前、公園に肝試しに出かけていつ家に戻ったんだよ」と聞いたんですが、
そしたら「それがよ、チャリで向かったとこまでは覚えてるが、そっからは
記憶がないんだよ。本当だよ。気がついたら朝になっていて、自分の部屋の
ベッドで寝ていたんだ」こういう答えだったんです。でも、私は疑ってました。
山田のやつ、公園に向かったものの、やっぱり怖いんで、行かないでそのまま
家に戻ったんじゃないかって。口には出しませんでしたけど。どうやら高橋も
そう思ってるようでした。でも、私があのお堂の中に山田の首を見たのは
確かだと思うんです。幻覚とは考えられないほどはっきりしてました。
でね、私の叔父さんに、そこらの小さい神社をまとめて管理している神職が
いたんです。本業は食料品店で、その仕事の合間にそこらの小さい神社や

お堂を管理してるんです。お賽銭も入りますが、修理費などの持ち出しのほうが
多く、まったくボランティアでやってたようです。その叔父さんに山田の
首をお堂の中に見たって話をしたら、「うーん、あのお堂なあ。あれは神道の
ものじゃないから、私は管理してないんだよ。なんでも、この地方に大和朝廷の
官が派遣されてくる前からあったらしくて、地元の英雄が祀られてるらしい。
管理してるのはあの公園のふもとにあるいくつかの家の人だよ。その人たちも
歳をとって、取り壊そうかって話になってるらしい」こういうふうに言ってました。
それから、私が山田の首を見たってことは何とか信じてくれたようで、
しばらく考えてましたが、「それは山田くんが将来、首に怪我をするって警告
じゃないかなあ。そう山田くんにも話しておいたほうがいいぞ」ええ、
その後、学校であった山田に話したんですが、自分で首をなでて、

「なんともないぞ、それやっぱ、お前の見間違いじゃないのか」って笑い
飛ばしてましたよ。実際、その後の大学の4年間も、山田は首に怪我したりする
こともなく、彼女をつくったりしてリア充でやってました。結局、なぜ山田が
家に戻っていて、そのことを覚えてないのか、なぜ私がお堂の中に山田の首を
見たと思ったのかは まったくわからないままでした。でね、こっから話は
去年に飛ぶんです。山田が自殺したんです。山田は親がやってた板金工場の
あとを継いだんですが、大きな借金をつくったらしいんですね。でね、ここで
山田が首を切ったとか首を吊ったとかなら、この話もオチがつくんでしょうが、
そうじゃなく薬物自殺だったんです。工場で使う薬物。山田は高校ときの
ことを覚えてたんですね。私あてに遺書が残されていて、それにはこう
書かれてたんですよ。「あのとき一ツ森公園でお前がお堂の中で俺の首を

見たって話はおぼえてるよ。だから今回、自殺するにあたって首とは関係ない
死に方を選んだ」って。じつはこのこと、私も忘れてしまってたんですけど、
山田のやつ、覚えてたんですね。それからね、あのお堂ですけど、もう10年くらい
前に、とうとうお祀りする人がいなくなって撤去されてるんですよ。
・・・わけのわからない、まとまらない話ですみませんね。今では、やっぱり
自分でも幻覚を見たんだろうと思ってますよ。みなさんはどう思われますか?