俺は高橋といって、木工の専門学校の2年生だよ。将来には
家具職人になりたいという夢があってこの学校を選んだんだ。工作は
もともと好きだったし、それに手に職があると安心だろ。
そのときは夏休みで、お盆を中心にバイトを入れてなかったから実家に
帰省してたんだよ。場所は北陸の某県だよ。けど、家にいてもヒマで、
それで高校のときの仲間に連絡した。みな県外に出てたが、5人連絡したうち
2人は俺と同じく帰省してたんだよ。そいつらも退屈していたみたいで、
さっそく集まろうって話になった。ただ、残念なことに3人とも
金がなかったんだよ。車の免許があるのも一人しかいなかった。
だから遠くに遊びにいくことはできないし、飲みにもいけない。
「あーあ、どうするんだよ。金欠3人かよ」
「みな学生だからな。金がないのはしかたないだろ」 「何かいい遊びは
ないかな」 「うーん、まさかこの歳になって虫捕りでもないよな」
「そもそも虫なんてもういねえだろ」 「あ、そうだ。肝試しとか
いいんじゃないか」 「肝試し? どっか心霊スポットとかあったっけ?」
「そうだなあ・・・行者の滝はどうだ。あそこで写真を撮ると、
かなりの高確率でオーブが写るって言われてる」 「オーブ?」
「ぼんやりした光の玉みたいなやつだよ」 「ああ」 「でも、オーブって
空気中の埃や水滴にカメラのフラッシュが反射したものだって話を
聞いたことがあるぞ。滝なんだから水滴だらけじゃねえのか」
「まあ、そうかもしれないが、何も起きないよりましだろ」
「そうだな。行ってみるか。お前、車出せるか?」 「それはいいけど、
ガソリン代は割り勘だぞ。一人千円」 「そのくらいならいいよ」
こういう会話になって、行者の滝に行くことになったんだ。そこは
市の外れに流れている渓流を遡ったとこにあって、滝の高さは2mくらいだが、
けっこう幅が広い。10m近くはあるだろう。さらに滝の後ろ側が
洞窟・・・というか、空洞になってたんだ。奥行き2mくらい岩を掘ってあった。
県の調査ではそれは人工的なもので、大昔に修験者がノミを使って掘った
ものらしかった。あと、俺は小学校のときに行ったことがあるが、
その空洞の突き当りには50cm四方くらいの穴が掘ってあった。昔はそこに
注連縄が下がっていて、お神酒や供物を捧げてたらしい。まあ、祭壇だったんだな。
「心霊スポットだから夜中に行くか?」 「まさか。それは無理だよ。
渓流の岩場だぞ。暗い中で足を滑らせたりしたら骨折するか、岩で膝とかが
パックリやられてしまうぞ」 「それは嫌だな。じゃあ明日の午後にするか。
それと、滑らない靴が必要かな」 「そんなの持ってねえよ」 「じゃあ、
スニーカーでもいいか」ということで、翌日、昼飯を食ってからまた集まった。
天気は雨ではなかったが、快晴でもない。夏らしくないどんよりした灰色の
空だった。俺たち3人は車で渓流の近くまで行き、そっから歩きで河原を
上っていった。迷うおそれはなかった。川沿いの一本道だし、そのまま行けば
滝のある大岩に出る。「怪我するなよ。気をつけろ。滑らないか確かめてから
石に足をかけるんだ」 「わかってるよ」滝には40分ほどで出た。距離にすれば
2kmくらいのものだろう。「まず正面から写真撮ろうぜ」俺たちはそれぞれ
スマホを出したが、一人だけ及川というやつがザックからデジカメを取り出した。
「お、本格的だな」 「家のやつを借りて来たんだ。これなら画像をパソコンで
見られる」で、何枚も写真を撮った。その場で見てみると結構な数のオーブが
写っていた。しかし、残念ながら怖い感じはまったくしなかった。まあ、
こんなもんなんだろうなと思った。「どうする? 滝の裏に入ってみるか?」
「えー、濡れるだろう」 「そんなの一瞬だし、せっかく来たんだから」
「そうだな」俺たちは岩を抱くようにして上り、頬に滝の水が触れるくらいの
ところまで来た。滝の下は淵になっていて、水は濃い緑色をしていた。
「お、けっこう深そうだな」 「落ちるなよ。助けられないかもしれんぞ」
俺たちは頭を下げ目をつぶって滝をくぐった。水がかかったのは一瞬だけで、
服もそれほど濡れなかった。ただ、懐中電灯を持ってこなかったのは後悔した。
中はかなり暗かったんだよ。これはその日の天気のせいもあるかもしれない。
ただ、滝の水越しに外の光は入ってきてるから、真っ暗というほどでもなかった。
せまい空洞で、壁面はボコボコしていた。ノミで削った跡なのだろう。
突然一人が「あ、あ、あれ・・・」と言って億の祭壇の穴を指さした。
「ん、ただの穴じゃねえか。中には何もないぞ」 「そうじゃなく祭壇の横」
目を移すと、人の顔くらいの高さから黒い塊が下がってたんだ。
「え、なんだこれ?」 「髪じゃないか} 「なかり長いぞ」それは祭壇の穴の
縦よりも長かったから50cm以上あったはずだ。ボサボサのつやのない髪で
中には白髪も混じっていた。「なんだ、こんなのが怖いのか」及川はそう言って
平然と近づいていき、俺も馬鹿にされたくないので続いた。見ると髪は鉄釘で
岩に打ちつけられていた。これはコンクリなど専用の硬い釘で、打つのには
相当な力がいる。「やっぱり髪だなあ」 「人間のかな」 「そうだと思う」
及川は少しビビってる俺たちを小馬鹿にしたような感じで、「こんなの怖かねえよ」
そう言って髪の下側を掴んでガッと引いて地面に落とした。「うわ、よくやるな。
気持ち悪くねえのか」 「べつに。軍手してるし、呪いなんてねえよ」及川は
そう言った。実際何も起きることはなく、そろそろ戻らないと
暗くなるということで、俺たちは帰路についた。
帰り道、車にたどりついたときに激しい雨が降ってきたが、
タッチの差で濡れることはなかった。「ラッキーだったな」 「ああ」
「やっ祟りなんてねえんだよ」それから俺たちは街に戻り、1時間ほど
俺の家でマンガを読んだりしてから解散した。その後・・・夜の8時ころに
なって及川から電話があった。「なあ、さっきの滝の写真。パソコンに入れて
拡大してみたら変なもんが写ってる」 「変なもの?」
「口で説明するより見たほうが早いだろ。今から俺の家に来いよ」
「ああ、飯はもう食ったからチャリですぐ行く」行ってみたらもう一人の
仲間も来ていて、及川はデジカメの画像をパソコンに取り込んで拡大していた。
「これ、見てみろよ」滝の前に全面オーブが写ってる。
大きいのも小さいのもあった。数は何百もあって数え切れない。
「オーブ写真だな。これ、水滴なんだろ」
「そうだと思ってたけど、オーブの中を見てみるよ。今拡大するから」
「え、なんだかわからんぞ・・・あっ!」そのオーブと呼ばれるものの中に
人間の片目があったんだよ。大きく見開かれていて、
まつげが長かったから女のものだと思った。「うわ、何だこれ。
はっきり写ってるな。見間違いとかじゃない。全部こうなのか」
「ああ、これまでに見たやつには全部写ってる。同じ目だと思う」
「うええ、怖いな。すげえ恨みがましい感じ」 「あの滝の祠の髪の毛、
引き下ろしたのはやっぱりまずかったんじゃないか」
「今さらどうしようもないよ。謝りにでも行くか」でも結局、
もう一回行こうという話は誰からも出ず。俺たちは言葉少なになって
及川の家を退散したんだよ。そして翌日のことだ。及川が死んだんだよ。
朝の8時前だったらしい。及川の実家には犬がいて、その散歩で農道を歩いてた。
見ていた人の話では、田んぼの中の道で犬が急に走り出し、リードを持ってた
及川は引っ張られて、手を話す間もなく用水路に落ちた。そしてそこには
古いポンプが設置されてて、その上に落ちた及川が金属部分で首筋を切った。
出血多量でその場で死亡。用水路の中は血で真っ赤だったらしい・・・
怖いだろ。だがまだもっと怖いことがあるんだ。その日、俺と母親が
及川の家にお悔やみに行こうと電話したが、及川は変死ということで
県立大学で解剖になってるらしかった。そして夜の11時ころ、
俺のスマホにメールが来た。出した相手はaaaaとなってた。
そのメールは短く、「オーブの中をよく見て」とだけあった。
画像が一枚添付されていて、開くと及川の家で見た
滝のオーブ写真だった。が、何か前と印象が違う。
オーブの1つを拡大してみると、ぼんやりとだが、中に及川に見える顔が
入っていて、その後ろに髪で顔が隠れて見えない女がいたんだ。
どのオーブも全部そうだった。これ、この画像どうすればいいんだろう。
削除しても消えないんだよ。どうやっても。
え? メールに返信してみろって? 絶対嫌だよそんなこと!
