bigbossmanです。今回もKさんの話をご紹介します。Kさんは実業家で、
全国で手広く商売をされてるんですが、じつは霊能者としての顔もあり、
ボランテイアで各地を飛び回っておられるんです。いつもの大阪のバーで
お話しました。「やあ、Kさん。お仕事のほうはどうですか?」 「特に
大損したということはないよ」 「まずまずってことですね」 「そうだ」
「またブログのネタに詰まってるんですよ。最近なにか解決された
事件があったら教えてもらえませんか」 「いいけど、金を取るぞ」
「えー、そんなあ」 「冗談だよ。お前・・・場所の記憶って話を知ってるか?」
「ああ、聞いたことがあります。例えば死者が出るような交通事故が
あった場合、その現場周辺のアスファルトの道路なんかが事故のことを
覚えていて、再現してしまうことがあるって話ですね」

「さすがに詳しいな。もともとはイギリスで出てきた話で、幽霊の目撃事件が
あった場合、それは故人の魂が起こしてるんじゃなく、その場所が生み出した
ものだというような内容だ。まあ、幽霊仮説の一つだな」
「実際には幽霊はいないというわけですか」 「そんな感じだな」
「Kさんはそれ、どう思うんですか」 「うーん、それだけがすべてではないと
思うが、そういう場合もあるんだろうと思わせられる出来事が最近あった」
「ぜひお聞かせください」 「俺のところに、仕事仲間の息子さんから連絡が
あった。奇妙な出来事が起きてるってな」 「どんな?」 「まあ聞け。
その人、4年前にお祖母さんを亡くしてな。80歳前後だったらしい。
父方のお祖母さんで、旦那さんはだいぶ昔に亡くなってた。で、その息子さんの
父親が、空き家になったお祖母さんの住んでた家を相続した」 「はい」

「けど、もう築50年近くなる古い家だったし、お祖母さんは地方で一人暮らし
だったから、その家、売ろうとしても買い手がつかないんだよ」
「なるほど。最近、地方では空き家で放置されてる家が問題になってますもんね」
「そうだ。相続した父親も売ろうとしたがどうにもならず、忙しさに
かまけてそのまま放置していたんだそうだ。固定資産税を払わないといけないが、
地方だから安いし」 「で?」 「ところがその父親に、その家のある市の
市役所から連絡があった」 「苦情ですか」 「それがそうでもなかった。
あの空き家、人が住んでるんですかという問い合わせだったらしい」
「でも、住んでないから空き家なんでしょう」 「ああ。もちろん人はいない。
何でそんなことを言うのか逆に質問したら、近所の人がその家の裏口付近から
家に出入りしてる人を何度か目撃してると言うんだ。これは防犯上

ほっておけないだろう」 「そうですね。悪ガキのたまり場になったり、
ホームレスが入り込んだりしてる場合もありますからね」 「うん。父親は
まったく心当たりがないと市役所に返答したんだが、近所の人が
その人物を撮ったというスマホ画像を見せられたそうだ」 「誰でした?」
「それがな、その画像がまず変だった。割烹着を着た60歳ぐらいの女性だったが、
体が半分透けてたんだ。まあ、世間一般で幽霊と言われるような画像。
で、それ、お祖母さんだと思ったそうだ。ただし、お祖母さんは80歳くらいで
亡くなったが、それより20年ほど若い。でも、やっぱり同一人物に思える」
「で?」 「でな、俺が調べにその家に行くことになったんだよ。
依頼者とその父親とで」 「はい」 「それから1週間後くらいに予定を合わせて
その地方都市に向かった。その問題の家はJRの駅から15分くらい。

木造にトタンを張ったつくりで、かなりガタがきていたな。で、外面はツタに
覆われてて、だいぶ薄気味が悪かった。家の鍵は依頼者が持ってたんだが、
玄関も裏口も鍵が閉まってたんだよ。それで玄関から中に入った。そしたら、

廊下には薄っすらとホコリが積もってて、人が出入りした様子はまったくない。

ツタは窓も覆ってたから、かなり暗かった。電気はきてないんで、懐中電灯で

中を探索した」 「はい」 「でな、最初に入った台所にも何の異常もない。
でな、居間に入ろうと襖に手をかけた瞬間、なんだか嫌~な感じがした。思い切って

引き開けると、中は真っ暗だったが、懐中電灯の光を向けると昔のちゃぶ台に

人が2人座ってたんだ。60歳くらいの爺さんと、3歳くらいの子どもを抱いた

同年代の婆さん。やはり体が透けてて、懐中電灯の光が後ろまで抜けてったから、
この世のものではないと思った」 「う、その子どもも幽霊?」

「そうだ」 「で、どうしたんですか?」 「俺はこういうときのためにポケットに
いつも輪(りん)を入れてる」 「輪というのは錫杖の先についてる金属の輪っかの

部分のことですね」 「ああ。それを空中で振り鳴らすと、三体の幽霊はスーッと

にじむように消えたよ。父親に、今の人たちに心当たりがありますか?って

聞いたら、20年ほど前、まだ旦那さんが生きてた頃の両親だって言ったんだよ」 

「ははあ」 「さらに、息子さんのほうが、あの男の子は子どもの頃の僕ですって」
「本人がそう言ったんですね」 「ああ、だからこれは場所の記憶だと思った。
その家が、まだ住人が生きていた、しかも孫が遊びに来たにぎやかな日を覚えて

いて、再現していたのだろうと」 「うーん、興味深い。で、どうしたんですか?」
「その家は解体してもらうことになった。俺の知り合いでそういうこと専門に
やってる業者がいるんだ。その人たちに頼んで」 「なるほど。解体は順調に

進んだんですか?」 「ああ、まあ特に大きな事故は起きなかったな。解体した
家の建材は再利用しないで、火力発電所に運んで全部燃やしてしまうことに
なったんだよ。その人たちの話では、炉の窓から見ていたら、木材なんかは
真っ黒な煙を出してギューッと縮んだそうだよ。家の跡は更地になったが、
やっぱり売れないそうだ」 「うーん、考えさせられる話ですねえ。
全国で増えている空き家でも、そういうことが密かに起きている家は
他にもあるかもしれないですね」 「たぶんそうだろうな。地方は特に、
過疎化が進んで、生きた人、若い人はいなくなり、そのかわりに場所の記憶だけが
どんどん溜まっていってるんだろう」 「せつない話ですね」
「まあしかたない。日本は沈みゆく国なんだよ。ただまあ、恨みを持って
亡くなった、本物の幽霊が少ないだけましじゃないかな」 「・・・」

 

※ 「場所の記憶」は漫画の『ジョジョの奇妙な冒険』にスタンドの一つ

として出てきますが、もともとはイギリスの心霊現象研究会で言い出された

もので、作者の荒木飛呂彦さんはよく心霊について研究しています。