これ、俺が大学3年生のときにやったバイトの話なんです。内容は
テレビ番組制作会社のアシスタントディレクターです。よくそんな
バイトを見つけられたなと思うかもしれませんが、卒業した先輩が
やってたのを受け継いだんです。時給はよかったですよ。今から7,8年前で
2000円くらい。ただ、仕事はキツかったです。アシスタントディレクター
なんて名前は立派だけど、ようは雑用係です。撮影のジャマだからって、
木を切り倒したり出演者の弁当を買いにいったり、何でもありなんです。
それで、これ、ある夜のバラエティ番組の一コーナーの企画で、
あの富士の青木ヶ原樹海に行ってテント泊をし、そこでこっくりさんを
やるってものでした。ただねえ・・・こっからは幻滅する人もいるかもだけど、
テレビ業界ってやらせまみれなんです。まあ、視聴者に見つかれば

非難されるけど、それもいっときのことだし、なくなることはありませんよ。
でね、このときは夏休み期間で、ミニバン2台で出かけたんです。
まずは出演者が4人。自称霊能者という50代の男の先生。大げさな
山伏のような格好でやってきてました。それから霊感タレントの18歳の
女の子。本当は霊感なんかないタレントの卵です。この子は後で
具合が悪くなるという設定でした。それから若手の漫才師が2名。
こいつらもまったく売れてないんで、テレビの仕事ということで張り切ってました。この車は俺が運転しました。もう一台は、チーフディレクター、
カメラ、照明、音声、メイクの5人。こういうロケって10人近い大人数に
なることが多いんです。でね、まずは午前の10時ころに現場に着いて、
遊歩道から樹海の中に入っていきました。

ただし、そんな遠くではありません。せいぜい数百m,遊歩道が見える場所だから
迷うおそれはありません。これは全員じゃなく下見です。タレントさんには
休んでもらってて、ディレクター、俺、カメラ、照明の4人のつもり

だったんですが、霊能者の先生がどうしても一緒に行くって言いはりまして、

ついてきたんです。ええ、下見をしないでロケすることはありません。

何か写っちゃいけないマズいものがあるかもしれないし、カメラのアングルも

確かめなくちゃなんない。それに現場の明るさも把握しておかないと・・・

テレビ番組なんてそんなもんです。ぶっつけ本番で何かをやることはありえない。

ただ、そうは見えないようにしてるだけなんです。でね、撮影予定の場所に

入った途端、霊能者の先生が急に硬直した感じになり、そのままその場で

ぐるぐると回ると、目をつむったまま一方向を指さしたんです。先生は、

「あっちに何かある。視線を感じる」って言い出しました。でも、その場の
全員で見たんだけど、何かがあるようには思えなかったんです。
俺がそっちの方角に走っていって、眼の前の木の枝をよけたとき・・・
ご対面してしまったんです。ご遺体ですよ。まだ若い女性で、亡くなって
数ヶ月くらいの様子。首を吊っていた低い枝が折れて、木の幹の前に
崩れ落ちていたんです。動物にでもやられたのか、髪の毛が半分ほど抜け落ち
頭蓋骨が見えていました。俺が立ちつくすと、他のやつらが追いついてきて、
ディレクターが「あーあ、お前、とんでもないものを見つけたな」って
言ったんです。「これ警察に通報すると、証言で半日がつぶれてしまうぞ。
そうすると日程的に厳しくなってしまう」俺はもちろん黙ってるしかなかったです。
ディレクターは続けて、霊能者に向かって「先生、ここでこの人への

ご祈祷をしてもらえませんか」霊能者は動揺した様子でしたが、「うむ、それは
できるが」そう言って、背中の箱から御幣のようなものを取り出し、祈祷の言葉を

大声で唱えながら、それを何度も振り回しました。その後、ディレクターは

その場の全員を集め「なあ・・・この仏さん、見なかったことにしないか。

ここで予定が狂うのはマズい。天気だって明日も晴れるとはかぎらんから。なあ」

って言ったんですよ。霊能者の先生は不満な様子でしたが。俺らはうなずくしか

ありませんでした。それにしても、最初に視線を感じるって言ったこの先生は

すごいなあと思ったんです。で、撮影場所はそことは反対側の場所にし、死体を

見つけたことは待機していたメンバーには黙ってたんです。そこで何カットか撮り、
やがて夜になって、出演者全員が一つのテントに入ってこっくりさんを
やることになりました。これだと、いかにも樹海の中でやってるみたいに

思うでしょ。でも違うんです。カメラはテントの中と入口の外を少し
写すだけ。じつはこっくりさんは樹海から外れたキャンプ場でやったんです。
まわりのテントには親子連れとかもいましたが、そういうのはすべてカットでした。
うーん、こっくりさんのときは特別やらせはしてませんでした。
ただ、途中でテントの外を写したとき、暗闇にぼんやりした白い影を
後でCGで入れる予定になってました。コックリさん自体は夜の11時ころに
終わったんですが、その後は全員がテントで寝るわけではなく、
霊感タレントとメイクさんの女性2人は近くの旅館に宿をとってあったんです。
その日テント2つに寝たのは漫才師2人、霊能者の先生、俺。それと
ディレクター、カメラ、照明、音声の8人です。それぞれ4人ずつに
分かれたんです。で、それから少し酒を飲んですぐに寝ました。

いや、昼に見た死体は気味が悪かったけど、テント泊が怖いとは思いませんでした。
だってすぐ隣に別のテントがあるわけだし、転んだりしないよう、
キャンプ場は十分な照明がついてたんです。で、その日のハードワークで
すぐに寝ついて夢も見なかったです。ふっと気がついたら、テントの生地ごしに
太陽の光が見えたんです。ああ、朝だな。起きなくちゃいけない。時計を見ると
5時過ぎで、他のテントのやつはまだ寝てるはず。そう思ったとき、
ザン、ザンという音が聞こえてきたんです。どうやらテントの上のほうでした。
何かが当たっている音。ザン、ザン。それは規則正しく続き、起きて確かめようかと
思ったとき、横で寝ていた霊能者の先生が「お前、起きてるよな。何か来ている。
悪いものだ。午前中に見た自殺者だろう。怒ってるんだ」そう言い、
続けて「起きて確かめよう。2人でテントの前後の入口から出るんだ」
で、先生が声をかけて同時にテントから飛び出したんです。

そのときに見たものですか・・・思い出したくもないです。テントの上の
空中から、女がロープでぶら下がってて、その足がテントの上部にあたって
ザン、ザン音をたててたんですよ。「うわっ」と思って後退りしました。

先生が気合のような声をかけ、そしたら女は空中でふっと消えたんですよ。
その後、先生がまたご祈祷を始め、その間に他のメンバーも起きてきました。
「何かあったのかあ?」とディレクターが寝ぼけた声を出したんで、
よっぽど「お前のせいだぞ」と言ってやりたくなりました。まあこんな話なんです。
その後、街に戻ってから誰かが祟られたってことはありませんでした。
で、俺、どうしたと思います? じつはね、この先生の弟子になったんです。
その力はこの一件でわかりましたから。そうして今に至るわけですが、
この他にもいろいろと不可思議な体験をしました。それはまた後で話しますよ。