今回は妖怪談義です。まず石燕の絵をごらんください。家の縁側やその下に

小鬼のような風貌の妖怪が7匹いて、柱にとりついて揺らしています。

また、槌などの道具を持っているものもいます。この「家鳴(やなり)」を

言葉どおり解釈すれば、もちろん「家が鳴ること」ですよね。

石燕のころは、ほぼすべての建物が木造家屋であり、湿度や温度の変化、

また強風などでガタピシ鳴るのは珍しくなかったでしょう。
江戸時代の夜は暗く、また人々は早寝早起きであったため、
夜中に布団の中で「ピキーン」などという音を聞けば、
「ああ、これは妖怪が家を揺らしている」などと思ったかもしれません。
しかしこれ、そう単純に考えることもできないようです。

というのは、『日本書紀』『続日本紀』にもそれらしい内容があり、
太鼓や釜がひとりでに鳴ったと書かれているんですね。
ですから、「建物の中で、だれもいないはずなのに音が聞こえる現象」
と広義に解釈される場合も多いのです。

 


石燕の描いた妖怪たちも、そっと部屋にしのびこんで、
そこにあった太鼓を叩いたりすることもできそうです。こう考えると、

家鳴は、欧米で言われる「ラップ音」とよく似た概念になります。

さて、ラップ音をWikiで見てみると、
「ラップ現象とは、誰も関与しないまま、誰もいない部屋や、何も存在しない

ように見える空間から、ある種の音が発生し鳴り響くとされる現象」
となっています。英語の「rap」は「ドンドンと叩く」という意味で、
ラップ音楽のラップと同じ語です。このラップ現象が世界的に広まったのは、
19世紀のアメリカ、「ハイズビル事件」からでした。簡単に概要を説明すると、

ハイズビルに住むフォックス家の2人の姉妹が、
夜ベッドに入ってから聞こえてくる音に興味を持ち、音を返してみたら

交信することができた。それによると、音を鳴らしているのは、
5年前にこの家に宿泊していた住人のジョン・ベルという男に殺された、
チャールズ・ロズマという名の行商人であり、地下室に埋められていると告げた。
翌日、家族で地下室を掘り返してみると、少量の骨片と毛髪、歯が出てきた。

 



それだけでは量が少なく、殺人とも何ともいえなかったが、
その後、地下室にこっそり入り込んで遊んでいた少年たちが、
壁の崩れたところから人骨がのぞいているのを発見し、調査の結果、
2重壁の中から行商人用のブリキ製の箱と、ほぼ一体分の人骨と発見された。

この後、フォックス姉妹はニューヨークを拠点として全米で降霊会を開き、
一家は、巨大な富を手に入れた。
ピーク時には、150万人を超える信者や支持者がいた
ともいわれ、彼女らはカリスマ的存在ともなった。

そんな中、ラップ音について、バッファロー薬科大学の調査結果が発表され、
「音の正体は、足首や膝の関節を鳴らしていた」と結論づけられた。
姉妹のうちの一人マーガレットが、調査のとおり、
「足の関節を鳴らしたもので、すべてはトリックであり詐欺だった」と告白。
しかし1年後、彼女はこの告白を撤回する・・・

 



この事件の真偽については、現在でもたくさんの議論があります。
ただ、これをきっかけにして、アメリカ全土で心霊ブーム、
降霊会の流行が起きたのは間違いないところです。

さてさて、ラップ音は「ポルターガイスト現象」の一つとして説明される
こともあります。ポルターガイスト現象は、単に音がなるだけではなく、
家全体が揺れたり、屋根に石が降ってきたり、ベッドが宙に浮き上がったり、
食器棚の皿が飛び出したりするものです。
世界各地でさまざまな事例が報告されていますが、原因として、

 



① 自然現象説、台風や竜巻、地震、磁気異常、寒暖の差などによる現象。
 また、上下水道のウオーターハンマーによる振動などもこれに含まれます。
② 心霊現象説、死者の霊がこれを引き起こしているとするもの。
③ 超能力説、ポルターガイスト現象では、事件の関係者に思春期の少年少女が
 いることが多いため、それらの子どもが超能力で引き起こしたとする説。
④ 詐欺、トリック、手品説・・・などがあげられています。

こうして見てくると、「家鳴」もまた、単なる「木造家屋のきしみ」
だけでは片づけられないものであるのがおわかりいただけるでしょう。

では、今回はこのへんで。