3か月ばかり前のことです。町内会の会合で公民館に行きました。
普段は仕事にかまけて、こういうのはすべて女房にまかせっきりだったんですが、
この日は女房が同窓会で出る予定でして、代わりに私が出席したんです。
むろんご近所の顔見知りの方も多いので、嫌ということはなかったんですが。
定例会ということで、たいした議題はありませんでした。
ゴミ収集所の清掃当番の確認や、春の町内一斉ボランティアなんかの話。
会は30分ほどで終って、その後に懇親会があるんですね。
会費は2000円の実費。参加者はその他に漬物なんかを持ち寄ります。
私も女房にうち作った寒天をもたされまして。それでね、議題の最後に、
小学校から依頼された町内の危険個所のリストアップがあったんです。
まあ、思い思い危険そうな場所をあげていくだけなんですけど。

ここの町内は幹線道路はありますけど、川筋ではないしため池などもないので、
危険な場所ってほとんどないんです。案の定、交差点のことしか出てきません

でしたよ。で、司会の副会長さんが「他にないでしょうか」って聞いたときに、
一人の人が「林田のスーパー奥の空き家はどうだろう。
中学生なんかのた溜まり場になったりしないかな」って言いました。
そこは知ってます。確かに空き家で、築数十年はたってるでしょうけど、
つくりもしっかりしてて、破損した部分は外からは見えないんですよね。
ガラスも割れてないし、不法侵入があるとも思えませんでした。
副会長さんも私と同じように思ったらしく、
「リストには加えますが、管理に落ち度があるということはないようなので、
特に所有者に連絡したりする必要はないでしょう」

こうおっしゃったんです。その後、飲み会が始まりまして、
私は隣に座ってた、家の裏の通りに住んでる高見さんって方と話してました。
で、30分ほどして話題が尽きかけたときに、高見さんが、
「そういえばさっき、林田の空き家の件が出てましたよね。 
私は別にあそこの家とはなんの関係もないし、変な話だと思われるでしょうし、
自分でもなぜだかわからないんですが、
ごくたまにあそこの家の夢を見ることがあるんですよ」
「はああ、どんな夢でしょう」
「それがね、私があの家の門の中、ぼうぼうの庭に立ってて、
玄関から家の中に入っていくんです。いや、鍵で戸を開けるわけじゃありせん。
夢だからでしょうけど、スーッとね通りぬけるみたいに。

それで、仏間に立ってるんです。大きな仏壇があって、鴨居に遺影のある。
いや、むろん入ったことがあるわけじゃなし、夢の中での私の想像なんでしょが。
でね、その部屋の中央の黄ばんだ畳に立っていると、
急にガクンという感じで両足が沈むんです。畳に足がめり込むと言えばいい

でしょうか。そして部屋の中をそのまま歩き回るんです。そうですね、
身長が50cm以上縮んだ状態で。小さい子供の目線になってるわけです。
まるで畳が水面みたいって言えばわかってもらえるでしょうか。
ただグルグル部屋を回ってるだけでね、夢の中なのに時間が長く感じられるんです」
おかしな夢もあるものだなあ、って思いました。だってね、夢っていうのは普通は、
自分の生活にどこか関係のあるものを見るもんでしょう。
ここまで聞いたとき、「奇妙な話があるもんだ」と声をかけられました。

座を移動していた御井さんっていう、町会の監査役をやってる人です。
「今、何気なく聞いてて驚いた。じつは自分もそれとほとんど同じ夢を見るんだ。
年に一度あるくらいだけどね。仏間で畳に足が沈んで、

そのまま部屋の中を歩いてる。同んなじだよ。ああ、その後目が

覚めたときに足が痛くないか」これは高見さんに言った言葉です。
「ある、ありますよ。両足首が痛むんです。くるぶしの少し上あたり。すぐに

治まるんですけど、けっこうな痛さで、痛風かと思って病院にも行きましたよ」
「それも同じだ」・・・ねえ、不思議でしょう。
同じ町内とはいえ、普段顔を合わせてるわけでもない人同じ内容の夢を見る。
目覚めた後に足が痛くなるのも同じ。
それも一度も入ったことのない、関係ない空き家ですよ。

あまり不思議なので、女房が帰ってきてから話したんです。
そしたら女房のやつ、どう言ったと思います。ああ、よくわかりますね。
「自分も同じ夢を見る、1年に1度という頻度も同じくらいだし、
やっぱり両足首が痛くなる」ってね。
さらにつけ加えて、「仏壇の部屋を歩き回ってるときに、かすかに小さく、
子どもの鳴き声が聞こえている。男か女かわからないけど、赤ちゃんじゃない。 
ある程度大きくなった子ども。
歩いているうちにその声が入り込んでくる感じで、
すごく悲しくなる」どう解釈すればいいかわかりませんでした。
夢を見るのはきまって春3月で、聞かなかったんですけど、もしかしたら、
御井さん、高見さんも同じ時期だったのかもしれません。

あとですね、じつは私は婿養子でして、女房はもちろん、
高見さん、御井さんは子どものころからずっとこの地区にいる人です。
それも関係があるのかなと思ったりもしました。
で、ですね。今月に入って、12日のことなんですが、
寝ていた女房が大声をあげてまして、私はまだ起きてたので急いで寝室に入ると、
女房がベッドに足をのばして起きてて、
「あの夢を見た。歩いている最中に足を引っ張られた。痛い」って。
見ると両足首のくるぶしの上に、赤い線がぐるっとついてたんです。
痛みが治まるまで1時間はかかりましたよ。
・・・こっからは聞いた話です。
ちょうどこの日、林田の空き家に高校生3人が侵入したんです。

物取りでも、肝試しでもなく、中でタバコ吸ったり酒飲んだりしたかった

みたいです。まだ外は寒いですからね。で、ガムテープを貼ってベランダの

ガラス戸を割り、懐中電灯を持って家の中に入って行った。
まあ、そこで何があったのかはわかりませんが、
3人がほうほうの体で逃げ出してきたときには、3人とも両足首、
たぶん妻と同じ所じゃないかと思いますが、そこが傷ついて血を流してた。
一人なんかは左足が皮一枚でつながった状態で、
病院で緊急手術をしましたが、骨も神経も切れているため、ついても

動かないだろうということでした。傷害事件として警察の捜査になったんです。
空き家の所有者は若い夫婦で、遠く離れた県にいてすぐには来られない。
了解をとって町会さんが立ち会って中を調べました。

でね、夢に出てくる仏間、畳の部屋があったそうなんです。畳はぶすぶすに

腐ってて、高校生らが踏み抜いた穴があちこちに空いてたそうです。
高校生らは人の姿は見てない。でもね、警察は事故とは見なかったようで。
そりゃそうですよね。畳を踏み抜いたくらいで足が切断されるわけはない。
何者かが床下に潜んでいて、高校生らの足に鉈かなんかで切りつけた、そう考える

しかない状況だったようです。それで畳と床板をはがして、その下を調べました。
そしたら・・・足を切断した生徒が空けた穴の下あたりに、6歳くらいの男の子の、
古ぼけた革靴が一足そろった状態で発見され、高校生の血が大量にかかってました。
中には靴の持ち主だろうと思われる子どもの、両足首から下の骨が入ってたんだ

そうです。骨は古いもので、20年以上はたっているらしいです。
床下の土には、人が潜んでいた痕跡はまるでなかったそうですよ。