今回はこういうお題でいきます。『霊幻道士』第1作は、
1985年公開の香港映画。ここでは、この映画から、中国における
道教の認識をみていきたいと思います。

ただし、この当時は中国といっても、香港はイギリスに租借された
状態であったので、厳密にはイギリス映画と言うべきなのかもしれません。
さて、この時代、中国本土では古代からの道教は壊滅的な状況に
ありました。ご存知のように、毛沢東の行った文化大革命により、
古典的な知識は前近代的として弾圧され、失われてしまったからです。

ですから、それが及ばなかった香港のほうにむしろよく残っていたと
言えるでしょう。ここでいう道教とは、風水や拳法、民間信仰、医術、

老荘思想なども含む総合的なものです。

 



まず、キョンシー(僵尸)とは、中国版ゾンビ、動く死体のことです。
中国では、キョンシーになる原因はさまざまあります。例えば干ばつで
死んだ遺体はキョンシーになるなどとも言われますが、この場合は
風水によるものです。

日本で風水というと、家の玄関に水槽を置くなど、家相学と混同されて
しまっていますが、もともとは『葬書』からきています。
これは先祖の祀り方を説いた書で、墓の形や場所などを示したものです。
中国では、先祖の祀りはたいへんに重視され、そのよし悪しによって
現在の家族の生活にも影響が出ると考えられていました。

キョンシーが発生した原因は、映画では主人公の父が
生前に大きな恨みを買っており、風水的にわざと誤った方法で埋葬
されていたためにキョンシーになったことになっています。
そこで依頼を受けた道士が封印しようとするんですが、
弟子のミスによってキョンシーが発生してしまいます。

 



キョンシーから身を守るには、まずキョンシーは生きた人間の息を
感じて襲ってくるため、息を止めることで察知されないように
なります。目は見えてないようです。

 

また、キョンシーに傷つけられた場合はその人もキョンシーになって
しまいます。ここらもゾンビと同じですが、傷にゆで卵や蒸す前の
生のもち米をあてることによって、症状を緩和することができます。

さらにキョンシーを退治するには、額に御札を貼って動きを止める。
その上でバラバラにするか、日光にあてます。すると溶けていきます。
また、火葬は中国では昔は一般的ではありませんでしたが、
キョンシーにかぎっては動きを止めた後に火で焼きます。

 


なりたてのキョンシーは体が硬直しており、手を前に出して
飛び跳ねるように動きますが、硬直が解けるにしたがって
普通に動けるようになり、走ったりもできます。

キョンシーを撃退するには、直径9寸(24cmくらい)以上の鏡を
見せる。男児の尿、黒い体毛の犬や雌鶏の血、生のもち米をかける。
伝承では、米の他に赤豆、鉄が使われます。血は黒犬や黒い鶏以外の
ものを使うと、血の味を覚えてかえって狂暴化します。これらの方法は
かなり古い文献に出てきています。

キョンシーと戦うには、桃の木で作った剣(桃剣)、清めた銭で作った剣
(銭剣)によって物理的なダメージを与えます。体はミイラ化して
いるので、キョンシーは痛くはないし血も出ないと思われますが、
体を損壊させるのは比較的容易です。

 



キョンシーに貼る御札は以下のようなものですが、「勅令随身保命」
書いてあります。「勅令」は天帝の命令、「陏身」はつき従うこと、
「保命」は生命を与える、つまり「ありがたい命令により生命を
与えるからつき従え」みたい意味になります。

 

つまり動きを止めるものではなく、術者の道士のいうことを聞かせる

ためのものです。もともとキョンシーの術は、戦死者の死体を自分で

歩かせて故郷へ帰すためのものだったんです。

また「勅令大将軍到此」というのもあります。映画ではこっちのほうが

使われていましたね。「怖い大将軍様がもうすぐここに来るので、

動かないで待っていろ」くらいの意味です。
おそらくこの2種を使い分けていたと思われます。

 



さてさて、ということで、キョンシーは現代の中国映画的には
どうなんでしょうね。たしか幽霊を映画に出すのは共産党が禁止して
いたはずですが、どうするのか? では、今回はこのへんで。