和子は10歳。姉様といっしょに夕暮れの道を歩いていた。
冴え冴えと青い月がもう出ていた。姉様は14歳。2人で村はずれにある
親族の家に遊びに行ったのだが、同じ年頃のいとこたちと
遊ぶのが楽しくてすっかり遅くなった。
2人で一列になって土手の道を歩いていた。
和子の手には、みやげ物のいなり寿司の包み。
不意に和子は後ろから首筋をくすぐられた。指ではない柔らかいものだ。
はっとして振り向くと、「これだよ」姉様は言った。
手に枯れかけた猫じゃらしを持っていた。
「姉様、やめてくれろ。驚くやけ」と和子は言った。
姉様はにっこりと笑った。
そのとき、月が雲に隠れてあたりが暗くなった。
「姉様、怖い!」和子がもう一度後ろをふり向くと、
そこに姉様の姿はなくなっていた。和子はあっと思った、
不意に思い出した。自分は10歳ではなく13歳なのだと。
そして昨年嫁に行った姉様は、先月、流行病で亡くなったことも。
和子はうろたえた。今のは何だったのだろう。
歩きながら夢を見ていたのだろうか。
やさしかった姉様恋しさのあまりに。
そのとき遠くでケーンという鳴き声が聞こえた。狐だろうか。
おびえて周囲を見回した和子は、目の端で青い月をとらえた。
中に姉様の顔があった。・・・いなり寿司の包みはなくなっていた。
