高校2年生です。サッカー部に入ってました。2ヶ月前、部の大学生コーチの
山田さんの車で、休みの日にドライブに連れてってもらったんです。
行ったのは、俺とあと2年の部員2人です。行った先は○○県にある
廃墟になったテーマパークでした。山田さんがそういうの好きなんですよ。
それに、廃墟ならお金かからないですからね。車で2時間くらいでした。
日曜でしたけど、俺ら以外は誰も来てなかったです。
中へは、柵をこえて簡単に入れました。つぶれてから10年くらいになるの
かなあ。撤去する気もないらしくて、観覧車もコーヒーカップも
そのまま残ってました。山田さんはあちこちバシバシ写真を撮ってましたね。
ぐるっとひと回りしましたけど、おかしなことはなかったです。ただ、
その日は天気よかったですが、人のいない遊園地の廃墟はやっぱり不気味でした。

で、最後に、ミラーハウスに入ったんです。
ほら、たくさん鏡があって、通路を錯覚してしまうアトラクションです。
でも、鏡はほとんど割られてて、破片が散らばってて危険でした。
スニーカーで来てたので、ガラスを踏み抜けばケガしますよね。
それで、もう飯食いに行こうってなったんですが、俺が最後に出ようとしたとき、
奥のほうで何かがちらっと動いたんです。「え?」と思って見にいきました。
そしたら、1枚だけ割れないでいる鏡があったんです。ああ、これに
俺が映ってただけか、そう思って、鏡に向かって手を上げてみました。
そしたら、鏡の中の俺も手を上げたんだけど、何かおかしかったんです。
「ええ?」近寄っていきました。鏡がゆがんでて変に見えたのかと思って。
1mくらいまで近づくと、たしかに黄色いTシャツを着てる俺なんですが、

ニヤニヤ笑ってたんですよ。「え、俺笑ってねえよな」そう思ったとき、
急に体が動かなくなったんです。金縛り? いやでも、俺立ってたんですよ。
鏡の中の俺が、両手で自分のほっぺたを両側から引っぱりながら出てきて、
俺の横に来たんです。そして「あああ、久しぶりに外界に出た。
ちょっと借りるからな」そう言って、スタスタ歩いて出てったんです。
どう考えても信じられない話ですよね。俺は体が動かなくて、
でもミラーハウスの中は暑いので、汗がダラダラ出てきました。
そうして、どのくらいかなあ、20分は固まってたと思うんですけど、
急に体が動くようになったんです。走ってミラーハウスの外に出て、
山田さんが車を停めてたとこまで行ったら、車がなかったんです。置いてかれた
と思ったら、急に背筋がぞくぞくっとなって、たまらなく怖くなりました。

スマホ持ってきてたので、山田さんは運転中だろうから、
仲間の一人にかけてみました。しばらくして出たので、「○○だ、まだパークにいる
から来てくれ」って言ったんです。そしたらそいつは、「え、だってお前、
車乗ってるだろ・・・あっ?!」 「どうした?」
「たった今消えた、さっきまでしゃべってたのに」 「どうしてかわからんけど、
そいつ偽物なんだよ、鏡の中から出てきた」 「んなバカな」
「パークの入口にいるから、山田さんに言って戻ってきてくれ」 「・・・・」
それから20分くらいして、山田さんの車が来てくれたんです。
山田さんは「わけわからん。たしかにさっきお前乗ってたんだよ。
それが、△△のスマホに電話が入った途端に消えたらしい。いや、その瞬間は
俺は見てないんだが、走ってる車から飛び降りられるわけもないし」

それから、あらためて街に戻ったんです。そのときに、ミラーハウスの鏡の中から
もう一人の俺が出てきて、体が動かなくなって入れ替わった話をしたんです。
山田さんは運転しながら首を傾げて、「でもなあ、お前そのものだったんだけどな。
着てるものも同じだったし、ずっとサッカーのことをしゃべってたぞ。
ロナウドがどうしたとか」他のやつらも、「すごい早口で、うるさいくらい
えんえんと世界のサッカーのことを一人でしゃべってた」
こんなことを言ってました。わけがわからないですよね。でもまあ、そのときは

それで終わり、何事もなく1ヶ月が過ぎたんです。でね、先月のことです。

サッカーの県の予選で、俺らのチームは準決勝の試合でした。
俺はまだ2年で、スタメンじゃなくベンチだったんですけど。その日は、
チャリで学校へ行ってから、チーム全員、バスで試合場へ行く予定でした。

で、朝早く起きて家の洗面所で歯を磨いてたんです。そしたら・・・
俺は歯ブラシを咥えてるのに、鏡の中の俺がべっと歯ブラシを吐き出して、
それから俺に向かって指を突き出し、「また借りるから、お前は寝てろ」
って言ったんです。いや、それ俺の声そのものだったと思います。
で、俺はその命令にしたがわなきゃいけないと思ってしまって、
そのままフラフラと自分の部屋に戻り、ベッドに潜り込んじゃったんです。
これね、後で家族に聞いたら、普通に朝飯を食べてチャリで出かけたって
言うんですよ。そっから俺はずっと寝てたんです。起きたのは夕方でした。
枕元に置いてたスマホが鳴ったんです。ダルかったんですが、出てみると
山田さんでした。すごい剣幕で、「○○お前、今どこにいるんだ」って。
「家にいます、ずっと寝てました」って答えると、

「・・・本当なのか? いや、こないだのことがあったから本当かもしれんが、
とにかく学校に来い」こう言われたんです。
家族は仕事に出てて誰もおらず、チャリもなくなってました。
しかたなく歩いて学校まで行ったんです。道々、何があったかを山田さんから
スマホで聞きました。試合が始まって、ベンチにいる俺は出たくてたまらない

様子で、ずっと体を動かしてアップしてたんだそうです。そして後半終了間際、
スコアが0ー0のときに3年生の先輩がケガをし、
監督が、俺がはりきってるのを見て試合に出したんだそうです。俺は交代するや、

ものすごい勢いで動き回り、パスを受けるとそのままドリブルして、
相手の選手を何人もかわしてゴールを決めた。チームは勝ったんです。
・・・そこまではよかったんですが、終了の笛が鳴ってみんながよろこんでると、

俺はピッチの真ん中でサッカーパンツを脱ぎ、フルチンになって芝生に小便をし、
そのまま観客席に走り込んでどっかに消えちゃったってことで・・・
だから試合には勝ったものの、監督はカンカンで、
県のサッカー連盟からもチームが注意をうけたみたいなんです。
はい、学校に着いたらみんな戻ってきてて、俺を白い目で見ました。
監督はまだすごく怒ってて、「わけを説明しろ」って言われたので、
「それ、俺そっくりだけど俺じゃないんです」って話したんです。
でも、信じてもらえませんでした。まあそうですよねえ。
説明の途中で、助けを求めるように山田さんやテーマパークに行ったときの
仲間をチラ見したしたんですが、誰も何も言ってくれなくて。
で、どうなったかっていうと、俺はあちこちいろんなところで

謝らされたあげく、強制退部になっちゃったんです。
チームの勝ちは取り消されなかったんですけどね。後で山田さんが俺のとこに来て、
「こないだのことがあったから俺は信じる。けどな、見てない監督がそんなこと
信じるわけがないと思ったから黙ってたんだ。すまんな」
こんな話をしてくれました。・・・まあ、退部になったことはいいです。
そんなサッカーに賭けてたわけでもなかったし。でも、試合場で小便した
って話は学校中に広まっちゃったし、家族も学校に呼ばれました。
今度の職員会議で俺の処分が決まるんですが、たぶん停学だと思います。
チャリも見つかってません。もう散々ですよ。それとね、あのもう一人の俺、
まだ鏡の中にいるんじゃないかと思うんです。
また入れ替わられたらどうすればいいんでしょう。

小便ですめばいいけど、もっと大変なことをされたら。
え、まず鏡を絶対に見ないようにしろって。・・・でも、家の鏡は見ないように
できても、ガラスとかそういうのに映るのはどうしようもなくないですか。
それに、外に行けばトイレとかあちこちに鏡があるし。
え、もう一人の俺もやっぱり俺の一部で、潜在意識にテーマパークのもののけが
とり憑いて動かしてるって? そう言われると、あれ以来何もしてないのに、
毎日すごく疲れるんです。どうすれば元に戻るんですか?
もう一度テーマパークのミラーハウスに行って儀式をやる・・・
わかりました。なんとかお願いします。
いや、ここに相談に来てほんとによかったです。
とにかく次に何が起きるか、気が気じゃないんですよ。