去年1月から東アフリカを飛び立ったサバクトビバッタは、
中東、インド、パキスタンに既に甚大な被害をもたらし、次は
中国の農作物を食べ尽くすために大群で襲来する可能性がある
という。そこで中国政府は、水際でバッタの襲来を止めるため、

駆除専門家チームを結成してパキスタンに送り込み、さらに
10万羽のアヒル軍をパキスタンに派遣して蝗害に備えるという
ニュースが、海外メディア各紙で報道された。だがどうやら、
アヒル軍のパキスタンへの派遣はなさそうだ。(COURIIER)


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今回はこういうお題でいきます。うーん、蝗害(こうがい)ね。
何から書いていきましょうか。古代中国では、民を苦しめる
3つの大災厄があり、それは、黄河の氾濫、大旱魃、
蝗害でした。中国の天命思想では、ときの皇帝の徳が低い場合、
これらの災害が起きるとされていました。

蝗という字は「虫へんに皇」で、人間の皇帝によって治められる
べきものであるとして、この字ができたという説があります。
それが正しいのかはよくわかりませんが、
実際問題として、蝗害が起きてしまったら人間の力では
食い止めるのは不可能ですよね。

『墨攻』の虫使い


黄河の氾濫に対しては治水工事、旱魃と蝗害は国庫を開いて、
民衆に食糧援助をするくらいしかできなかったでしょう。
蝗害が起きた記録は、古く殷代の甲骨文字にも見られ、
くり返し中国大陸を襲っています。これは上記のような
考えから、詳細に記録が取られていたんです。

さて、唐の第2代皇帝、太宗(李世民)は、貞観の治を
行った中国歴代皇帝の中でも屈指の名君として知られていますが、
こんなエピソードが残っています。貞観2年(628年)、
旱魃が起き、それとともに西域に蝗が大発生して各地を
食い荒らし、ついに唐の都長安にまで到達しました。

サバクトビバッタ 群生相になっています
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長安は中国大陸のちょうど中央あたりにありますから、
かなりの勢いだったんでしょう。太宗が宮殿の庭に出ると、
そこにもおびただしい数の蝗が飛来しており、太宗は、
そのうちの数匹を拾い上げ、それらに話しかけたとされます。

「民の大切な穀物を食べ尽くしてしまうと、どれほどの害を
与えてしまうだろう。民に何か落ち度があったなら、
罪は皇帝である私にある。できるならば、民の穀物を食べる
かわりに私の内臓を食べてくれ。」と、側近が止めるのもきかず
何匹かを口に入れて飲み込んだんですね。

唐太宗
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そのおかげか、蝗害は消滅したと伝えられます。うーん、    
聖人伝説みたいなもので史実かどうかは疑わしいですが、
正史である『旧唐書』にも記載されていますので、
何かしらの事実はあったのかもしれません。

さて、ここからは生物学的に見ていきましょう。蝗害を起こすのは、
トビバッタ、ワタリバッタなどのトノサマバッタの仲間で、
日本でいうイナゴとは違います。これらのバッタは、
「相転移」という生物学的な現象を起こすことが知られています。

バッタの孤独相と群生相
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これらのバッタの仲間で、緑の色をしたものが孤独相、
黒っぽい色が群生相と言われ、その中間が転移相です。
孤独相のバッタが幼虫のとき、まわりに仲間がいなければ
そのままですが、多い場合は、体がぶつかり合うことで
転移相に変化します。ホルモンの影響みたいです。

で、その転移相のバッタが何世代かの繁殖をくり返し、
群生相が現れます。ということは、群生相のバッタが生まれる
ときには、数がひじょうに増えているということになりますね。
そうすると一ヶ所で生きていくのは不可能なので、
いっせいに餌を探して飛び立つわけです。

これがどのくらいの群れになるかというと、近代の例では、
1870年代に、アメリカ、ネブラスカ州を襲った
ロッキートビバッタの群れは、幅160km、長さ500km、
平均高さ800m、場所によっては1600mあったと
報告されています。うーん、すごい。

『エクソシスト2』悪魔パズズの象徴であるイナゴの群れ
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では、日本ではどうだったかというと、そもそも日本列島は
山地が多く、そこまで大規模なバッタの群れは発生できません。
日本で蝗害と言われる場合は、トビバッタよりも小型の
イナゴによるものがほとんどで、北海道をのぞいて、
大被害があったというほどでもないようです。

さて、蝗害をあつかった作品というと、まず思い浮かぶのが
『エクソシスト2』ですが、ホラーよりもSF色の強い、
難しい内容の映画でした。第一作で、2人の神父の殉職により
撃退された悪魔パズズが、ふたたび少女リーガンの体に
入り込もうとしている。

それを阻止しようとした神父は、かつてイナゴに乗り移った
パズズに取り憑かれ、悪魔祓いによって救われたアフリカ人の
少年コクモが、イナゴの研究者になっていることを知る。コクモは
品種改良によって、凶暴化を防ぐことができる「よいイナゴ」を
繁殖させていました。ストーリーの最後で、神父はパズズを

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倒すためにリーガンの家に乗り込み、コクモはそれを助けるべく
アフリカからよいイナゴの大群を飛ばします。そして、自身も
よいイナゴになっていたリーガンと力を合わせ、ついに悪魔パズズは
滅ぼされるんですね。これだけの内容を一本の映画に詰め込んだため、
一般観客には内容を消化するのが難しかったと思います。

さてさて、ということで、蝗害についてみてきましたが、
さすがにアヒル部隊というのはフェイクニュースでしょう。
10万羽のアヒルの管理は大変でしょうし、今は高性能の殺虫剤が
ありますからね。では、今回はこのへんで。

アヒル部隊?
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