今回はこういうお題でいきます。youtubeなどでも錬金術の解説を
しているチャンネルがあるんですが、ほとんどが細かな錬金術の
方法論にこだわっていて、最も大切なことを解説してないんですね。

ですからここで錬金術の最大の目的を明らかにしておきたいと思います。
じつはこれ、ヨ-ロッパの強固な身分制度と深い関係があるんです。
表向きの錬金術の目的は、・卑金属から金などの貴金属を作り出すこと
それと、・永遠の生命を得ること この2つだと思っている人が多く、
解説にもそう書かれてる場合が多いんですが、それはあくまで
表向きのものです。

ここで、簡単に錬金術の歴史を振り返ると、もとになっているのは
古代ギリシアで発達したアリストテレスなどの自然哲学です。それが
古代ローマに受け継がれたんですが、4世紀に入って、ローマ帝国は
キリスト教を公認しました。

 



これにより、世界はすべて聖書に書かれているとおりのものされ、
科学的な思考は異端となってしまったんです。研究することも
許されず、ヨーロッパは暗黒時代に入ってしまいました。

では、錬金術がヨーロッパにもたらされたのは何がきっかけかというと、
11世紀から始まる十字軍遠征です。この遠征はキリスト教側の負け続きで、

成功したとは言い難いんですが、ここでヨーロッパ人は
地中海沿岸のオリエント世界に残され、研究され続けていた古代ギリシアの
自然哲学や天文学、数学などを再発見します。イスラム教では

これらの研究は禁止されてなかったんです。

その知識が、十字軍帰りの兵士らによってもたらされたんですね。
このとき、錬金術という概念もヨーロッパに渡ってきました。
これらの知識は、中世のヨーロッパでは驚くべきものとして
とらえられ、あっという間に広まっていったんです。

 

十字軍遠征



で、当時のヨーロッパには王侯貴族による社交界があり、庶民は
いくら金持ちの商人でも、頭のいい者でもその輪の中に入れなかったんですが、
例外がありました。それが新たな知識を身につけた学者です。
医師、天文学者、錬金術師などなど。

ただし、学者といっても、この当時に体系だった学問があったわけでは
ありません。ですから、その研究する内容もずいぶん怪しいものが

多かったんです。魔女狩りや動物の裁判、武器軟膏(ケガをさせた刃物に

軟膏を塗れば傷が治る)など、現代の目から見ればありえない

ようなことが平然と行なわれていた時代でした。

でも、身分が高い貴族であることと、聡明な判断力を持っていることは
必ずしも一致しません。王侯貴族の中には、疑似医療行為を行う者や
錬金術師に騙され、それらがサロンに入ることを許す者が出てきたんです。

 

中世ヨーロッパで行なわれた動物の裁判、植物を殺人犯にした例もあり



王室おかかえの天文学者、錬金術師、医師などです。つまりこの当時、
それらの知識を身につけることは、身分の差を一気に縮める格好の手段
だったんですね。では、はたして錬金術師は本当に卑金属から貴金属を

作ることができると考えていたのか?

 

もちろんそう考えていた者がいなかったわけではありません。
しかし、金を作り出す実験はすべてが失敗に終わり、錬金術師の中でも
聡明な者は、それが不可能であることを知っていました。
14世紀にはすでに、錬金術師が使う様々なイカサマの手口を

解説した本が出版されているくらいなんです。

 



で、この時代の錬金術師は「魔導書 グリモワール」と呼ばれる本を
自分で書き記しました。そしてそれを古代から伝わる叡智が書かれた本の

発見として喧伝したわけです。目的はもちろん、高い金で王侯貴族に

買わせるためです。現在発見されている魔導書のほとんどがそうです。

欲にかられた王侯貴族は、もし金を作り出せるなら莫大な富を得られると
考えたわけですが、結局そうはならず、損をしただけに終わりました。
つまり、錬金術の隠された裏の目的は、
・王侯貴族を騙して金儲けすること だったんです。

さてさて、自分はヨーロッパの詐欺師、山師(アバンチェリエ)を

研究していて、ここに書いた内容については詳しいんですが、

日本では誤解されてるんですね。錬金術が神秘の秘術であった、

みたいな感じにです。でも、それは間違いなんですね。

 

グリモワール(魔導書)



かの万有引力を発見したアイザック・ニュートンも錬金術をひっちゃきに
研究していましたが、結局、金はできないとあきらめています。ですから、

表の目的で錬金術研究に入った者も、いつしか王侯貴族に取り入って
金儲けすることが目的に変わっていったんです。よろしいでしょうか。
では、今回はこのへんで。