今回はこういうお題でいきます。SF映画のお話です。SFでは、以前に
ワープの話を書きましたが、ワープは不可能だという世界観の作品も
あります。その場合、宇宙船は目的地まで行くのに、何十年、何百年と
かかってしまい、クルーは途中で老衰死してしまいますね。

そこで、クルーの体温を強制的に下げて人工冬眠状態を作り、長期間の旅が
できるようにするわけです。その間、宇宙船はAIやアンドロイドが操縦し、
メインテナンスも行います。もし何か故障が起きたとしても、

自己修復できる機能を持っているんです。

で、このコールドスリープ、じつは和製英語なんです。英語圏の国で言っても
通じないと思われます。向こうではハイパーネーション(hibernation)と
言うのかな。で、これにはいくつもの種類があるんですね。

 



まずは、冷凍の段階。それほど低温にはせず、ある程度意識を保ちながら、
何回も目覚めつつ目的地に向かうケース。これは目的地が比較的近い
場合でないとできないでしょう。次が、完全に冬眠させるケースで、
『エイリアン』のシリーズに出てくるコールドスリープがこれでしたね。
目覚めた人は胃の内容物をゲロゲロ吐くのがお約束です。

さらには、人体を凍らせてしまうケースで、これだとその人は死んでしまうと
考えられ、それを再び蘇らせるための超技術が必要になってきます。
ですから、ワープと同じく現在の科学では無理なんですね。

これらのケースで問題になるのは、冷凍によって細胞膜が壊れてしまうことです。
人間の体は、約60%が水分とされ、それは体の細胞の一つ一つに
満たされていますが、凍らせると水分は膨張し、細胞膜を破壊してしまいます。
これを修復する手段は今のところないんですよね。イメージとしてはパンクした
風船を元通りにするような感じです。

 



あとは、コールドスリープ中の栄養補給の問題、精神面を正常に保つための
問題、関節の柔軟性を保つための問題とか、いろいろなことが考えられます。
これらのことを総合すると、コールドスリープは超光速航行と同様に
まず不可能であるだろうと思われます。

あと、コールドではありませんが、もう一つ、停滞フィールド (stasis) と
呼ばれる技術がSFには出てきます。これは、クルーがカプセル内に入る
ところまではコールドスリープと同じですが、冷凍はせず、そのかわり、
カプセル内の時間を止めるというものなんです。

あれ、これどっかで聞いたことがあります。漫画の『ジョジョの奇妙な冒険』
第3部に出てくるスタンド、ザ・ワールドにそっくりですよね。あのように
時間が止まった状態がかなり長く続いているわけです。

 

パンドラムの怪物



うーん、しかしこれも、技術的な難易度は相当高いでしょう。それに、
時空をいじることができるのであれば、ワープ航法もできてしまいそうな
気がします。SFならではの発想なんですね。

さて、表題の『パンドラム』というのは、2009年のドイツ・アメリカの
合作映画。プロデュースのポール・W・S・アンダーソンは、前にご紹介した
『イベント・ホライゾン』や『バイオハザード』のシリーズを作った人で、
かなりのSF好きのようです。

内容はコールドスリープを扱ったSFホラーで、ストーリーは、宇宙船エリジウム
が5000人の人間を乗せてコールドスリープをさせていたはずだったが、
主人公がその中で目覚めると、他のクルーの姿が全く見えない。

 



わけがわからないでいると、謎の美女や怪物に襲われる・・・といったもので、
パンドラムとは、コールドスリープや宇宙航行の孤独の中で発症する
病気の名前なんです。あと、怪物の正体ははっきりとは明らかにされて
ないものの、主人公は「長期睡眠中に摂取した薬品の副作用で突然変異した
乗員たちの子孫ではないか」と推測しています。

さてさて、ということで、コールドスリープの可能性の記述が多く、
『パンドラム』の内容にはあまり触れることができませんでしたが、
SF的なアイデアが多数登場する映画という印象を受けました。

 

ただ、それらが統一的に使用されておらず、全体的にはハチャメチャな印象に

なっていました。ポール・アンダーソンの映画って、こういう傾向が

強いんですよね。それもまた個性というべきでしょうか。

では、今回はこのへんで。