中2の夏休みのことです。うちの家族・・・両親と自分と小5の妹、
それから父の会社の同僚の木田さんの家族とで、オートキャンプに
行ったんです。場所は・・・滋賀県のほうって言えばわかるでしょうか。
キャンプ地としてよりも、スキー場のほうが有名かもしれないです。
あんまり大きなとこではなかったですけど、自然には恵まれてましたよ。
父はそのころアウトドアにこってまして、
ハイエースを改造したキャンピングカーを買ったばかりだったんです。
それで休みがとれたらキャンプに行くぞって張り切ってたんですけど、
自分はほぼ毎日部活があったんで、土日かけての1泊2日だけになりました。
それで、父が会社で同じ趣味を持つ木田さんの家族を誘って・・・
木田さんのところは、両親と小3の息子さんでしたね。

でね、3時過ぎにはキャンプ場に着いて、雑木林で虫捕りをしてたんです。
あの、関係ない話ですが、その後も何度かキャンプに行きまして、
植生って重要なんだなって思いました。植林の杉林はつまんないです。
キノコも山菜も生えないし、子どもが喜ぶような虫もほとんどいないんで。
雑木林のぐしゃぐしゃしたところのほうがいいですね。
ああ・・・それで、ロッジの管理棟でチェクインしたんです。
うちと木田さんところで、山の斜面に近い隣り合わせの区画に入りました。
日陰もあってよさそうなところだと思ったんですが・・・
それで、たぶんこれ重要なことだと思います。ロッジの表に、
場内の案内と注意事項を書いた大きな掲示板があったんですが、
その下に紙がは貼られてまして、そこには、

「もし仏像の頭を拾われたり、見かけたりした方はすぐ管理室に
ご一報ください」ってマジックで書いてあったんです。
それ見たときは家族で笑いましたよ。なんで仏像の頭なんだって。
父が「うーん、ここら近所の寺で盗難事件なんかがあったんじゃないかな。
仏像って、大きいのは部分部分を組み合わせて作られてあるから、
盗みだしたやつが処置に困って捨てたのが、頭だけ見つかってないとか」
こんなことを言ってました。そういえば、ここまで車で来るとき、
湖のほとりに大きなお寺があったのは見てましたから、
そこのかもしれないと思ったんです。その後、炊事場に行って、
お決まりのバーベキューですよ。父のボーナスが出たばかりで、
いい牛肉を大量に買ってましたからうまかったですよ。

そっから車のあるほうに戻って、焚き火テーブルを出して、
父と木田さんは本格的に飲み始めたんです。自分と妹、
それから木田さんとこの保君て言ったんですが、3人で場内を探検したり、
持ってきたゲームをやったりしてました。
うーん、涼しいところでしたが、ヤブ蚊がいましたね。
それで、テントは張ってたんですが、車の中で寝ることにしたんです。
父のハイエースは5人分のベッドを設置できるようになってたんです。
「寝る前にトイレ行っとけよ」って言われたんで、10時半頃ですかね、
共同の木造トイレに行ったんです。キャンプ場の入りはパラパラでした。
お盆前のせいもあったんでしょう。
その帰り、保君が藪のほうを指さして「光るものがある」って言ったんです。

最初はホタルかなんかいるのかと思ったんですが、寄ってみるとそれが、
仏像の頭部だったんです。一段高くなった頭の天辺と、ちりちりの髪型で、
お寺にあるお釈迦様の頭でした。草の間に頭頂部を上にして立ってたんです。
色は黒ずんだ木のもので、ところどころ金箔が残ってたのか、
まだらになってました。どこが光って見えたかはわからなかったです。
大きさは実際の人の頭より一回り大きいくらい。すぐに、ロッジ前の
注意書きを思い起こしました。でね、妹と持ち上げてみようとしたんです。
そしたら意外に軽かったんです。10kgもなかったんじゃないかな。
それで、自分が一人で抱えて、車まで戻ったんです。父たちは、
すでにすっかり酔っ払ってて、仏像の頭を見せても興味を示しませんでした。
「明日、明日管理棟に持ってくから、そこらに置いとけ」

そう言われて、一段高くなった区画の端に置いておきました。
保くんは自分の母親のところへ行き、自分らは車に入って、
ベッドに寝転がりました。テントは立ててたんですが、ヤブ蚊がいるんで、
車で寝たほうが快適だろうと思って。少し妹と話をしてるうち眠くなってきて、
眠り込んでしまいました。で、どのくらいたったんでしょうかね。
時計を見なかったんでわからないんですが、目が覚めて、網戸の車窓から
外を見ると焚き火は消え、父も車に戻って寝てましたね。
夜間も照明があるんで外はうっすら黄色に光ってて、
その電灯の下に虫が集まってるように見えました。カブトかな、と思い、
そっと皆を起こさないように車を出たんです。
怖いとは思わなかったです。だってね、家族はみんな近くにいるんだし。

電灯の下までくると、ほとんどが蛾とカナブンでしたが、
中にカブトらしいのが一匹いまして。高いところで手が届かなかったので、
捕虫網をとろうと車のほうに行きかけ・・・そのとき後ろから声がしたんです。
「頭、頭知らんか!! 俺の頭・・・」くぐもった声でした。
振り返ると、頭のない人が立ってたんですよ。作業服の上下だったと思います、
泥だらけの。体にも藁みたいなのがいっぱいついてて。
頭の部分には何もなかったです。作業服の襟を立ててたから、
切り口?もよくわかりませんでした。ギュンと心臓が縮むような感じがしました。
そいつは「頭、俺の頭・・・」って言いながら、自分のほうによろよろ歩いて
きたんです。腰が抜けたってのはああいうことを言うんでしょうね。
尻から地面に落ちて、体が動かなくなりました。

目をつむることもできませんでした。そいつが数歩前まで来て、
自分のほうにかがみこもうとしたとき、「おーい、こっちだぞー」って、
声がしました。そうですね、おんなじ声のように思えましたが、
こっちのほうがはっきりしてましたね。自分の声ですか?
叫ぼうにも「あ、あう、あう」というような音しか出てきませんでした。
不意打ちでしたからねえ。でもやっぱ、根が臆病なんでしょう。
ともかくそれで、首なし男は自分のとこから向きを変えて、
そっちにぎくしゃく歩いてったんです。あの仏頭を置いてあったほうでした。
少し足に力が入ったので立ち上がり、車に向かって駆け出しました。
そのときちらっと見ると、首なし男は両手で仏頭を持ち上げ、
自分の肩の間に置こうとしてるようでした。

ハイエースに走りこんで、赤い顔で熟睡している父親を起こしました。
「あ、う、んっ、何だ!」みたいな感じで、酒臭い息を吐きながら
起き出したんですが、自分の説明を聞いて、「アホか?」という顔になりました。
「頭がないやつ? それがどうやってしゃべるんだ? しゃべれるわけねえだろ」
そう言いながら車外に出てったんですが、しばらくして「だれもいなかったぞ」
って戻ってきました。「仏像の頭は?」って聞いたら、「なかった」って。
「やっぱり首なし男が被って持ってたんだよ」 「それはない。
管理棟から見回りの人が来て見つけてったんだろ。お前が見たってのも
たぶんそれだよ。もういいから寝ろ」こんなやりとりになりました。
その夜は、暑かったけど自分の近くの窓は閉めて、外に背を向けて寝たんです。
こんな内容なんですが、あとふたつ話すことがあります。

朝起きると、もう家族はみんな起きてて、外でコーヒーを飲んでました。
自分も出て行くと、保くんが寄ってきて、「昨日の夜、
首なし男が頭を取りに来たよね」って言ったんです。「見てたの?」
と聞いたら、「夢で」って。それと、キャンプ場をチェックアウトするとき、父が
管理人に仏像の頭の話をしたんです。そしたら「私たちは取りに行ってませんね。
どなたが拾ったんですか?ああ、子どもさんたち。作業服の男ねえ・・・
わかりますよ、その人、ダムのほうから頭を探しに来たんでしょう。
見つけてすぐ私らに知らせてくれたら、怖い目を見ないで済んだのにねえ」
こんなことを話して、それ以上は教えてくれませんでしたよ。その人が、
「お祓いが・・・」って言いかけたとき、「ちょっとお前、やめろ・・・」って、
もう一人の管理の人が声をかけてきて、それで終わったんです。