鷹のミイラとして英国の博物館で展示されていたミイラのなかには
人間の胎児が入っていた。古代エジプトの「鷹のミイラ」として、100年近く

博物館に所蔵されていたミイラは、ヒトの胎児だったことが判明した。カナダの

研究者がCTスキャンで内部を撮影したところ、無脳症の胎児の骨が発見された。
(Maidstone Museum/Nikon Metrology UK/University of Western Ontario)




今回はこのニュースでいきます。古代エジプトの話です。
古代エジプトは、ご存知のように多神教で、来世復活を信じる宗教ですよね。
ミイラ作りが始まったのは、豊穣の神であるオシリスが破壊の神セトに殺害され、
その後、ミイラとして蘇り、冥界の王となったという神話にもとづいています。

オシリス神


で、復活するためには、遺体を保存しておくことが肝要であり、
ミイラの作成は、紀元前3000年以前から行われるようになりました。
作り方は時代によって違いはありますが、
基本的には、内臓をまず取り出し、遺体を炭酸ナトリウムに長期間漬け、
その後、乾燥させてから何重にも布を巻きます。

映画に出てくるミイラ男は、このイメージが元になっています。
また、取り出された内臓は、個別にカノプスという壺に入れて保管されました。
この壺には、神々の姿が彫られており、例えば、肺はハビ神、
肝臓はイムセティ神というように決められていました。

カノプス壺


また、脳はミイラを腐らせてしまうとして、鼻から鉤状の器具によって

かき出され、心臓だけは、魂と理性が宿るとされ、そのまま遺体に

残されています。ただし、ここまで丁寧に処理されるのは神官や

王侯貴族だけで、庶民はもっと安上がりな方法で処理され、

内臓を取り出さず、ただ天日干しされただけのものが見つかっています。

さて、上記引用のミイラは、ずっとイギリスのメードストーン博物館に
収蔵されていましたが、鷹を模した造形物だと思われていたんですね。
約2100年前のものだそうで、ミイラとしては新しい部類に入ります。
このミイラについては、1925年に英国人の医師から博物館に

寄贈されたという以外の情報はまったくわかっておらず、
年代は、たぶん炭素法によって出されたのだろうと思います。

 



それが、カナダの研究者がCTスキャンで内部を撮影したところ、
内部に、妊娠23〜28週と推定される胎児の骨が見つかったんですね。
ここまで成長しているのは、おそらく死産だったからだろうと考えられます。
さらに、この胎児には脳がなく、耳や背骨にも異常があるとのことです。

では、その奇形の胎児がなぜ保管されたのか。これは、
まず、胎児には霊力が宿っていると考えられたからでしょう。
さらに、奇形もまた、霊力の源として見られていました。そこで、ミイラ職人が
胎児の遺体を巧妙に折りたたんで、鷹の姿に見えるよう造形したわけです。

エジプトで鷹といえば、ホルス神を連想します。正確には猛禽であるハヤブサの

神です。エジプトの神々の中で最も古く、最も偉大であるとされ、
太陽と月を両目として、すべてのものを見通すと考えられました。
ですから、この胎児のミイラも、それと何か関係があるものと思われますが、
はっきりしたことはわかっていません。

ホルス神
images (1)

さて、これらのミイラたちは、来世が来る前に破壊されたりしてしまうと、
当然ながら復活することができません。そこで、ミイラには、
墓荒らしに対抗するための呪いがかけられていると言われます。
有名なのが、「ツタンカーメンの呪い」というやつです。

1922年に、王家の谷で発掘された、古代エジプト第18王朝のファラオ、
ツタンカーメンのミイラですが、それを指揮したカーナヴォン卿および
発掘に関係した人物が、発掘作業の直後に次々と急死したとされる事件です。
ですが、詳しく調べてみると、かなりの部分がこじつけであることがわかります。

現在では、呪いの真相については、発掘に携わった考古学者

ハワード・カーターと独占契約を結んだタイムズ社に対抗した他の新聞社が、
発掘関係者が死亡するたびに「王家の呪い」と報じたことが原因であると
言われています。呪いの実体そのものがなかったんですね。

ツタンカーメン王の発掘


あと、「タイタニックとミイラの呪い」の話もよく知られています。
タイタニック号は、1912年、氷山に衝突して沈没した豪華客船で、
映画にもなっていますが、その荷室に、大英博物館から、
ニューヨークのメトロポリタン美術館へと送られる予定だった
ミイラが積まれており、その呪いで船は沈んでしまったとするものです。

ですが、タイタニック号の積荷の記録にはミイラ、
あるいはそれに類する古美術品という項目はありません。そこで、
「ミイラを正規のルートで送れなかったバイヤーが、
船に積んだ車のトランクに隠していたのだ」という話がつけ加えられています。
しかしこれにも、何の証拠もなく、都市伝説の域を出ないものです。

 

タイタニック号船内



さてさて、信仰心から、来世での復活を願って作られたミイラですが、
西洋人の目には、文化的に相容れない不気味なものとして映り、
数々の禍々しい伝説が加えられてしまいました。
これは、古代エジプト人にとっては心外なことだろうと思います。

ミイラをあつかった映画はたくさんありますが、『ハムナプトラ』

のシリーズが有名ですね。シリーズ化されて、

たしか第3作まで作られてるんじゃなかったかな。
あとは昨年、トム・クルーズ主演の『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』が
公開されています。これはどちらも、1932年のホラー映画『ミイラ再生』の
リメイクだったはずです。では、今回はこのへんで。

『ミイラ再生』