記憶の移植は長らく、典型的なSFのテーマだったが、
最近の研究によってそれが現実味を帯びつつある。
米大学の研究者らはこのほど、海に住む軟体動物のジャンボアメフラシの
個体から別の個体に、遺伝子のRNA(リボ核酸)を使い、
記憶を移植することに成功した。

研究者らはまず、ジャンボアメフラシに刺激に対する
防御反応を起こす訓練を行った。その個体から取り出したRNAを,
訓練を受けていない別の個体に移植すると、刺激に対して

訓練された個体と同様の反応を示したという。(BBC News Japan)



今回は、この話題でいきますが、すごく難しいテーマで、
自分の手にあまる可能性があります。かなり間違ったことを言うかも
しれませんので、そのつもりでお読みください。
さて、実験では、まず、ジャンボアメフラシの尻尾に軽い

電気ショックを与え、防御反応で体を縮ませるように訓練しました。

すると、訓練されたジャンボアメフラシは、
体を触られると約50秒にわたって収縮しましたが、
訓練されていない個体が体を縮ませたのは、わずか10秒程度でした。
つまり、訓練された個体は、刺激に敏感になっているわけです。

さらに、研究者らは、電気ショックで訓練されたジャンボアメフラシの

神経からRNAを取り出し、訓練を受けていないジャンボアメフラシに移植。
すると、訓練されていない個体も体を触られると、
約40秒にわたって収縮するようになったということです。

 



で、自分の、この実験についての感想は「えー、眉唾だなあ」というものです。
というのは、RNAの移植については、いろいろ先行研究があるんですね。
1960年、シカゴ大学の心理学者が、プラナリアに光に反応する
訓練をほどこし、さらにそのプラナリアをすりつぶして、
別のプラナリアに食べさせるという実験を行いました。

すると、光に対する反応が、別のプラナリアに移ったように見えたということです。
実験は、記憶の移動という内容を含むため、センセーションを巻き起こし、
研究者は多額の研究資金を得ることができました。後には、
プラナリアのRNAを直接抽出して、注射できるようにもなりました。

分断されてもそれぞれ生き残るプラナリア


これを受けて、1960年代、実験用マウスなどでも、同じような実験が多数
行われましたが、結果はどれもはかばかしいものではなく、
プラナリアでの実験も、あちこちで行われた追試は成功しませんでした。
こう言ってはなんですが、実験結果の統計的な操作も疑われたりして、
これ系の研究は、ずっと長い間下火になっていたんです。
今でいう、常温核融合みたいな感じです。

また、鮭でも実験が行われていて、Aという川を遡上する鮭のRNAを抽出し、
Bという川を遡上する鮭に移植。BをAの川の水に入れると脳波が反応した、
という実験もあります。しかし、この追試もうまくいってません。
ですから、そういう歴史的なことを踏まえて、
自分は、この実験がにわかには信用できないんですね。

さて、RNAとは、リボ核酸のことで、動植物の細胞の核と細胞質に存在し、
DNAとはやや異なる塩基配列を持っており、タンパク質の統合と

遺伝情報の伝達にかかわると考えられています。で、もしRNAに記憶が

保存されるとしたら、どんな仕組みで行われるんでしょう。

これについて、研究者はくわしくふれていませんが、
RNAの塩基配列が変化するんでしょうか?? それとも数が増えるのか?
ここはかなり疑問です。実験の前後でのRNAの変化を、
きちんと示す必要があると思われます。

細胞の構造


一般的に、記憶は脳の神経の接合部分であるシナプスのつながりとして
蓄えられると考えられています。また、脳で、記憶分野をつかさどるとされる
海馬や側頭葉を切除すると、重い記憶障害が起きることが知られています。
ですので、記憶に脳が関与してるのは間違いないところでしょう。

さて、引用の実験の話はこのくらいにして、
もし、Aさんの脳から記憶を取り出し、別のBさんに移すことができたとしたら
どうなるんでしょう。もちろん、Bさんの記憶は、その前に消去してあります。
マウスの脳から特定の記憶だけを消去する実験には、すでに成功しています。

人間の人格の大部分は、記憶の積み重ねによってできているとも考えられます。
では、Bさんの体に、Aさんの意識が芽生えることになるんでしょうか。
脳の記憶さえ別の身体に次々と移植できれば、
人間は不死になれるんでしょうか。これは難しいですね。
人格には遺伝的な部分もあるでしょうし、自分にはなんとも言えません。

 



ただ、部分的な記憶が移植できるとしたら、例えば、自転車に乗れない人が、
記憶の移植を受けることで、自転車に乗れるようになる、などのことは

可能になるかもしれません。あるいは、言語記憶を移植することで、
まったくしゃべれなかった人が英語ペラペラになるとか。

2016年のアメリカ・イギリス合作の映画、

『クリミナル 2人の記憶を持つ男』は、このあたりのことを

あつかったストーリーでした。核ミサイルの遠隔操作に関する
重要な記憶を持ったCIAエージェントが銃撃で死亡。
その記憶を死刑囚に移植して世界を救おうとするんですが・・・

さてさて、ということで、記憶の移植というアイデアには、
さまざまな可能性があると思いますが、倫理的な問題もまた

大きいでしょう。上記の実験の続報を期待したいと思います。
では、今回はこのへんで。