あ、じゃあ話をしていきます。僕、ある県の地方裁判所に勤めてるんです。
いや、まさか裁判官とかじゃないですよ。それはね、僕も大学は法学部を

出たから、司法試験は受けましたけど、無理でしたね。ただの事務官です。
それで、僕が行ってる裁判所は、県で一番の大通りにあるんです。
それに面して、市役所や体育館、図書館や児童会館など、
県の施設がたくさん集まってて。で、これから話をするのは、
その道路の一つ裏にある道の交差点のことなんです。
ほら、今 話したように、大通りには大きな施設がたくさんあって、
その裏側は駐車場が並んでるんです。施設と駐車場にはさまれた道があって、
そんなに広いわけじゃないけど、けっこう人も車も通るんです。
僕もね、裁判所の駐車場に車を置いて、その通りを横切って庁舎に入ります。

それで、裁判所の真裏からやや外れたとこにある交差点。
これがねえ、そこで奇妙な出来事があったんですよ。僕は勤務して

7年目ですが、その間に3回目撃しました。でも、たぶんもう起きないと

思います。なんで起きないと思うか、そのことも含めて話していきます。

金色童子
6年前ですね。僕が採用されて赴任したばかりの頃のことです。
駐車場に車を置いて、裁判所の裏通りに出ました、そこで、1回だけ信号待ち
しなくちゃいけないんです。赤信号で、県庁に向かうために待ってる人が
けっこういました。僕がその後ろについたとき、横断歩道の向こう側がから
強い光が見えたんです、金色の。あれ、何だろう?と思って少し前に出ると、
向こうの信号機の支柱のすぐ下のあたりが、ビカビカという感じで

輝いてたんです。あまりに光が強くて、何なのかはっきりしませんでした。
まぶしくて、まっすぐ見ることができないんですね。
それで、手を顔の前にかざして光を遮るようにして見たら、
信号の支柱の横にもう一本、1mくらいのポールが立ってて、
その上に裸の赤ん坊がちょこんと座ってたんです。

で、その子が全身から強い金色の光を放ってる。いや、最初はね、
何かの宣伝のディスプレィだと思ったんです。けど、近くに店とかがある

わけでもないし。それに、あたりをうかがうと、信号待ちしてる誰も、
その赤ちゃんを気にして見てる人はいなかったんです。「よ、お早う」

後ろから背中をつつかれました。ふり向くと先輩の事務官だったので、
あいさつを返しました。それから、「あの、あそこにある金色の赤ちゃん、
あれ、何のためにあるんでしょう?」って聞いてみたんです。
でも、先輩は「金色の赤ちゃん? どこに?」って。「いや、ほら、あの信号の

支柱の下です。すごく光ってる」先輩は目を細めるようにして見てましたが、

「わからんな、赤ちゃんなんていないぞ」こんな反応だったんです。

そうしてるうちに信号が変わったんで道路を渡りました。

で、先輩をやり過ごして、赤ちゃんに近づいていったんです。
すぐ前まできました。そしたら、その赤ちゃん、生きて動いてたんです。
そうですね、首が座ってたから、もうすぐ1歳ってとこじゃないですかね。
機嫌よく笑ってて、両手を動かしてました。ただこれね、すごくまぶしくて、
やっと観察したことなんです。立ち止まってる僕の後ろを、どんどん人が通り

過ぎていって、もしかして僕にしか見えないのか、って思いました。そのとき、
反対側の方から、ベビーカーを押した和服のおばあさんが来たんです。ひと目で、

ホームレスの人だって思いました。ベビーカーには、ボロ布や生活用品が
いっぱいに積まれてましたから。で、そのおばあさん、人の流れから斜めに

外れて、僕のほうというか、赤ちゃんのほうへと向かってきたんです。
あれ、もしかしてこのおばあさんには見えてるのか、そう思いました。

おばあさんは、僕の後ろまで来ると、ベビーカーに下げてた傘を取って、
僕をぐいっと横に押しのけたんです。すごく不機嫌な顔でした。
されるがまま、おばあさんのやることを見てると、まぶしい様子もなく、
傘をもどして赤ちゃんを両手で抱き上げ・・・それから、くるくる丸めるような
仕草をして・・・そしたらね、ほんとうに赤ちゃんが丸まっちゃったんですよ。
はい、ソフトボール大から卓球のボール大、そして金色のパチンコ玉になり、
おばあさんは2本指でその玉をつまむと、ふっと息を吹きかけました。
すると、金色の粉ですね。それがパーッと空中に散ったんです。
すごくきれいでした。おばあさんは僕のほうに向き直り、「今のわらしが見えて
たんだろ、けっ、あんたに幸いが来るなあ」吐き捨てるような調子で、そう言って

行ってしまいました。それから1ヶ月後ですね、妻の妊娠がわかったのは。

金色小槌
いや、その金色の赤ちゃんと関係があるかはわからないです。交差点で見た

赤ちゃんは男の子でしたが、うちで産まれたのは女の子で、顔も似てません

でしたから。でね、毎日通る場所ですから、気になって、その日の帰り、
金色の赤ちゃんの座ってたポールを観察したんです。
交通関係のものではないと思いました。それは白い色の石製で、一辺が10cm

くらいの四角い柱だったんです。うーん、何だかわかりませんでした。
あのほら、測量の三角点ってあるじゃないですか。あの石柱にやや似てましたが、
もっと長くて高級感があったんです。なんでこんなものが、撤去もされず
こんなところにあるのか。それからは、毎日通るたびに見てたんですよ。でも、

何も特別なことはなくて、だんだんに、あの赤ちゃんのことも忘れていったんです。
それから1年以上たったある日です。夕方ですね。その日は珍しく定時で帰ることが

 

できて、5時半ころには交差点に来ました。で、ふと柱を見ると、金色のものが

載ってる。そのときは赤ちゃんじゃなく、小さいものでした。近寄ってよく見ると、
小槌だと思いました。あの、一寸法師の話に出てくる打出の小槌みたいな。
赤ちゃんのときほどはビカビカ光ってませんでしたね。よっぽど、
手にとってみようかと思ったんですよ。でも、何だか怖い気がして・・・
そうしてるうち、ふっと小槌が浮き上がったんです。柱の上、20cmほどのとこで
くるくると回転し始め、それからビュッと飛んで、歩道を渡ってた帽子の男性の頭に
カコーンと当たって、その男、ばったりうつぶせに昏倒しちゃったんです。
キャーと近くの人から悲鳴が上がりました。これでも裁判所の人間ですから、
駆け寄ってみると完全に気を失ってたので、救急車を呼んだんです。
消防署は近くでしたから、すぐに来て乗せられていきましたよ。

金色のうずまき光線
でね、翌日、裁判所のほうに、僕を名指しで警察から連絡が来まして。
一瞬ぎょっとしたんですが、前日に救急車に乗せられていった人ね、病院で持ち物

などを確認したら、じつは指名手配の殺人犯だったことがわかったって言うんです。

警察署に行って事情を説明したら、それ以上のことはなかったです。
あ、あとね、男の頭にあたった小槌ですが、倒れた男の近くにはなかったです。
これも消えちゃったのかもしれません。で、去年のことです。裁判所の朝の

打ち合わせで、明日からその交差点のある道路が工事で通行止めになる
って連絡があったんです。はい、裁判所に勤めてる人のほとんどが、
裏の駐車場に車を置いてますから、そこが工事だと少し遠回りして
行かなくちゃならなくなるんです。翌朝、そこの道は警備員が入って
車は停められてました。あそこの交差点の部分をぐるっと囲むようにして、

養生シートが張られてるのが遠くに見えてました。でね、それから3日後、

僕は裁判所の3階の部屋を会議用にセッテイングしてました。
イスや机を並べてたんです。で、そこの窓から何気に下を見たら、ちょうどあの

交差点の斜め上だったんです。四角くシートが立て回されてましたが、上が

開いてて、中の様子が見えました。白い和服を着た人が10数人集まってましたが、
それ、神主さんに思えたんです。はい、着てるものが神社でよく見る服装で。
何をやってるんだろうと興味を持ち、しばらく見てたんです。
あの柱、そのまわりをみなで取りまいて、窓閉めてたんで声が聞こえたわけじゃ
ないんですが、全員で何かを唱えてるように見えました。
御幣って言うんですか、白いギザギザの紙がついた棒を振ってる人もいましたね。
ああ、お祓いなんだなと思って、それまで起きた不思議なことを思い出して、

妙に納得したんですよ。10分くらい見てましたかね。そろそろ行こうか

としたとき、柱のあるあたりがギラリと光ったんです。金色の、数mもある

太い光の束がそこから、ゆっくりと出てきました。それはだんだんにバネの

ような渦巻き型に変わっていって、急にドーンと、

雲のある高さまで伸びたんです。でも、その状態は数秒間で、
渦巻いた光は消えてしまいました。で、2日後に道路の通行止めは解除され、
交差点を通ったときに確認したら、あの柱がなくなってたんです。
下に、穴をアスファルトで埋めた跡が残ってましたね。まあ、こんな話です。