注射という文字を見て、喜びを感じる人はあまりいないでしょう。
多くの人にとって注射は嫌なものです。注射前にかけられた言葉で、
痛みが変わってくるという研究があります。

「大きなハチに刺されたような痛みがあります」と言われたグループと、
「治療が楽にすすむように局所麻酔をします」といわれたグループでは、
同じ注射であっても痛みの感じ方に変化があるのです。もちろん後者の
ほうが痛みを少なく感じます。(yomiDr.)


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今回は科学ニュースというか医療ニュースからこういうお題でいきます。
これ、なかなか難しい内容で、自分もまだ考えがまとまっていない
部分もあります。さて、引用のニュースですが、これは一種の
「プラセボ(偽薬)効果」ですね。プラセボ効果とは、ネット辞書によれば

「偽薬(本当は薬ではない成分)を投与したにも関わらず、症状が回復
したり和らいだりする現象」となっていて、この効果が実際にあることは、
臨床試験や心理学の実験で確認されています。また、逆に、事前に
「この注射は痛いですよ!」などと強く言うことにより、通常より
大きく痛みを感じたりするなどの場合を「ノセボ効果」と言います。

問題とされた治療器具 これに限らず、ヨーロッパでは
ダウジングのようなものは、現在でもたいへん信じる人が多いです

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プラセボ効果に関する初めての実験は18世紀後半に行われています。
ある医師が金属製の筒のような器具で患者の体を刺激し、高額な料金を
取っていました。これに疑問を持った別の医師が、筒の素材を他の
効果がなさそうなものに変えても、やはり患者の病状は改善したんです。

現在 巷にあふれている、サプリメント、健康食品、宗教的な手かざし、
川島なお美さんが受けたとされる金の延べ棒で患部をなでる療法なども、
一定のプラセボ効果があると考えられます。ですから、いつまでたっても
疑似医療行為というのはなくなりません。ここには、後述しますが
じつにやっかいな問題があるんです。

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一般的にはプラセボという言葉は、偽薬や偽手術などで使われるんですが、
たんなる言葉だけでもその効果は現れます。こう書くと、心理的な効果だろう
と思われる方もおられるでしょう。つまり、偽薬を飲むだけ、肯定的な言葉を
かけられるだけでで心が楽になる。もちろんそうですが、プラセボ効果には
物理的に肉体が反応していることを示す強力な証拠がいくつもあります。

さて、もう少しプラセポ効果の話を続けましょう。これ、不思議なことに、
最初から偽薬と患者に告げた場合でも効果があるんですね。ハーバード大学の
実験で、過敏性大腸症候群の患者80名に対し、半数は何も投与されず、
残り半数には、「砂糖など効果のないものからこの薬はできているが、心と
身体の自己治癒力によって、過敏性大腸症候群の治療に効果があることが

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臨床実験で証明されている」と説明し、わざわざ偽薬というラベルが
貼ってある薬を飲ませたところ、何も投与されなかった群の2倍の患者で
症状の改善が見られたんです。さらに、錠剤の偽薬よりも、偽注射をした
ほうが効果が高いという報告や、その偽薬が高価であるほど症状が
改善されるという実験結果が出されているんです。

さらに、アメリカの研究によれば、プラセボ効果は近年、より強力に
なってきているということです。特に抗鬱剤、睡眠導入剤、鎮痛剤で
はっきり出ています。この現象の理由として、患者が以前よりも
医師や薬局を信頼するようになったことが原因であるという
説が出されています。うーん、自分もその可能性は高いように思います。

プラセボ効果には、脳から出される神経伝達物質の一つである
エンドルフィンが関係している可能性が指摘されています。エンドルフィンは
脳内麻薬などとも呼ばれ、快感を与えることが知られていますね。
ある実験で、エンドルフィンを阻害する成分を混ぜた偽薬を投与したところ、
プラセボ効果は ほとんど起こらなかったという結果が出ています。

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で、上で書いた疑似医療行為についてですが、例えばある宗教団体で、
教祖から入念な手かざし行為を受けた信者がいたとします。
その信者は教祖をたいへんに尊敬しており、また手かざし行為に対し、
完全な信頼を置いている。そうした場合、ひじょうに高いプラセボ効果が
出ると思われます。

このあたり、医療とは何かということが突きつけられてるんじゃないで
しょうか。現代の医療で、細菌感染による肺炎に対する抗生物質のように、
すぐにはっきりした効果が出る薬というのはそう多くはありません。
今回のコロナ禍でも、レムデシビルが効くとか効かないとか、
アビガンがどうとか、たいへんな騒ぎでしたよね。

WHOからコロナには推奨されないと勧告が出たレムデシビル
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どちらも、そこまではっきりした臨床結果が出ないんです。これは
他の薬も同じで、製薬会社が新薬を開発し、理論的には必ず
効果があるはずだと考えていても、臨床試験の結果がプラセボを
上回ることができず、新薬として承認されずに研究資金がムダになる
ケースが多々あるんです。

さて、残りスペースが少なくなってきました。闘病ブログを読めば、
主治医との関係に悩んでいるといった内容がよく出てきます。
時間をかけて治療すれば治るだろうという展望が見える病気より、
転移再発してしまったがんなど、完治が見込めないケースにおいて
より多いように思えます。

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これねえ、自分は医師や病院の側にも、患者側にも原因があるだろうと
考えています。患者側はがんを完治させたいのに、延命しかないと
言われれば不満ですよね。じゃあ完治させられる治療がどこかに
ないかと探して、詐欺的な代替医療にはまり込んでしまう。
逆に、医師側はたくさんのケースを見てきているので、

その患者がどうなるかは予想がつきます。まあそこがプロなわけです。
ですから、安易に希望を持たせるようなことは言えません。
「必ず治してあげます」なんて絶対言えないんす。ですが代替医療、
民間医療では、薬事法等に引っかかるので表立って宣伝はしてなくても、
患者に面と向かっては、そういうことを言う場合は多いんですね。

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さてさて、真薬と偽薬は見分けがつかないようになっています。
それと同じように真の言葉と偽の言葉もなかなか見分けることは
できません。まして末期がんの患者のように心が弱っている場合は
特にそうでしょう。いくら人生経験があってもです。最初に難しい
問題だと書いた意味がおわかりいただけたかと思います。

当面、解決策はないように思いますが、医師や病院側は患者にかける
言葉を選ぶべきでしょうね。医療はサービス業としての側面も
ありますので、患者にはどういう言葉をかけるのがいいのか。
コミュニケーションをもっと研究する必要があるかと思います。
では、今回はこのへんで。