こんばんは、じゃあ話を始めさせてもらいます。僕、土田と
もうしまして、食品流通の問屋に勤めています。27歳、独身です。
出身は北関東の〇〇県です。そこの△△市で高校までを過ごし、
東京の大学に行きました。その後、現在の会社に就職しまして。
部署は営業です。いや、問屋ですので、ノルマなどは厳しくないです。
その点はいいんですが、出張が多いんです。そうですね、
月の半分以上になります。それも北海道から沖縄までの全国。
ただまあ、日程はきつくはありません。ほとんどは宿泊します。
ビジネスホテルが多いですね。それで僕、枕が変わるとすぐには
寝つけないたちで。これでもだいぶ慣れてはきたんですけど、
なかなか・・・・ で、僕、お酒がまったく飲めないんです。
だから酔っ払って寝てしまうってのもできなくて。ええ、対策を
あれこれ考えまして、本を読むことにしたんです。
いつも旅行バックに文庫本を何冊か入れといて、ホテルの部屋で読む。
1時間2時間と読んでるうちに、ふーっと眠くなってきます。
だから本は必需品で。え、内容ですか。推理小説が多いですね。
あと最近は、実話怪談の本も。いやいや、幽霊なんて実際にいるとは
思ってません。これまでにね、何百ヶ所ものホテルに泊まったけど、
怖い思いなんてしたことがないです。ただ、今回は・・・
あ、スミマセン、話を進めます。その日は6時過ぎに仕事が終わって、
飯を食って7時頃に予約してた駅前のホテルにチェックインしました。
で、バッグを開けてみたら本が入ってなかったんです。
忘れてきたんですね。でも、今はコンビニで本も売ってますからね。
駅前だからコンビニはいくらでもあるし、と思って出てみました。
そしたら50mほど先に見つかって、そっちに歩いてったら、
コンビニと細い通りをはさんだ向かい側に「〇〇古書店」って
あったんです。遅い時間でしたが、まだ電気がついてました。
僕ね、古本屋によく行くんです。いや、高価な本は買いません。
100円均一の文庫本があるでしょ。あれを何冊か買うくらいで。
その古本屋はそう広くない店内で、何かが専門という感じでもない。
カウンターには60代くらいのカーディガンの男性が座ってました。
いくつも並んだ棚を抜けて文庫本のコーナーに行こうとしたとき、
ふっと、棚の上段の端に、大ぶりの本があるのに目が止まって。
緑の背表紙に見覚えがある気がして、立ち止まって抜き出して
みたら、「〇〇小学校卒業記念 2007」ってあったんです。
はい、僕が卒業した小学校で、しかも僕の卒業年次です。「えー」と
思いました。そこは北関東の〇〇市とは ずっと離れてるんです。
こんな遠くまできてアルバムを売ったやつがいるのか?それとですね、
さすがに住所とかはついてないけど、卒業アルバムだから
全員の顔写真と氏名が載ってるじゃないですか。今はほら、個人情報が
いろいろうるさいでしょ。こんなものを売ってもいいのか。思わず
カウンターのほうを見たら、店主は新聞を広げて目を落としてました。
アルバムはボール紙のケースに入ってたはずですが、それはなかったです。
開いてみると、最初のページに校歌、当時の校長先生、学年主任のあいさつ。
それから学年全員の集合写真が見開きで。もちろん僕らのときので、
4クラスの全員が校庭に広がって上から撮ったもの。ああ、懐かしいと
思いました。そのアルバムは実家のどこかにしまってあるはずですが、
10年以上も見てませんでしたからね。行事やスポ少のスナップが
何ページか続いて、それからクラス写真。で、アルバムは卒業文集も
かねてて、一人ひとりの作文も載ってたんです。思わず見入っていると、
カウンターから「うへへっ」というような咳払いが聞こえて、顔を
上げると店主がこっちを見てたんです。あ、これは店を閉めたいんだな
と思いました。でほら、古本って最後のページに鉛筆で値段が
走り書きされてることが多いでしょ。見たら、200ってあったんです。
はい、買ってホテルに戻ったんです。それ見てればずっと時間が
つぶれるだろうと考えて。ついでにコンビニ寄ってカフェラテを書い、
ホテルの部屋に戻って改めてアルバムを開き・・・・こっから何か
おかしかったんです。さっきの続き、自分のクラスの6年B組のとこを開き、
集合写真を見ました。真ん中にいるのが担任の、当時40代の
女の先生。あとは懐かしい顔、顔。 僕は2列めの左端にいました。
ただ、違和感を感じたんですよ。僕がもらった、実家にあるアルバムとは
何か違うような。その写真は、修学旅行のときに大阪城公園で撮った
はずです。それなのに、背景が・・・上手く説明できないんですけど、
未来都市みたいだったんです。銀色のロケットのようなものや、
曲がりくねったチューブの通路、白い巨大な天幕などが見えてました。
えー、これどっかの遊園地だろうか、でも、こんなとこには行ってない。
不可解ながらも、自分の記憶違いなんだろうと思うしかないですよね。
写真が加工されたような様子はなないし、そんなことをする理由もない。
それで、次のページが一人ひとりの顔写真。僕は土田なので出席番号は
後ろのほうです。ここは普通でした。一人ひとりの名前がついてて、
すっかり忘れてたやつも思い出しましたよ。で、次からが文集。
まず自分のを最初に見たんです。たしか最も印象に残る出来事として、
修学旅行のことを書いたはずで、文章の出だしのほうは
自分の記憶にあるとおりでした。で、それ読んでて、ああ自分はバカだな、
こんなツマンナイことじゃなく、先生方やクラスメイトへの感謝とか書けば
よかったのにと思ったんです。けど、その作文も途中から変になって
ったんですよ。大阪に着いて2日目、スペースランドに行った・・・
スペースランド? 何だそれ?? そんなとこ行ってない。
けど、集合写真の背景、あれがスペースランドなのか?? まったく
記憶にないし、USJのはずはないし、そもそも大阪にそんな施設って
ないですよね。で、文章の最後が、ここで自分の未来を教えてもらって
うれしかったですってなってて・・・ 問題はその後です。
作文の余白に、鉛筆で「享年28」って書かれてたんです。
享年って死んだ歳ってことですよね。そのとき僕、27歳でしたけど、
享年はたしか数え年のはず。つまり今年のことです。このアルバムの
持ち主、売ったやつのイタズラだろうか。けど、字は上手で、
小学生のものには見えない。それから、小学生のときに親しかった
友だちの作文もいくつか読みました。そしたら僕以外にも
スペースランドのことを書いてる子が2人いたんです。はい、家が
近くて特に親しかった男の友だちです。で、その最後に鉛筆書きで、
一人は「早く逃げろ」、もう一人は「すぐホテルを出ろ、死ぬぞ」って。
やっぱり大人の字です。それと別々の人の字に思えました。
短いけど特徴が違ってて。混乱しましたが、荷物をまとめてホテルの
フロントに行き、眠れないから外で飲んでくると言って鍵を預け、
街に出たんです。時間はまだ9時ころで、店はどこも開いてました。
あと、あの古本屋はカーテンが下りて明かりが消えてましたね。
飲み屋街は少し離れた場所で、居酒屋に入り、最初に言ったように酒は
飲めないんですが、うすい梅酒ソーダをつくってもらって、
ちびちびやりながら湯豆腐とか食べてたんです。そしたら・・・
サイレンの音が聞こえてきました、それも何台も。勘定を済ませて
音のするほうへ行くと、火事は僕が泊まってたホテルだったんです。
警察も出ててホテルへは近づけませんでしたが、4階の窓から
煙が出てて、それ、僕の部屋のある階だったんです。はい、死者は2名で、
新聞やテレビでも報道されてます。あと、ここからは後日談ですね。
あのアルバム、バッグに入ってたんですが、すべてが僕の記憶に
あるものに変わってました。クラス写真もそうだし、作文もスペースランドの
スの字も出てこない。鉛筆書きもない。小学生のときの同級生で
連絡がつくやつにも電話してみました。でも、やっぱりスペースランド
なんて行ってないって・・・ どういうことなんでしょうか。全部が
僕が見た夢?? まあ、命が助かったからよかったんですけども。
