あ、どうも、俺、塚本って言います。ある大学の4年生なんです。
いや、就職はまったく決まってません。そのかわりっていうか、
バイトをたくさんやってます。定期も臨時も、とにかく時間の
あるかぎりバイトを入れてるんで、ものすごく忙しいんです。
え、何で就職活動しないのかって? それね、ちょっと事情があって。
あ、そのことを最初に話したほうがいいのかな。
うち、じつは神職の家系なんです。父親も祖父も、先祖代々ずっと、
場所と名前は言えませんけど、ある神社の宮司を務めてるんです。
だから、俺も当然、大学を卒業したら家を継ぐもんだって
子どもの頃から決められててね。ええ、大学もそれ系の学部です。
でもね、俺、嫌なんですよ、神職になるの。

何でかって言うと、まず、最初からレールの敷かれた人生なんて
面白くないじゃないですか。自由に自分の可能性を試したい・・・
それでね、今バイトしてるのも金を貯めるためなんです。
できるだけ現金を蓄えて、卒業と同時に海外に出ようと考えてます。
いや、神社のほうは弟が2人いますから、なんとでもなると思いますよ。
すみませんね、長々と関係ない話をしてしまって。
この間やったバイトのことなんです。俺ね、夕方から夜中までは
料理屋で働いてるんですけど、そこの座敷で宴会があって、
注文の酒、運んでったんです。そしたら、何か異様な雰囲気で。
座が乱れてるってことじゃなく、お客さん方、みな料理に手もつけず
深刻そうな様子で・・・ それとね、上座に座ってる2人の男性、

どっちも40代くらいに見えましたけど、束帯姿だったんです。
生地は薄緑色でした。いや、神社のものとは細部が違ってて、
よく新興宗教の人が着てるようなやつでした。長テーブルを
回ってビールを置いてくと、その上座の一人が、「あ、君ね、もしかして
実家が神職とかじゃないかな」いきなりこう言ってきて、
ドキッとしました。そこのバイト先の誰にも話してなかったし、
何でわかったのかと思ったんです。するともう一人が、「この子が
そうなんだよ。御骨拾いに加わってもらうことに決まってるんだ」
こんなことを言い出して。いやもちろん、そのときは
どういう意味かまったくわかりませんでした。何かよくない
感じがしたんで、ビールを配り終えると早々に引っ込んだんですよ。

その宴会は1時間半くらいで終わったんですが、仲居さんから、「何かね、
今の人たち、あなたに話があるみたいよ。店の外で待ってるって」
こう言われました。ヘマした覚えはないし、何だろうと出ていくと、
あの和装束の2人が立ってて、店が終わる時間を聞き、その後に
駅前の〇〇ってチェーンの喫茶店に来てほしいってことだったんです。
「どういうことですか?」当然そう聞きますよね。そしたら、
「あなたに短期のお仕事をお願いしたいんです。時間帯は深夜に
なりますが、時給は1万円お支払いしましょう」
ええ、喫茶店には行きました。時給1万たら破格ですから。話だけでも
聞いて、もし違法なことだったら断ろうと考えたんです。
喫茶店で待ってたのはさっきの2人ですが、スーツに着替えてましたね。

話は、店の前で聞いたのとそう変わらなかったんです。毎日じゃないけど、
連絡があった日の夜2時過ぎ、駅前に出てれば車で迎えに行く。
それからだいたい3時間ほどで仕事は終わるので、また駅まで送る。
つまり1日3万円てことです。で、肝心の仕事の内容なんですが、
これが要領を得なくて。「骨を拾う」って言うんです。
そう聞いてもわかんないでしょ。遺跡の発掘とかとも思いましたが、
そんな夜中にやるわけはないし。違法性はない、とは強調してました。
ただ落ちてるものを拾うだけで、それも持ち主不明だし、一般人には
価値もないって。考え込んでたら、その場で返事がほしいって言われて・・・
やることにしたんです。ええ、なんと言っても金額が魅力で。
でね、最初の仕事はその3日後にありました。

その日は料理屋のバイトもあって、かなり疲れてたんですが、
駅前で待ってると、あれはアメ車のリンカーンですかね、でかいSUVが
来て、俺を拾って郊外に向かったんです。乗ってたのは若い運転手、
それと喫茶店で話した一人、それから、あと一人は女性で、
乙姫様?みたいなひらひらした着物を着てたんです。和服とも中国服とも
わかりませんでした。40分くらいかかって着いたのが、
これも場所は言えませんが、ある自然公園内にある沼なんです。
そこはね、心霊スポットとしても有名で、俺も知ってました。
公園と言っても柵とかがあるわけでもなく、警備員なんかもいないみたいで、
とがめられることもなく沼のほとりまで来ました。真夜中でしたが、
公園内には街灯もあって、真っ暗というわけじゃなかったです。

運転手がSUVの荷台から大きな物を出してきて、ゴムボートだったんです。
ボンベで空気を入れると5、6人は乗れるかというボートで、
ハドルもありました。電話で、汚れてもいい服装って言われてたんで、
俺はジャージの上下でした。でね、その沼にゴムボートを浮かべたんです。
マジかよ、と思いましたが、みな大真面目でね。乗ったのは車の中の
全員だから4人です。沼の水は流れもなく、静かに運転手がパドルで
漕ぎ始めました。あと、そのときに懐中電灯型のライトを渡されたんです。
ただ、青っぽい光で、ブラックライトってやつじゃないかと思いました。
「だいたいの場所はわかってますから」女性が言い、みなで水面をライトで
照らしながら、ボートは岸に沿って進んでいったんです。
沼はそれほど汚れてはいないようで、嫌な臭いもなく、ライトで照らした

水面下で魚が動いたりしてました。20分ほど進んだでしょうか。
女性が「ああ、あれです」と言い、その指差したほうを見ると、
ライトで照らされた場所に真っ白い、細長いものが沈んでたんです。
「拾ってきてください」そう言われて、俺が?と思ったんですけど、
「大丈夫、ここは深くないし、底なし沼でもありません」そう言われて、
ボートから水に入りました。5月だったんで、そう冷たくはなかったです。
ブラックライトで照らしながら体をかがめ、白いものを拾いました。
固い、枯れ木のような感触があったんですが、水から出てきたのは
骨だと思いました、15cmほどの。これでその夜の仕事は終わりです。
なんで俺が拾わされたのかはわからなかったです。それから3日おき
くらいに仕事があって、いろんな場所に行きました。

山の中に放置された廃墟のようなところ。あるビルの屋上のにある給水塔。
ドヤ街と言われるところの自販機の裏・・・で、拾うのはすべて骨なんです。
どれも白く乾いて、さまざまな部位のものがありましたね。
ねえ、何ということもない仕事でしょ。最初の沼はきつかったけど、
あとはそこまでのことはなかったし、どんどんお金が貯まっていきましたよ。
夜中の仕事なんで、翌日は眠かったですけど。こうして半年ほど続けたんで、
骨は相当な量になったと思いますが、みなその人たちがもっていきました。
何でこんなことをするかの理由は聞きませんでした。聞けない雰囲気も
あったし、何よりもそのバイトを失いたくなかったからです。
ほら、最初に海外放浪に出たいって言ったでしょ。その目標とする金額まで
もう少しというとこまで来てたんです。去年の11月ですね。

造成中の団地の崖の斜面から骨を掘り出しました。女性が、「やっと
終わりました。これが最後です。今まで拾い集めた骨を何に使うか、
さそや不審だったでしょう。このまま、わたくしどもの教団にご案内します」
それから車は2時間ほど走り、山の麓にある豪華だけれども下品な感じの
建物に着きました。予想どおり新興宗教の神殿?でしたね。
中には照明がついており、白いひらひらした服を着た信者が、並んで
俺らに礼をしました。それから、神道ともキリスト教ともつかない礼拝堂の
ようなところに通されました。前方に大きな祭壇があり、その前に
寝台が2つ並べられ、白い布がかけられてました。「これは?」
そう聞くと、幹部の男性が歩み寄って、どちらの布もとったんです。
一つにはうず高く積まれた白い骨。もう一つには・・・

少女の遺体が載っていました。少女は15歳前後でしょうか。死後に
特殊な処置を施されたのか、ミイラ化してるように見えたんです。
「骨が揃いましたので、これから初代の教祖様の復活の儀式を行います。
感謝の意味を込めてここまでお見せしたんですが、これでお帰り願います。
お仕事のほうも今夜で終わりです」こう言われ、思い切って聞いたんです。
「あの骨、仕事で集めたやつですよね。何で俺が拾ったんですか?」って。
そしたら、驚くような答えが返ってきたんです。「初代の教祖様は、あなたの
妹御ですから」・・・混乱しましたよ。実家は男だけの3人兄妹のはずです。
復活の儀式は見せてもらえず、車で駅に送られました。その後、教団から
一切連絡はないし、電話番号も使えなくなってたんです。これ、どういうこと
なんでしょうか。それとなく実家に探りを入れようかとも考えてるんですが。