俺、西脇っていいます。Fランの大学を卒業して、今の会社に就職して
2年目です。訪問販売の会社なんです。浄水器とか空気清浄機、
布団乾燥機なんかです。それらは国産じゃなくて中国製で、資本もそっち
から出てるみたいなんですよ。で、この会社すごいブラックでノルマを
達成できなかったら罵倒されるし吊るし上げられるしで、もういたたまれなく
なって辞めるしかないんです。だから、社員の定着率もすごく悪くて・・・
今考えれば、俺も辞めればよかったんだと思います。どうしてあの頃、
そう考えることができなかったのか・・・洗脳されたみたくなってたんで
しょうね。でね、この会社の直接の上司、営業販売課長がまた嫌なやつで、
ノルマを達成できないと、みなの前でさんざん怒られるんです。
パワハラなんだけど、そんなこと言える雰囲気じゃないし。この間も、
「どうして売れないんだ。馬鹿野郎! この会社の屋上から飛び降りろ」
なんて言われて、そのときは一瞬殺意さえおぼえたほどですよ。それで、
その日は課長憎い、憎いって思いながら10時過ぎに部屋に戻って、
憎さのあまり、呪い殺してやろうなんて考えて、ネットでそういう
サイトを検索してたんです。ほら、呪殺を請け負うサイトってけっこう
あるじゃないですか。いや、実際に実行するなんて無理なことはわかって
ましたから、せめてそういうのを見て気をまぎらわそうとしてたんだと
思います。でね、そうしてるうち「しあわせの6人」ってサイトを
見つけたんです。呪殺で検索したら3番目か4番目に出てきたサイト。
でも、一見して呪殺と関係なさそうな名前じゃないですか。
それで興味をひかれて、つらつらサイトの内容を見てたんです。
そしたら、書かれてる内容も呪殺とあんまり関係なさそうな感じで、
そのサイトには掲示板が付属してたんです。それでどんな内容かと
思って入ってみたら、多くはないメンバーがハンドルネームをつけて
チャットをしてたんです。ふだんどんなひどい仕打ちを受けてるか、
誰をうらんでるのかとか、そんな内容。でね、俺もビリーって
名前で参加してみたんです。そしてね、自分が今、どんな状況にあるのか、
上司の営業課長がどんなに酷いやつか、自分が受けたしうちなんかを
つらつら語ったんです。そしたらそこの人たちは親身になって
聞いてくれて、しかもいろいろと励ましてくれたんです。
で、その夜から、そこの掲示板に入りびたるようになって・・・
でね、そこの掲示板、変わったシステムになってて、6人がひと組で
グループになるんです。俺はM-14というグループに入ることに
なったんです。メンバーは自分を入れて男4人、女2人ってことだったけど、
それ以外、本名はもちろん、職業や年齢はわからなかったです。お互い
ハンドルネームで呼び合ってました。でね、前に言ったように、みんないい人
たちで、人の気分を害することなんてまったく言わなかったんです。でね、
この掲示板に出入りするようになって2ヶ月目です。ハンドルネームが
フォックスさんという女性のグループメンバーから「まだ上司の課長を
恨んでますか?」って聞かれたんです。それで「はい、もちろんです」そう
答えたら、「じゃあ、その報復のためにあなたにやってほしいことが
あります」そう言われまして。「どんなことですか?」と聞くと、夜の
12時過ぎ、自分が住んでる地域のある有名な神社に行って、
鳥居の下に鶏の肉1kgを人にわからないように埋めてほしい、ってこと
だったんです。鶏の肉は自分でさばいたものが望ましいが、今は鶏を飼ってる
家は珍しいから、スーパーで買ったものでかまわないということでした。
まあ普通ならおかしいと思いますよね。でも、その頃には俺はすっかり
その掲示板が心のより所になってたんで、「やります」って言ったんですよ。
難しいことでもないしね。それで、その日仕事帰りに鶏肉を買って、言われた
とおりに夜中に神社に行ってそれを埋めたんです。夜中の神社はひと気もなく、
やるのは簡単でした。で、そのことを翌日、掲示板で報告したらグループの
メンバーみなに褒められて、すごく達成感があったんです。で、それから・・・
2週間おきくらいで奇妙な司令っていうか頼み事が続きました。
「封書でひと形の紙人形が送られてくるから、橋の上から〇〇川に
流してくれ」とか「〇〇スーパーの食品売り場にあるリンゴに奇妙な形の
金属片を埋め込んでくれ」とか、金属も送られてきたものです。それも簡単
だったけど、司令はだんだんに難しくなってきたんです。「〇〇の跡地に
牛を彫った小さな石碑があるから、それを夜中に掘り返して河原に捨てて
くる」とか「女性の髪の毛の束を紙に包んで〇〇神社に奉納する」とか。
女性の髪は難しかったです。その頃、特につきあってる女性なんていません
でしたし。それで、考えた末、最終電車にわざわざ乗って、そこで寝込んでる
女性を見つけて、切れるハサミで髪を一束こっそり切り取ったりしたんです。
・・・今考えれば異常なんですが、そのときはやるたびに掲示板のメンバーに
ほめられるので嬉しくてしょうがなかったんです。ただ・・・これが最後と
言われた司令はかなり実行がためらわれるものでした。
「猫を一匹捕まえて、生きてるうちにお腹を切って、内臓をすべて抜き出し、
〇〇神社の賽銭箱に投げ込んでくれ」というものでしたからね。
でも、やりましたよ。近所のノラ猫を待ち伏せて捕まえ、風呂場で腹を
カミソリで切ったんです。気持ち悪かったですよ。で、〇〇神社ってのは
前に鶏肉を埋めたのと同じ神社です。やはり夜中にやりました。
もうね、その掲示板だけが生きがいみたいになってて、そこで褒められるなら
どんなことでもやったと思います。それだけ会社に居場所がなくなってたんですね。
で、翌日掲示板に顔を出すと、グループのメンバーが全員そろってて、
口々に「いやあ、よくやりとげました」とか「あなたの実行力には感心しました」
とか「こんなできる人がブラック企業にくすぶってるなんてもったいない」
などと言われたんです。それと「あなたが恨んでた課長、寿命が
つきたようですね」とも。これ、何のことかわからなかったんですが、
翌日会社に出たら、その課長、亡くなってたんです。夜中に心臓関係の病気で
突然死してたんです。でもね、嫌われてたから会社の同僚はみんな内心
喜んでるのがわかりました。でね、その日掲示板で課長のことを報告すると、
「まあ当然です。呪いが効いたようですね」と言われました。「呪いって?」
「あなたがこれまでやったことですよ」 「ええ?」 「おかしいとは
思わなかったんですか? あんなこと、普通はやる人はいませんよ」
こういう会話になりまして。でね、その日以来、グループのメンバーの一人
だったハンドルネームがクロールさんという女性が、掲示板に顔を出さなく
なったんです。人一倍活発な人だったのに。そのことをみなに言うと、
「ああ、あなたももう立派なメンバーの一人だから、秘密を教えましょう。
この掲示板のグループはみさきと言って、呪殺のために集まったメンバー
なんです。みなそれぞれ、この世から消し去りたい人を持っています」
「そんな・・・じゃあ、クロールさんは?」 「みさきを卒業しました。
ですから6人を保つために、明日から新しいメンバーが加わります。
仲良くしてあげてください。お互いもうそう長くはない命ですから」
こんなことを言われたんですよ。「みさきって?」 「古い時代から
続く呪いですよ。それをここのサイトが現代に復活させまして、みさきの
グループづくりをしてくれてるんです」 「・・・・、何のためにそんな
ことを?」 「そりゃあ、一人で呪うより6人で呪ったほうが強力になる
でしょ。それに、俗にいう呪い返しも6分の1になるわけだし。
とはいっても、6人分の呪いともなればさすがに寿命が尽きちゃいますけど」
「じゃあクロールさんは?」 「残念ながらお亡くなりになったようです。
次は順番からいって私でしょうな」 「じゃあ俺も・・・?」
「まあそうですが、あなたは6番目にメンバーになったからまだ先でしょう。
おそらくあと6ヶ月くらいは」ここまで見て、その掲示板から出たんですよ。
たしかに会社の課長は憎かったし、殺したいと思ったのも事実ですが、
だからと言って自分の命と引き替えにするまではねえ・・・。
ということで、それ以降その掲示板は見てないんです。これ、本当に呪殺の
仲介をする機関なんてあるんでしょうか。自分の寿命はもうすぐなくなって
しまうんでしょうか? 人づてにここのことを聞いて、そういうことに
詳しい方がそろってることだったので、この話を聞いていただいたんです。
なんとか助かる方法はないでしょうか? え、みさきは古来から最も強力な
呪法だって?? そんな・・・