小学校高学年の頃、もう何十年も前の話。
平日の放課後家に帰ってから広場に集まって野球して遊んだ帰り、
家が近くのやつとチャリでせまい農道を近道して走っていると、
砂利道が交差したところにアイス売りがいた。
ビーチパラソルを広げた下に、麦わら帽をかぶったじいさんが
銀色の釜形のクーラーボックスを前にしてぽつねんといる。
ふだんよく通る道だが初めて見て珍しかったんで、
自転車をとめてじいさんに値段を聞くと、「一個十円」と言った。
じいさんの顔は、帽子の下に手ぬぐいを垂らして
日除けにしてたんでよくわからなかった。俺が買うと
友だちも買った。俺は家に帰ってから食おうと思ってカゴに入れたが、


友だちは包装(といってもただのパラフィン紙)を、
ほっぽって食いながら自転車に乗ってた。
そいつと別れて家に着くと裏庭に回ってアイスを食い始めた。
家の中で食うと、ご飯前なのにって母親がいい顔をしないからだ。
アイスは白いへら型に棒をさしたやつで、味はカルピスっぽかった。
最初は舐めてたけど先のほうが小さくなったんでかじった。
するとひじょうに変な感触がして、思わずべっと吐き出すとm
なんか黒い虫の足のようなのが地面に落ちてた。
「えっ」と思ってアイスのほうを見たら、大きな虫の乾いた死骸が
半分になって中に入っていた。翅が重なって見えたから
セミだと思った。「えーっ」と言いながら、


俺はそのアイスを放り捨てた。アイスの残りは落ちて割れ、
頭のないセミの死骸が出てきた。そのときアイスの棒に、
「はずれ」という字が書いてあるのが見えた。
「うえー、何だよこれ」とべっ、べっと唾を吐きながら家に入った。
次の日学校で友だちにその話をしたら、「俺のは普通のアイス
だったぜ。あんまりおいしくなかったけど」と半信半疑の顔をしてた。
「棒にはあたりって書いてたから持ってきた。学校の帰りにもう一度あの道を

通ってみるから、じいさんがいたらお前のセミの話も文句言ってやるよ」
その日は俺は児童会の活動があったんでそいつは一人で帰ったと思う。
で、その夜にそいつの家族から電話があって母親がとったんだが、
話をしてるとすぐに緊迫した声になった。電話を置くと、


テーブルの俺や父親に向かって、「◯◯ちゃん、亡くなったんだって。
何かの中毒みたい。今から行ってくる」と言った。母親は遅くまで
帰ってこず、次の日学校で担任の先生から亡くなったことを
はっきり聞かされた。ひどい自家中毒らしいと言ってた。