インド・ビハール州の鉄道警察は11月下旬、サラン地区にある
チャプラ・ジャンクション駅である男性を逮捕した。鉄道警察では酒類の密輸を
定期的にチェックしており、それに引っ掛かったのが、サンジェイ・プラサード

容疑者だったのだが、彼は酒の密輸で捕まったわけではない。

プラサード容疑者が密輸していたのはなんと!大量の人骨だったのだ。
しかも大量に。警察によるとプラサード容疑者は、ブータンに人骨を密輸しようと
していたことを認めた。人骨はインド北部のウッタル・プラデーシュ州バレーリーで
購入したもので、黒魔術とオカルトの儀式に使用される予定だった。(カラパイア)


「India Times」から、押収された頭蓋骨
xxxs (4)

今回はこのお題でいきます。自分はオカルト研究をしているので、
その関係のニュースはできるだけチェックするようにしているんですが、
これはちょっと意表をつかれました。特に「ブータンで黒魔術」というところです。
ただまあ、考えてみると、いろいろ納得できる点があります。

まず、ニュースをもっと詳しくみてみましょう。プラサード容疑者が

ブータンに人骨を密輸したのはこれが初めてではなく、過去に2度ほど

運んだ経歴があるようです。押収された人骨は、頭蓋骨16個、大腿骨34個。

なるほどねえ。これらは容疑者が集めたのではなく、インド北部の

ウッタル・プラデーシュ州の都市、バレーリーで購入したもののようです。

では、このニュースを3つの点から読み解いてみましょう。どれから

いきましょうか。まず一つめ、もともとインドでは人骨が売買されていたこと。
インドは18世紀に、イギリスの東インド会社が設立され、
実質的な植民地になりましたが、そのころからすでに、インドヨーロッパの
人骨輸出ルートがあったと考えられています。

その人骨は何に使われたかというと、最も需要があったのは骨格標本です。
ヨーロッパの各大学には医学部があり、解剖学の講義が行われていましたが、
そこで骨格標本は必需品でした。あとは美術学校がデッサンの

授業のために買うとか、貴族が館に展示するためとか、用途はいろいろですが、

秘密結社が流行していた時代なので、もしかしたら黒魔術の儀式に

使用されたものもあるのかもしれません。

骨格標本
xxxs (1)

標本は幼児から大人のものまでそろっており、大学のあるような都市には、
骨を油抜きして漂白する職人がおり、腕が良ければかなりの収入を得ていました。
この他、死体の皮膚をなめす職人なんかもいたんですね。人間の皮膚は、
本の装丁に使われたり、死刑執行記録を書くための用紙になったりしました。

本になるのは、主に、故人が「自分の皮で本をつくって家族に渡してくれ」
などと遺言した場合ですね。骨格標本にはランクがあり、
体格のよい一人の人物の全身骨格がAランク。複数の遺体からパーツを集め、
つなぎ合わせてつくられたのがBランクです。

骨格標本が壊れてしまった場合のパーツも保管されていました。
この当時、紙パルプで人工的に骨格標本をつくる技術もあったんですが、
それは精度が低い上に、値段も割高になってしまいます。ですから、
流通していたのは本物の人骨で、多くはインド人のものでした。

日本でも、明治時代に創設された大学には、ドイツから輸入された人骨標本が
あるという話は聞きますね。2つめ、人骨はインドでどうやって集められたか。
これもほぼ推測できます。ウッタル・プラデーシュ州というのは、
ブータンとの国境近くなんですが、この州には、ガンジス川沿いに位置し、
ヒンドゥー教の一大聖地として有名なヴァラナシがありますよね。

ヴァラナシのバーニングガート
xxxs (5)

ヴァラナシは「死に出の地」としても知られ、ヴァラナシのガンガー

(ガンジス川)近くで死んだ者は、輪廻から解脱できると考えられています。
ですから、インド各地から、多い日は100体近い遺体が運び込まれます。
ガートという傾斜した階段状の沐浴場があるんですが、
火葬場としての役割を果たしていて、死者はここでガンガーに浸されたのち、

ガートで焼かれ、遺灰はガンガーへ流されます。ヴァラナシに行かれた方は、
目にされたんじゃないでしょうか。ただし、乳児や妊婦、
それと毒蛇に噛まれて死んだ者の遺体は焼くことを禁じられていて、
布でくるんで重しをつけ、ガンガーに沈められます。おそらく、
上記ニュースの骨は、そこで焼け残ったりして放置されていたものでしょう。

さて、3つめ、それらの骨は、いったいブータンで何に使われたんでしょうか。
「黒魔術」ということはないですよね。これは、西洋の反キリスト教的な概念です。
ブータンというと、「ほほえみの国」とか「国民の幸福度世界一」とか、
そういうイメージがあります。このあいだ、若い国王が来日してたんじゃないかな。

ブータンの僧院
xxxs (6)

ブータンの宗教は、「チベット仏教」です。チベット仏教といえば、
ダライ・ラマが何度も輪廻転生して衆生を導くことが有名ですが、
たしかブータンにも化身ラマがいたはずです。
では、仏教国であるブータンで、人骨は何に使われたのか。

押収されたのは、頭蓋骨と大腿骨ですよね。ずばり、大腿骨は「骨笛」でしょう。
仏教儀礼には骨笛が使われていたはずです。頭蓋骨も同じく、
仏教儀礼での飲み物の器です。ブータンにいくつもある僧院では、
これらはたいへん需要が高いんですね。

あとは、骨の粉末を薬として用いてたなどのこともあるかもしれません。
それにしても、インドで解脱を求めて亡くなったヒンドゥー教徒の骨が、
ブータンでの仏教儀式に使用されるというのは、
皮肉と言えばいいのか、よくわからないですねえ。

骨笛
xxxs (3)

ちなみに、頭蓋骨には特別な魔力があるとして、西洋でも東洋でも、
宗教儀式に使われています。日本では、弾圧されて消滅した「真言立川流」で、
髑髏本尊とされたことは有名ですが、それが実際にあったことかどうかは、
はっきりとはわかりません。後世の伝説かもしれないです。

さてさて、ということで、素人の自分でもこれくらいわかるんですが、
オカルトの専門サイトが、「ブータンで黒魔術」は変じゃないでしょうか。
それとも、ブータンに遠慮してわざとぼかしてあるんでしょうかね。
その可能性もあるのかな。では、今回はこのへんで。

ジュルジュ・ド・ラトーゥル『懺悔するマグダラのマリア』
xxxs (2)