今回はこういうお題でいきます。カテゴリはオカルト論です。
以前、『グレーテスト・ショーマン』というアメリカ映画が公開されましたが、
みなさんの中で、ご覧になった方はおられるでしょうか。この映画、
なかなか評価の難しい内容で、アメリカでの評論家の意見も分かれています。

映画にもなったP・T・バーナム
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さて、映画の主人公になったP・T・バーナムは、19世紀に活躍した
アメリカの興行師です。アメリカの国土はひじょうに広いですよね
しかも、ふだんは娯楽がほとんどない田舎町が数多く点在しています。
かつてアメリカの興行師は、自分の目玉となる展示物をかかえて、
そういう町々を興行して回ることが多かったんです。

そのような見世物の中には、インチキなものがかなり混じっていました。
バーナムが最初に手がけた興行もその類で、1835年、彼は、
年老いた黒人奴隷の女性ジョイス・ヘスを、安価な値段で買い取りました。
これはもちろん、リンカーンによる奴隷解放宣言以前の話です。

で、バーナムはどうしたかというと、「ジョイス・ヘスは今年で160歳になり、
アメリカ初代大統領、ジョージ・ワシントンの乳母をしていた」という

ふれこみで、アメリカ全土を興行して回り、たいへんな成功を収めたんですね。
ちなみに、ジョイス・ヘスが亡くなった後、その年齢が調査され、
70歳を超えていないことが判明しています。

 

見せ物小屋



こういう形で、何もないところからネタを作って金を産み出すのが

当時の興行なんです。これは日本でも同じでした。

日本の見世物の伝統は古く、江戸時代以前からあります。「大イタチ」

という話は有名なので、ご存知の方も多いでしょう。見世物小屋の宣伝書きに、

「○○山中でつかまえた大イタチ」と書かれていて、木戸銭を

払って入ってみると、大きな板があり真ん中にべったりと血がついている。

つまり「大板血」なわけです。小屋の中に入ってそれを見た人は、最初は

「騙された」と憤慨するものの、やがてその洒落っ気に笑いだしてしまう。
もし、どうしても納得しない客がいれば「お代は見てのお帰り」。
木戸銭を取らなければいいわけで、元手はタダみたいなものなので、
それでも商売が成り立つんですね。

「カーディフの巨人」
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「カーディフの巨人」という、この手の有名な話があります。
ジョージ・ハルという人物が、カーディフという町の郊外に

身長3mの石膏像を埋め、自分で掘り出して、井戸掘削のときに

見つかった「巨人の化石」として展示を始めました。誰が見ても、

ひと目で人工物とわかるずさんなものでしたが、いったん興行を始めると、
全米各地から、毎日数百人の見物人が訪れたといわれます。

これに目をつけたのがバーナムです。バーナムはハルに、巨人の貸出を持ちかけ、
断られると、自分で、石、粘土、乾燥卵などを混ぜて第二の巨人を制作、
それを用いて全米で興行を始めました。当然、この巨人について、アメリカの

考古学者などから、本物ではないというクレームがつきましたが、バーナムは、

「世間は騙されたがっている」という言葉を吐いて平然としていました。

この話は、オカルトのある一面を表していると言えます。「ミネソタ・アイスマン」
というのを、オカルトにくわしい方なら知っておられるかもしれません。
1967年、ベーリング海峡の氷塊の中から氷漬けのまま発見されたという、
謎の類人猿型未確認生物がミネソタ・アイスマン(下図)。

「ミネソタ・アイスマン」
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この正体は、じつはハリウッドで制作された着ぐるみなんですが、全米各地で
巡回興行されて大評判になりました。もちろん疑いを持つ専門家も

多かったんですが、バーナムの言葉どおりの結果になったんですね。

この手のオカルトは、手を変え品を変え、現在でもいろんなものが出回っています。

「巨人ネフィリム」の生きた化石(笑)


さて、バーナムにはもう一つの名言が知られていて、「どんな人にでも当てはまる
要点というものがある」というものです。アメリカの心理学者ポール・ミールが、
このことを証明しようとして実験を行い、結果を「バーナム効果 Barnum effect」
と名づけました。これは現在でも、心理学用語の一つになっています。

どんな実験が行われたのか。フォアという心理学者が行ったものを見てみましょう。
フォアは、学生たちを被験者にして、簡単な心理テストを行い、その結果として、
「あなたは他人から好かれたい、賞賛してほしいと思っており、
それにかかわらず自己を批判する傾向にあります.」

「あなたは弱みを持っているときでも、それを普段は克服することができます」
「あなたは使われず生かしきれていない才能を、かなり持っています」
「あなたは人前では自制的ですが、内心ではくよくよしたり

不安になる傾向があります」などの分析結果を示しました。

ですがこれ、心理テストとは何の関係もない、雑誌などに

載っている占いの内容を、適当に組み合わせただけのものです。

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ところが、学生たちにこの結果が自分に当てはまっているかどうかを
5段階評価させると、学生たちの平均は4.6。つまり、ほとんどの学生が、
「このテスト結果はよく当たっている」と考えたことになります。
バーナム効果はくり返し追試され、その正当性が認められています。

その後の実験で、バーナム効果は、
・被験者がその分析は自分にだけに適合すると信じている
・被験者が評価者の権威を信じている ・分析が前向きな内容ばかりである

という3つの条件を満たすときに、最も強く発揮されることがわかっていて、
じつは、これを利用している占い師は多いんですよ。

さてさて、ここまで見てきたように、興行師バーナムは心理学者では

ありませんでしたが、人間がどういうものか、

たいへんよく理解していました。それがあったから、数々の興行を成功させ、

現在のオカルトにつながる源流を作っていったわけですね。
では、今回はこのへんで。

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