今回はこういうお題でいきます。かなり地味な内容になると思いますので、
スルー推奨かもしれません。さて、何から書いていきましょうかね。
まず、ざっと錬金術の歴史をふり返ってみると、
もともとは古代ギリシアで発展した化学的な知識です。

それが、ヨーロッパと地中海をはさんだイスラム社会に広まったんですが、
ヨーロッパのほうは、次第にキリスト教が勢力を拡大していきます。
392年、ローマ帝国がキリスト教を国教化し、これ以降、
キリスト教の世界観に合わないものはどんどんヨーロッパから排除されて

しまうんですね。科学的な思考によらない神中心の時代になります。

一方、イスラム社会では、天文学や錬金術、医術などが独自の発展を
とげていました。これが、聖地エルサレムをイスラム教諸国から奪還する目的で
派遣されたカトリックの十字軍によって、再発見されることになります。
東方の文物が西ヨーロッパに流入し、交易が盛んになり、その過程で、
中世のヨーロッパに錬金術の概念が持ち込まれるんですね。

十字軍遠征
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それがだいたい12世紀頃のことです。ですから、
錬金術は「古代ギリシア→中東イスラム社会→西ヨーロッパ」
の流れで伝播していったんです。ちなみに、自分がやっている占星術も、
この十字軍遠征によってヨーロッパに広まりました。では、中世の

キリスト教勢力は、錬金術に対してどのような態度を取っていたんでしょうか。

これは、錬金術の目的を考えるとわかりやすいと思います。
錬金術の目的は、大きく2つあります。一つは、「賢者の石」を用いて、
銅などの卑金属を金に変えること。もう一つは「生命の水 エリクサ」
によって不老不死の肉体を得ることです。
賢者の石が液体化したものが生命の水とも言われます。

ですが、この2つの行為は、どちらもキリスト教では異端とされました。
まず、キリスト教では創造は神にしか許されないことです。
それと、人間はアダムとイブが犯した原罪によって、
必ず死ななくてはいけない定めになっていて、
不老不死はそれに反するものだったんですね。



そのため、中世のキリスト教会は錬金術を表向きは禁じていました。
でも、何事にも裏と表がありますよね。
錬金術は、成功すれば、わずかな投資で莫大な利益を得ることができます。
そのため、ヨーロッパの王侯貴族の中には、こっそりと錬金術師を雇い、
密かに研究に従事させるケースが多かったんです。

その場合、錬金術師は、表向きは医師、あるいは占星術師を名乗っていました。
これらは禁じられてはいなかったからです。また、錬金術師の中には
神学の博士号を持つものもいて、後述するファウスト博士もその一人です。
錬金術師は何らかの副業?をかくれみのとしている場合がほとんどでした。

現代のわれわれは、卑金属から金をつくるのが現実的には不可能なことを
知ってますよね。錬金術師の実験はすべて失敗に終わり、
王侯貴族は結果的に大損をしています。錬金術師の中には、
金をつくることは無理だと知っていて、最初から金持ちをだます目的で
取り入っていく者も多かったんです。

キリスト教の側でも、13世紀の有名な神学者トマス・アクィナスは、
「錬金術が魔法の域にならない限り、これを合法の学問とする」と述べて、
錬金術を庇護しています。カトリックの聖職者の中にも、
密かに錬金術を研究するものは少なくありませんでした。

ファウスト博士と契約した、悪魔メフィストフェレス
タイトルなし

また、万有引力の法則を発見したアイザック・ニュートン、
惑星運動の法則の発見者、ヨハネス・ケプラーも錬金術を研究していたことは
よく知られています。まあ、これは科学という概念が定まっていない
時代においてはしかたがないことでしょう。

それと、キリスト教会でも錬金術的な行為を行っていました。
ヨーロッパにある修道院では、各種の薬草とアルコールを独自の製法で配合し、
「エリクサ」をつくって資金源とすることが多かったんです。修道院で
つくられたリキュールとしては、フランスのシャルトリューズ酒などが有名です。

シャルトリューズ酒


こうして、キリスト教は錬金術を基本的には禁じながらも、
需要が大きいため、見て見ぬふりをすることで対応してきたんですが、
決定的にダメな場合もありました。錬金術が悪魔の力を借りて行われることです。
みなさんはゲーテが書いた戯曲『ファウスト』をご存知だと思います。

あの主人公のヨハン・ファウストは、16世紀に実在した錬金術師で、
「悪魔と契約して不思議な力を身につけた」という噂が広まっていました。
最期は、ドイツ貴族に雇われて実験をしていた最中、
薬品の爆発によって五体がバラバラになったとされますが、これが、
契約していた悪魔に魂を取られたという伝説につながっていくんですね。

ヨハン・ファウスト博士
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また、医師のパラケルススも悪魔とのつながりの噂がつきまとっていた
人物です。中世ヨーロッパでは、ある人物を失脚させるために、
わざと悪魔との関係を指摘するケースも多かったんです。ここまでのことを
一言でまとめると、キリスト教はその歴史において、つかず離れず、
きわめて巧妙に錬金術を利用してきたと言うことができると思います。

さてさて、ということで、錬金術の歴史をざっと見てきましたが、
錬金術はその成果として、天文学、化学、薬学、医学、土木工学などの
基礎を生み出し、それが現代の科学につながったという面は否定できません。
では、今回はこのへんで。


パラケルススがつくり出したとされる人工生命体「ホムンクルス」