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三皇五帝

今回はこういうお題になります。うーん、古代史研究においては
大切な話なんですが、かなり地味な内容になると思われるので、
特に興味のない方はスルーされたほうがいいかもしれません。
さて、中国4000年とも5000年の歴史とも言われますよね。
その頃の日本は縄文時代です。

縄文時代の始まりは、今から約1万6000年前とみられますが、
日本の歴史が古いとはあまり言われません。
これはどうしてかというと、一番大きな理由は、日本の縄文時代は
小集団がバラバラに生活していて、大きなまとまりがなかった
ためだと考えられます。あと、文化の程度ということもあるでしょう。

中国では、周王朝が紀元前1000年、商(殷)王朝が紀元前
1600年、夏王朝が紀元前2000年頃に成立したと
言われています。ただし、夏については詳しくはわかっていません。
また、これらの王朝は、後代とは異なり、中国の広い地域を
支配していたわけでもありません。

女媧と伏犠
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では、夏王朝以前には何があったかというと、三皇五帝が支配していた
とされます。もちろん、三皇五帝が歴史的に実在していたという
根拠はなく、現代の中国でも、この部分は神話であると考えられて
います。では、三皇五帝とは誰のことを指してるんでしょうか。

これ、いろんな説があってはっきりしないんですよね。いちおう
『史記』の説をとれば、三皇は、「 伏犠、女媧、神農 」。
五帝は、「 黄帝、顓頊(せんぎょく)、嚳(こく)、堯、舜 」
です。ただし、実際に司馬遷が書いたのは五帝の部分だけで、
しかも、存在は疑わしいという注釈までつけています。

最初の神 盤古
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それより古い三皇については、唐の時代に『史記』を補筆した
司馬貞という人物がつけ加えた新しい内容です。
おそらく、司馬遷の時代には、まだ女媧や神農のエピソードが
広まっていなかったと考えられます。

みなさんは、「加上説」という言葉をご存知でしょうか。
神話研究などに使われる用語ですが、簡単に言うと、
古い時代の神話ほど新しい時代に成立し、神話が複雑さを
増していくといった内容で、よく引き合いに出されるのが、
この中国の例なんです。

中国神話では、盤古(ばんこ)が最も古い神ですが、中国人の
研究者によれば、周代に最古の人とみなされていたのは禹であり、
春秋時代に堯と舜、戦国時代に黄帝と神農、秦代に三皇、
漢代以降に盤古が加えられたと論じられています。
これ、自分はおおむね正しいと思っています。

陰陽を表す太極図
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加上説は世界の他の地域の多くの神話にもあてはまり、
日本神話も例外ではありません。なかなか話が前に進みませんね。
さて、中国には「陰陽五行説」があり、大きな影響力を
持っていました。中国にはさまざまな宗教がありますが、
インドから伝来した仏教をのぞいて、

儒教でも道教でも、陰陽五行説は当然の真理として取り入れられて
います。中国のあらゆる思想を横断する概念なわけです。
陰陽五行説が成立したのは、中国の春秋戦国時代頃と考えられ、
陰陽説と五行説はそれぞれ別個に発生し、後代になって
一つに結びついたものであることがわかっています。

封禅の儀
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で、この陰陽五行説が、中国神話の成立にも大きな影響を与えて
いるんですね。中国の最初の神、盤古は体の大きな巨人で、
生まれたとき、天と地とは接していて区別がありませんでした。ところが
盤古が日に日に成長していくと、軽いものが上に押し上げられて
天になり、重いものが下に沈んで地になって陰陽が分かれた。

まあ、世界は最初混沌であったとする神話は各地にありますが、
中国神話の場合は、陰陽という概念から、かなり後代になって
盤古の存在が考え出されたんです。古い書物で、盤古の名前が
出てくるものはないんですね。ちなみに、陰と陽はどちらがより
重要ということはなく、互いに補完しあう関係です。

また、五帝の最初である黄帝も、五行説から生まれたもので
あるという説があります。下の図を見ていただければ
わかりますが、五行は「土、火、金、水、木」で、それぞれ季節や
方角が対応しています。また、色は、土ー黄、火ー赤、金ー白、
水ー黒、木ー青(緑)です。

五行図
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つまり、黄帝が五行説の中央に位置する神なんです。一説によれば、
黄帝は他の4人の帝、炎帝、蚩尤(しゆう)たちを戦いで倒し、
中国で最初の皇帝の座についたとされます。「黄帝」と「皇帝」は
中国でも日本でも、発音がまったく同じなんですね。

帝位についた黄帝は、中国東方の泰山に登り、封禅の儀を行って
帝位についたことを天に報告します。この儀式は、後に中国を統一した
秦の始皇帝も行っていますが、そのときには誰も儀式のやり方を
知らなかったという逸話が残っています。封禅の儀という言葉だけが
つくられて、実体はなかたっということでしょう。

最初の帝 黄帝
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さてさて、ということで、退屈な話にここまでつき合っていただいて
ありがとうざいます。結論として、中国の古い神々は新しい時代に
つくられたもので、その成立は陰陽五行説の影響を強く受けている
ということなんです。自分はこれ、日本の天照大神、神武天皇などにも
あてはまると考えています。では、今回はこのへんで。

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