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今回はこういうお題でいきます。2018年度のノーベル医学・生理学賞を、
京都大学出身の本庶佑博士が受賞されました。その受賞理由は、
PD-1受容体の発見と、これまでの抗癌剤とはまったく作用機序の異なる
免疫チェックポイント阻害薬、ニボルマブ(商品名オブジーボ)の開発です。

この受賞により、「ノーベル賞の薬オブジーボ」をぜひ使いたい、
という問い合わせが医療機関に殺到しているようです。ですが、オブジーボが
健康保険適用になるためには、さまざまな条件があります。例えば胃がんであれば、
「2つ以上の化学療法歴のある治癒切除不能な進行・再発胃がん患者」です。
適用になっていないがん種もありますし、誰でもが使えるわけではないんですね。

免疫チェックポイント阻害薬の作用機序 クリックで拡大できます
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もちろん、自由診療として自費で使うことはできますが、その場合は

非常な高額になります。また、自由診療を行っているクリニックなどには、
はっきり言って詐欺まがいのところもありますし、重篤な副作用が起きた場合、
それに対応できずに、患者が亡くなってしまうケースもあるんです。

「医療の不確実性」という言葉があります。これは、医療は他の自然科学のように
数式どおりの結果が出るわけではない、という意味です。オブジーボにしても、
病気の条件が同じ患者に投与しても、効く場合もあれば効かない場合もある。
副作用も、出る人もいれば出ない人もいる。このような点から、
「医学は数学ではなくアートである」などと言われたりしてきました。

さて、ここで話はパラケルススに移りますが、本が何冊も書けるほどの
エピソードがあります。ですから、本記事でご紹介するのは、
ほんのさわりだけです。パラケルススはスイス生まれ、16世紀に活躍した
医師、錬金術師、神秘思想家。もちろん実在の人物ですが、
「パラケルスス」は本名ではなく、ペンネームのようなものです。

パラケルスス
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パラケルススはたいへんに型破りな性格でした。その生涯は、放浪と論争に
終始しています。放浪は、ヨーロッパ全土のみならず、アジアやアフリカ大陸
にまで及びました。そしてその行く先々で地元医師と対立しているんですね。
これは、パラケルススの医学が、それまでとは別の方法論をとっていたからです。

当時のヨーロッパ医学は、古代ギリシアの前5世紀ころの医師、ヒポクラテスの
説に基づいていました。ヒポクラテスは「医学の父」と呼ばれ、現代でも、
「ヒポクラテスの誓い」が医学教育に用いられています。ヒポクラテスの説は、
「四体液説」と言われ、その後千年以上の間、医学のベースとなってきました。

ヒポクラテス
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簡単に説明すると、人間の体液には「血液・粘液・黄胆汁・黒胆汁」があり、
それらの相互作用によって病気が起きるというものです。ですが、パラケルススは、
それを真っ向から否定し、「三原質説」を唱えました。三原質とは、
「塩・硫黄・水銀」ですが、これは錬金術で重要視される物質です。

「四体液説」
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また、パラケルススは、星の動きが人間の体調に影響を与えるという、
「医療占星術」も説いています。まあ、現代のわれわれの目から見れば、
「四体液説」も「三原質説」も、どっちもトンデモなわけですが、
パラケルススのすごかったのは、実際に病気を治せたところです。       

パラケルススが放浪の途中、現フランスのシュトラスブルクを訪れたとき、
人文主義者のヨハン・フローベンが重い病にかかっており、地元の医師たちは
下肢の切断を提案しましたが、それは当時、命の危険が大きい手術でした。
そこで、パラケルススは、下肢の切断をせず見事に治療してみせたんですね。

これにより、信頼を勝ちえたパラケルススは、バーゼル大学の医学教授に
推薦されました。しかし、ここでもパラケルススの反骨精神が頭をもたげ、
当時の大学教授は赤い帽子を被り、ガウンを着て講義を行う規則だったのに対し、
黒いベレー帽、薬品で汚れた服で講義を行い、権威ある医学書を
学生の面前で燃やしたりしたため、2年ほどで追放されてしまいます。

 

本庶佑博士



パラケルススは、放浪中、ザルツブルグで48歳で亡くなっていますが、
その死には、病死説の他に、水銀中毒説、他殺説があります。19世紀に、
パラケルススの墓が発掘され、遺骨を調べると、頭蓋骨の後頭部に外傷らしき

跡が見つかりました。これにより他殺説が有力になったんですが、
後に、くる病の後遺症と診断されました。ただ、これには異説もあります。

パラケルススには数々の逸話があります。例えば、悪魔との知恵比べに勝って、
自由自在に悪魔を使役していたとか、人造人間ホムンクルスを造ったとか、
死体蘇生術に成功したとか。たしかに、パラケルススは神秘思想的な著作を残しては
いますが、これらは、後世の人間が面白おかしくつけ加えた伝説でしかありません。

ホムンクルス
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パラケルススの本質は、当時定説とされた医学常識に疑いを持ち、
経験主義的に治療を行った、優れた医療者だったことです。その業績の一つとして、
阿片や、ヒ素などの金属化合物を初めて医薬として採用したことがあげられます。
これにより、パラケルススは「医化学の祖」と呼ばれています。

さてさて、オブジーボの話に戻って、もちろん画期的な業績ではありますが、
「どんな癌にでも効く夢の治療薬」ではありません。現代の医学は、癌どころか、
風邪やニキビ、アトピーだって完全に治せてはいないですよね。
ただし、癌とは違ってまず命に関わらないので、大きく問題視されていないだけ。
それほど病気の治療は難しいんです。

ただ、パラケルススのように、既存の説を疑い、
新しい方法論に挑戦していくことは大切だと思います。本庶博士も、
受賞の弁で、「教科書を信じるな」 「科学は多数決ではない」
と述べておられましたね。では、今回はこのへんで。