ひと月ほど前のことです。自分(bigbossman)が共同事務所で仕事してると、
訪ねてこられた人がいまして、出てみると、30代に見える男性でした。
占星術だったら予約を取ってくださいと言ったんですが、
そうではなく、心霊現象に関する内容ということでしたので、
応接室に入っていただいて、話をお聞きしました。
お名前はMさんとしておきます。Mさんはミニコミタウン誌の編集をされている
ということでした。「幽霊とか、そういう関係にお詳しいと知人から聞いて、
うかがいました。よろしくお願いします」 「いや、こちらこそ」
「最初から順を追ってお話していきます。僕が編集をしているミニコミ誌ですけど、
〇〇市のものなんです」 「はい」 「それで、先月号で、市の今と昔という
特集をやりまして」 「ははあ」 「市役所の資料室から昔の写真を借りてきて、

何ヶ所か、同じ場所の現在の画像と比較しようと思ったんです」
「なるほど、で?」 「7ヶ所の比較をしたんですけど、そのうちの1か所ので、
奇妙なことに気がつきました」 「はい」
「その古い写真のほうは、昭和26年に撮られたもので、JRの駅に近い、
線路に沿った道です」 「昭和26年というと、終戦後の、まだ米軍の占領下の時期
ですよね」 「そうです。ご存知ではないと思いますが、〇〇市は、
昭和20年の春に大規模な空襲がありまして、市街の大部分が焼けてるんです」
「はい」 「その6年後ですから、まだまだ復興はなっておらず、
高い建物はなくて、道沿いにずっとバラック小屋が立ち並んでました」
「はい」 「で、うちのスタッフが、その同じ場所を撮影したんです。現在はね、
典型的な駅裏の飲み屋街になってるんですが、道路はほとんど変わってません」

「それで」 「タウン誌の1ページの上下に、昔と今の写真を並べて、
Macでレイアウトをしてたんです。そしたら、おかしなことに気がついたんです」
「どんな」 「昔のほうの写真、通行人が何人か写ってるんですが、
奥のほうに防空頭巾にモンペ姿の女性が見えたんです」 「それが?」
「変じゃないですか。もう戦後ですから、空襲なんてないわけですし」
「その写真、雑誌に載せられたんですよね」 「いいえ、でもゲラはあります」
「今、持ってこられてますか」 「ああ、はい、これです」
「えーと、あ、この人のことですか。たしかに防空頭巾に見えますが、
ピントが合ってなくてはっきりしませんね」 
「それで、下の現在の写真を見てください」 「はい・・・え、これ、
防空頭巾の人がいますね、いやまさか、現代ですよねえ」

「ね、不思議でしょう」 「うーん、不思議です。今どきそんな格好をしてる人が
いるわけないし、ドラマの撮影とかじゃないんでしょう」 「そうです。でね、
上はモノクロで、下はカラーですけど、同じ人物に見えませんか」 「・・・ああ、

ほんとですね。上の写真は小さくてはっきりしないけど、モンペの柄が同じに

見えます」 「で、これ、その人物だけを拡大したものです」 「防空頭巾で

隠れてるけど、若い女性ですよね。そうですねえ、似ていると思います」
「ええ。でも、ありえないですよね。昭和26年は、今から67年前です。そんな

長い時間を経て、同じ人物が同じ場所で写真に撮られてる。しかも防空頭巾姿で」
「あの、下の写真を撮られたスタッフの方、そのとき、この人物に気がついて

たんですか」「聞いてみました。そしたら、写真を改めて見てびっくりしてて、 
こんな人がいたのなら、絶対にわかったはずだって言うんです」 「ですよねえ」

「それで、特集には採用できなかったんですけど、個人的に気になりまして、
自分で同じ場所に行って撮影してみたんです」 「で」 「そしたら何もおかしな

ものは写ってなくて」 「はい」 「でもね、まだ納得できなかったんです。

それで、ほらここ、飲食店が入ったビルがあるでしょ」 「ええ」 「前に

取材して、そこのオーナーを知ってるんですよ。頼み込んで、ビルの植え込みの

横にビデオカメラを設置させてもらったんです」 「ほう」 「ただ、一日中

写してたんじゃ、見るときにたいへんですよね。だから1時間おきに、
10分間だけ撮影するようタイマーをセットしました」 「で」
「そしたら、夕方の4時から4時10分に、この人物が写ってたんです」
「データありますか」 「はい、ここのMac、お借りできますか」 

「かまいません」ということで、その動画を見せてもらったんです。

そしたら、4時2分の表示のとき、写真と同じ店の前に、ぼうっと防空頭巾姿の

女性が現れたんです。その姿は透けてるとかではないんですが、なんというか、
生きてる人間には見えなかったです。書き割りみたいにその場にたたずんで、
ピクリとも動かなかったせいかもしれません。うつむいた防空頭巾の下の顔が

少し、服やモンペの柄が確認できましたが、写真と同じでした。10分で

映像がきれるまで、ずっと写り続けてたんです」 「他の時間帯には写って

なかったんですよね」 「そうです」 「なんで夕方のこの時間なんでしょうね」
「僕も気になって、少し調べてみたんですが、昭和20年に空襲があったって

言いましたよね。その時間帯がちょうどこのあたりなんです」 「ははあ、

じゃあこの女性、そのときの空襲で亡くなった人なのか」 「そうだと思います」
「この話、続きがあるんですね」 「はい。出現する時間帯がわかったので、
 
翌日ね、その時間に直接行ってビデオ回したんです。もっと性能のいいやつを」
「はい」 「結果から言うと、何もおかしなものは写りませんでした」
「で」 「ただ、その撮影中に、すごく気分が悪くなったんです。頭が

グラグラして、植え込みの陰で吐いてしまいました」 「うーん、で」
「その日から、体調が絶不調になったんです。だるくて朝起きられないし、
無理に起きるとめまいがする。それで、同棲してる彼女に病院に連れてって
もらったんですが、いろいろ検査しても、はっきりした異常は見つからなくて」
「霊に憑依されたってことですか」 「そう思いますよね。僕、そういう

心霊現象とか信じてなかったんですけど、体調がどうにもならなくて、
大阪の霊能者を調べて相談に行きました」 「何という方ですか」
「〇〇先生です」 「ああ、お名前は聞いたことがあります。それで?」

「先生が言うには、霊が憑いてるには間違いないが、僕のことを恨んでるの

ではなく、何かかなえてもらいたいことがあるみたいだって」 「かなえて

もらいたいこと?その女性の身元とかわかったんですか?」 「いえ、

〇〇先生にもそこまでは。ただ、空襲のときに死んだのは間違いないだろうし、

望んでることは、立ってる場所に関係があるんじゃないかと」 「うーん、

これ串カツ屋の前ですよね。まさか串カツが食べたいわけじゃないでしょうし」 

「それで、自分では動けないんで、彼女と雑誌の編集スタッフに頼んで、

その場所を調べてもらったんです」 「で」 「でも、飲食店街ですから、

店は何代も替わってるし、すごく大変でした。それでもなんとか、戦争中の

ところまでたどり着きまして」 「すごい、それで?」
「その場所は市街地だったんです。B家という家族が住んでました」
「で」 「ただ、娘さんはいなかったんです。息子さんが2人いて、

その長兄のほうが戦争で亡くなってます。でね、その人には、出生前に婚約した
許嫁がいまして、名前もわかりました」 「B家の人たちが、今どこに住んでるか
探し出せたんですね」 「はい、その市からは出てましたが、大坂府内に弟さんが

健在でした」 「で」 「その頃には、すごく体調が悪くなってて、歩くのも

やっとだったんですが、〇〇先生やスッタフに助けられてBさん宅まで行き、
事情を話して、仏壇にお参りさせてもらたんです」 「ははあ」
「仏壇には、戦死したお兄さんの遺影もありました。でね、手を合わせたとたんに、
すうっと体が軽くなったんです」 「うーん、女性の霊が離れた」 「そうです。

〇〇先生の話では、それで女性が成仏したんだろうって」 「なるほどねえ、で、

現在は?」 「あれ以来、ごらんのように体調は元に戻りました」
「それはよかった」 「でもね、いろいろわからないことがあるんです」

「というと?」 「まず、そのときの空襲で亡くなった方は3000人ほどです。
その中には、苦しんで死んだり、この世に未練を残した人はたくさんいたと

思うんです」 「おそらくそうでしょう」 「なのに、何でその女性だけ

霊となったのか」 「・・・」 「それと、もう一つわからないのが、

その女性は空襲で亡くなってる。それから婚約者は南方で戦死してるわけで、

どちらも故人ですよね。もし、霊界とかそういうものがあるのなら、2人はそこで

出会うことができるんじゃないんでしょうか。幽霊になって、この世にずっと 

とどまってる意味がわからないです」「・・・確かにそう言われてみれば

そうですね。あ、そうだ、〇〇先生はどうおっしゃっていたんです?」 「それが、

それは先生にもわからないそうです。霊に関することは対処療法しかできず、

われわれにも詳しい原理みたいなものは理解できてないって」 「いや、貴重な

お話、ありがとうございます。ブログに載せてもかまわないでしょうか?」