今回はこの話題でいきます。ルイージ・ガルヴァーニ(Luigi Galvani)
という人をご存知でしょうか。18世紀、イタリアの医師、物理学者で、
生体電気と、それから発展した化学電池の研究に、
大きく貢献した人なんですが、日本ではあまり知られていません。

ルイージ・ガルヴァーニ


さて、医師であったガルヴァーニは、カエルを料理して、
彼の患者のスープにするため、医療用メスを使って切り刻んでいましたが、
別々の金属でできたメスをカエルの体にさし入れたところ、
足の筋肉がピクピク痙攣することを発見しました。

それまでは、筋肉が動くのは、体内をめぐる何らかの液体が
筋肉を膨張させるためだと考えられてきましたが、
ガルヴァーニは、その力が生体内の電気によって引き起こされたと推論し、
動物電気と名づけました。

ガルヴァーニの実験


でも、この仮説は間違っていたんですね。ガルヴァーニは、
電気が起きるのは化学反応によると考えた同時代の物理学者、
アレッサンドロ・ボルタと論争になり、ボルタは、カエルの体を

介さなくても電気が化学反応で起きることを実験で示しました。
現在、ボルタ電池と呼ばれるしくみです。

カエルの体は一種の触媒の役割を果たしたのであり、それがなくても、
うすい塩酸に亜鉛板と銅板などを入れれば電気が発生します。
しかし、電気によって筋肉が動くことも間違いありません。
そこで、同時代の学者は、こぞってその研究に着手しました。

さて、ガルヴァーニの甥に、ジョバンニ・アルディーニ(Giovanni Aldini)
という人物がいて、この研究について知ると、
カエルよりももっと大きな動物で実験を始めました。しかも

それを研究室内で行うのではなく、公開デモンストレーションとして、
ヨーロッパ各地を巡回しながら実施していったんですね。

ジョバンニ・アルディーニ


まるで見世物ショーのようですが、この公開デモンストレーションが

行われたのは、1789年に始まったフランス革命の真っ最中であり、
ご存知のように、ルイ16世やマリー・アントワネットが処刑されています。
銃を持った市民があちこちにうろうろしていた、血なまぐさい時代にあって、
アルディーニの実験は大ウケし、大喝采を博しました。

実験は、具体的には、屠殺されたばかりの牛や犬、羊などの死体に高圧の

電流棒をふれさせ、体を痙攣させたり、脚を動かしたりせてみせるものでした。
これは首のない死体にも行われたので、観衆はただただ驚くばかり。
で、ここまでくれば、当然人間の遺体でもやってみたくなりますよね。

アルディーニの実験
bdndskia (2)

世紀がかわった1803年、アルディーニはイギリスにおもむきました。
これは、当時の英国では、犯罪者は遺体も罰せられなくてはならない、
という法律があり、実験体が手に入りやすかったからです。
そこでアルディーニが入手したのは、妻と子を溺れさせて殺した罪で
死刑になった、ジョージ・フォスターという男性の遺体です。

実験は王立医師アカデミーの施設で、皇太子立ち会いのもとに行われ、
アルディーニが電気棒をあてると、死体は目を開き、アゴを動かしたと

言われます。さらに、アルディーニが電気棒を遺体の肛門に突っ込むと、
遺体は拳を突き上げ、足をバタつかせたとされ、

観衆に大きな感銘を与えました。

さて、『フランケンシュタイン』はご存知だと思います。
イギリスの小説家、メアリー・シェリーが1818年に匿名で出版した
ゴシック小説で、多くの映画化作品があります。フランケンシュタインは、
吸血鬼、狼男と並んで、世界の3大モンスターなどとも言われます。

メアリー・シェリー
bdndskia (1)

誤解が多いのは、フランケンシュタインは怪物の名前ではなく、
それを創った科学者の名前なんですね。怪物の名前は作中には出てきません。
フランケンシュタイン博士は、自ら墓を暴き、死体を集めて継ぎ合わせ、
それに高圧電流を流して、生命を蘇らせました。

作者のメアリーは、詩人のパーシー・シェリー、バイロン卿らと、
スイス・ジュネーヴ近郊のレマン湖畔に滞在していましたが、夕食の議論の後、
「皆でひとつずつ怪奇小説を書こう」という話になりました。
このときの議論の話題の中心になったのが、ガリバリズム(galvanism)で、
これは、最初に出てきたガルヴァーニによる、一連の発見のことです。

さてさて、ということで、あの名作の誕生エピソードとして、
なかなか面白い話だと思われませんか。現代になっても、電流を流すことによる
死者の蘇生には成功してはいませんが、ガルヴァーニの考え方は、
救命器具のAEDや、脳ニューロンの発火などにつながっているわけです。
では、今回はこのへんで。