私が中1のときのお盆のことです。
その日は父が会社の夏休みで、一家全員がそろって家にいました。
菩提寺へ行き、お墓参りをするのは翌日の予定になっていました。
午後になって、居間でコミックを読んでいたと思います。
玄関で「こんにちはー」という声がしました。

なんとなく聞き覚えのある声だったので、「はーい」と言って

玄関に出ました。小4の妹も後ろについてきました。

玄関では引き戸が閉まっていて、

曇りガラスに人が2人立ってる影が映ってました。

「こんにちはー、竹見でーす」という声がしたので、
「ああ、やっぱり」と思いました。県内の別の市に住んでいる

 

母の弟の人で、家には年に何回か来ていました。
そのときは年齢は30代後半だったはずです。
おもしろい人で、いつも私たち姉妹にはお土産やお年玉をくれるんで、

喜んで戸を開けました。竹見おじさんが目をつぶって立ってて、

体がゆらゆら左右に揺れていました。

その後ろに女の人がいました。ちらっと見えただけですが、若い感じで、
白に青っぽい大きな模様の入った着物を着ていたんです。
妹が「こんにちはー」と大きな声で答えました。
竹見おじさんは玄関前に立ったきり、相変わらず目を閉じたまま。
女の人も動きませんでした。これは家の人を呼んできてくれ、

ということだと思い、妹と居間に戻って「竹見おじさんが来たよ-」と言い、


妹が「女の人もいっしょ」と続けました。
「ええ、人が来た声したかー」と言って父が立ち上がり、
「聞こえなかったけど・・・」と母も台所から出てきました。
それで両親と一緒に玄関に出たら、誰もいなかったんです。
ただ玄関の戸は開いたままでした。「えー」と妹が言ってサンダルを履き、
私も後をついて表の通りまで出てみたんです。
やはりおじさんの姿はありませんでした。
「変だなあ、お前たちたしかに見たのか?」と父が聞き、
「見た見た、女の人も一緒だった」と私と妹が異口同音に答えました。
居間に戻って、さっきのことを詳しく両親に話していると、
当時まだ健在だった祖父が、「白い着物の女の人ねえ、何か気になるな」


祖父は父に竹見おじさんのところへ電話をかけるように言い、
自分は立ち上がって、仏間のほうに入っていきました。
ややあって、祖父はきちんと畳まれた白い浴衣を持ってもどって来て、
私と妹に「お前たちが見たのはこれか?」と広げて見せたんです。
浴衣は新しいものではなく、背中のところに大きな染みがうっすらと

残っていました。白地に大きく青い牡丹の模様が散っていました。
「あーそれだと思う」 「それそれ、間違いない」私と妹が答えると、
「うーん」と祖父は顔をしかめたんです。
固定電話に出ていた父が「おじさん、家にいるぞ」と言い、
さらにしばらく話していました。電話が終わったので、

家族がテーブルを囲んで今のことについて話しました。

「それが変な話なんだ。おじさんは家にいて、
あそこからこの家まで車で1時間半はかかるから、来られるはずはない。
ただ、夢を見たって言うんだ。知らない女の人に頼まれてこの家に来たけど、
なぜか玄関を開けることができない。そこへお前らが来て戸を開けてもらった。
ところが声が出てこない。お前らが奥へ引っ込んだ後、
女の人だけがスーッと家の中に入っていった。そこで目が覚めたらしい。
少し頭が痛いから、医者に行こうかそうしようかって言ってた」
祖父が「その女の人はどんな着物着てたか言ってたか?」と聞き、
父は「言ってた。白に青い花模様が入った浴衣だって・・・」
今度は祖父が「仏間に行ってあちこち見てたら、
仏壇下の隙間に白い物が見えて、これが畳んで押し込まれてあった。


お前たちこの浴衣見覚えあるか?」家族全員が首を振りました。
祖父は「そうか。・・・よくはわからんが、
竹見君はこの浴衣の持ち主に操られてきたんだろう。
その女の人がというか、この浴衣が家に来たがってたんだろうな」こう言って、
「この浴衣はどっかに回してやりたいが、何か危ないことがあるんだろうなあ。
・・・俺がやるしかないか」と続けました。その夜です。

祖父は浴衣を自分の和室に持っていき、枕元に置いて寝たんです。
翌朝、早く目覚めましたが、祖父はもうとっくに起きていました。

朝食のときに、祖父が「浴衣はどっかいったぞ。朝起きたらなくなってた」

こう話し、母が「変ですね。それで何か夢でも見たんですか?」と尋ねると、

「見た、見た。道を歩いているとな。きれいな女の人が後ろから近づいてきて、


案内をしてくれるように頼まれた。それで歩いていくと、すぐその家の前に出た。
だけど入って行けないんだ。呼び鈴を押すこともできない。
ただ、来ましたーって声をかけるだけ。すると家の人がきて戸が開いた。俺は

動けないままで、後ろにいた女の人だけがその家に入っていった」と続けました。
「弟と同じですねえ。それで、どこの家に行ったんですか?」と母が聞くと、
祖父は「それがな、目が覚めたとたんにさっぱり忘れてしまったんだ」
と言いましたが、何だかそらっとぼけたような感じにも聞こえたんです。
それからは特に何事もなく、お昼前に父の車で墓参りに行ったんです。
祖父は、お寺の住職がお経を読んでくださった後、
封筒を渡して何か話していました。
話はこれで終わりですが、その年、遠い親戚が2名亡くなりました。


お葬式には仕事を引退していた祖父が行きました。
・・・2名とも高齢でしたので、

浴衣のこととは関係がないんじゃないかと思います。

 

っこいうytr