俺、高橋っていうんだよ。工務店に勤めてる。ふだんは重機の運転を
してるんだ。ブルドーザーとかクレーン車とか。だから仕事は大工じゃなく
土木系だな。家を建てる土台をならしたりするやつ。それでな、こんな
松葉杖なんかついてみっともないけど、これもこの話と関係があるんだよ。
それがちょっと信じられない内容なんだけど、まあ聞いてくれ。
こないだの日曜日、仲間と草野球をやったんだよ。ちょっとした会社の
レクリエーションだ。でもそこで2重に怪我しちまった。
この顔と足だよ。俺がバッターボックスに入って、2アウトでランナーは
1塁。ここでヒット打っていいとこを見せようと思ってたら、
1塁ランナーが盗塁したんだよ。それはいいんだけど、あわてた
相手のキャッチャーが2塁に送球しようとした球が、

俺の横っ面にガーンと当たったんだよ。で、俺は脳震盪でぶっ倒れて、
そんときに足を捻挫しちまったんだ。ほら、この右足のギブスと
アザになった顔がそんときのだよ。俺は意識をなくして、仲間が病院に
担ぎ込んでくれた。気がついたら病院のベッドにいたんだ。
上司がベッドのわきについててくれて、どうしてこうなったか
起きたことを話してくれたんだよ。あちゃー運が悪いなと思った。
だけど、怪我はどっちもたいしたことがなくて、顔のほうはただの打撲。
頭のMRIも撮ったが内部に異常はなかった。足のほうは捻挫。骨折しなかった
のは幸いだが、かなりの重傷で、しばらく松葉杖生活になるってことだった。
仕事のほうはしばらく休んでもいいってことだったが、怪我は
レクリエーションの野球でのことだから労災にはならないって話だった。

まあ、しょうがねえと思って、その日のうちに退院してアパートに
タクシーでアパートに帰ったんだよ。仕事が休みになったのはよかったが、
この足だとなんにもできねえ。明日から何をやって過ごそうかと思ってたら、
タクシーの中でスマホにメールが入ったんだよ。見てみたらこんな内容。
「おめでとうございます。あなたがちょうど1000人目の災厄者に
なりました。つきましては今週中に賞品を送らせていただきます。
お金はいっさいかかりませんのでご安心ください。また、景品を
どのように使おうとも貴方様のご自由です。では、お大事にしてください」
・・・何かの詐欺かとも思ったが、それにしては変な内容だろ。
まあでも、何かの商品を買わせようとしてるんだと思って取り合わない
ことにしたんだよ。

でな、会社では1週間の休みをくれたんだが、出歩くこともできねえし、
翌日から部屋で朝からビデオとか見てたんだよ。足はかなりズキズキ
痛むんで、あまり集中できなかったけどな。で、それから3日後の夕方
6時ころだよ。チャイムが鳴って、出てみると宅急便の配達だった。
けど、通販で何かを買った記憶はねえし、誰かから物が送られてくる
あてもねえ。変だと思ったが、代金は受取済みだってことで、受け取ったんだよ。
送られてきたのは30cm四方くらいの箱。深さもけっこうあった。
で、包み紙をほどいたら、箱の上に紙が何枚かのってたんだ。それには
最初に大きく「日本災厄センター」って書かれてて、宛名が俺の名前に
なってたんだ。それから「おめでとうございます」の文字。こんとき、
あ、そういえばスマホで何かを送るって言ってたっけと思い当たったんだよ。

これがそうなのか。中身はなんだろうな。けどよ、それから紙に書かれてる
ことが実に奇妙だったんだよ。こんな感じだった。「警告!!この箱は
絶対に開けないでください。開ければ何が起きても当方は責任を持てません。
おそらく死亡するか、それ以上にひどい事態になると思われます。
あなたにこれが送られたのは、あなたがこの地域で1000人目の災厄者
だからです。ですから、同封したリストにあなたが遭った災厄の詳細を
書いたら、あなたが人生で一番悪いと思う相手にこれを送ってください。
ただし、送付者の欄にはあなたの名前を書いたりはせず、当社、
日本災厄センターとしてください。くれぐれもご注意いたしますが、
絶対にこの箱を開けてはいけません。また、これらの書類は送る必要は
ありません。いずれ消滅しますので、それまで保管しておいてください。

必ずこのとおりにやってください。でないと災厄があなたのところで
解放されてしまいます。では、ごめんください」
こう書かれてたんだ。変だろ。でな、よっぽど中身を見ちまおうと
思ったが、箱は厳重にひもで縛られてたし、持ってみたら重くはないが、
何だかすごく嫌な気持ちになったんだよ。ああ、ダメだ。これは絶対
開けちゃいけないものだ。そうわかったんだよ。それで紙の2枚目からを
見るとずらずらと災厄のリストが書かれてたんだ。表になってて、最初の欄に
名前があり、その後に「うっかり駅の階段ですべったところで人と
ぶつかってそのまま転落した」とか「フライを揚げてたのを忘れて、つい
他のことをしてしまい、部屋が火事で全焼」した」とか。その手のことが
何枚もの紙にずらずらっと書かれたんだ。それがたぶん999人分。

で、最後の欄が空白になってたんで、きっと俺のことを賭けばいいんだろうと
思って、「会社の野球大会で送球を頭にくらって倒れたときに捻挫した」
って書いたのよ。それがどういう意味があるのかはわからんかったけど。
で、この箱を憎い相手に遅れって指示だったんで、これは少し考えた。でも、
ちょうどその頃、俺には憎いと思ってた相手がいたんだ。といっても、
特に何かをされたわけじゃない。会社の同僚なんだが、とにかく馬が合わない。
いっつもケンカしてばかりのやつがいたんだよ。木村って名前だった。
それで、軽い気持ちでそいつに送ってやろうと思ったわけ。
ごていねいに包みには宅配便の送り状も入ってたんで、会社の名簿で
木村の住所を調べて、送り主の名前は指示どおり日本災厄センターにした。
災厄が書かれた名簿のほうは、机の一番上の引き出しに入れといたんだよ。

それからしばらくは何も起きなかった。で、1週間ぶりに会社に出た。
体のほうはかなり治って、なんとかスムーズに歩けるようになってたな。
で、それとなく木村に「最近、何か送られてきたりしないか?」って聞いて

みたら、「それが変な箱が宅急便で来たんだ。あれ、お前が送ったのか?」
「違う違う。近頃そういう商法が流行ってるってネットで見たから。それ、中を
開けてみたのか?」 「ああ、入ってたのは雛人形の片一方だった。女のほう。
十二単を着たやつ。かなり古いものみたいで、あちこち汚れてた。送ったのは

本当にお前じゃねえのか?」 「違うよ。俺がなんでそんなものを送らなきゃ

ならないんだ」 「だよなあ」 「で、その人形どうしたんだ?」 「後で何か

いちゃもんをつけられても困るから、捨てないで部屋に飾ってある」

ってことだった。で、その翌日だよ。木村のやつ、俺の足がまだ悪いからって

代わりに出てた現場で、なんでもない作業中に突然重機がひっくり返って、
下敷きになって死んじまったんだよ。いや、驚いた。足を怪我してなきゃ
俺がやってたはずの仕事だった・・・まあ、こんな話だよ。結局、俺は
運がよかったんだろうな。まあ、こういう話なんだが、一つ変なことがある。
部屋の机の引き出しに入れてたあの災厄のリスト、なくなるはずはねえのに、
どこを探しても見つからなかったんだよ。すっぱり消えちまった。
ただ・・・木村に送った箱に入ってたのは流し雛ってやつじゃねえのかと
思ったんだ。俺の実家のほうでは、災厄を背負った流し雛を藁で作った
船に乗せて川に流すお祭りがあるんだ。それと関係があるんじゃないかと
思ったんだよ。あそこに書かれてた「日本災厄センター」ってのが
それとどう関係があるのかはわからねえけどな。