bigbossmanです。これ、いちおう取材した話なんです。だから、
実話怪談と言っていいわけですが、ただ・・・たいがいの実話というのは、
類型的というか、どっかで聞いたようなのが多いんですよね。
本当らしいけど、いまいち話としての展開に欠けるのものがほとんどです。
例えば、急に仏壇がガタガタ鳴って、その直後に親戚が亡くなったという電話が
かかってきたとか。ですから、せっかくご好意で話していただいたのに、
お蔵入りさせてしまったものはたくさんあります。
ですが、ごくたまに、そうですね、20話に一つくらいの割で、
なんとも評価のしようがない不可思議な内容の話があります。
まあねえ、自分が怖い話を収集してるのを知って、
作った話を聞かせてくださってるのかもしれません。

そこは疑うとキリがないんですけど、今日はそんな話です。
これ、ある市のタウン誌の取材で、
2年ほど前に地元の和太鼓グループを取材に行き、
その後の打ち上げ、居酒屋でやった飲み会で聞かせてもらったものです。
話してくれたのは、Yさんという当時20歳くらいの女性でした。
「怖い話ですか? 私、霊感もないし幽霊なんて見たことはないから。
でも、ちょっと変なことなら、ないわけじゃないけど・・・」
「へええ、いや、どんなことでもいいです。ぜひ聞かせてください」
「これ、私が中1のときです。私は当時、一軒家に父母と高1の姉の4人暮らしで。
で、前日の夜からちょっと熱っぽかったんですよ。
それが朝になっても具合悪くて、熱計ったら37°少しあったんです。

無理して学校へ行けば行けそうだったけど、テスト期間が終わったばっかだったし、
母に話したら、休みなさいって。医者に行くか聞かれたけど、
そこまでたいしたことなかったから、市販薬を飲んで寝てることにして」
「家にお一人だったってことですか」 「そう。父母は共働きだったし、

姉は学校行くし。それで、薬飲んでベッドにいたら
ことんと寝ちゃって、起きたら12時半過ぎてて、風邪は治った感じがしたんです。
お腹空いたので、キッチンで冷蔵庫から冷凍食品出して、レンジで温めて食べて。
もうなんともなかったけど、休んだんだから居間でテレビ見てるわけにも

いかないし、それで、姉の部屋に寄って何か読む本探したんです。
そしたら、面白そうな本はなかったけど、漫画雑誌がけっこうあったんです。
本当にあった怖い話とか、恐怖体験とかそれ系の」

「ははあ、お姉さんはそういう趣味なわけですね。今日来てないんですか?
あ、太鼓はやらない。それは残念」
「で、2時近くから寝たまま読み始めて。短い話がいくつも入ってる雑誌でした。
私はあんまりそういうの読まなかったんですけど、怖いなー、
でもこんなの嘘だよなーって思いながら。ああいう本って作り話なんですか?」
「いや、マンガ雑誌の場合、特に(本当にあった)って入ってるのは、
読者の投稿を元にして描かれてるはずですよ。たくさん編集部に送られてくる
中から、まず編集者さんが選んで、さらに作者さんが選んで」
「ああ、そうなんですか。ああいうのって、
作り話だってわかった瞬間に興ざめしちゃいますよね」
「ええ、そうおっしゃる方が多いです」

「それで、雑誌に没頭してて、何気なくベッドの横のデジタル時計を見たんです。
そしたら時間が3:33になってました。そういうのどう思いますか」
「うーん、よく言われるのは、実は時計は無意識で何度も見てるんだけど、 
3:16とかだと記憶に残らずに、見たことそのものを忘れてしまうって説です」
「ああ・・・なるほどね、わかるけど、デジタル時計は高い台の上にあるから、
半身起こして伸び上がらないと見れないんです。朝、
自分で止めちゃわないように、わざとそうしてるんですよ」
「まあ、何か意味がある場合もあるのかもですけど」 「それで、また何話かお話を

読んで、2冊目に入って、ふと時計を見たら4:44これはどういうことですか?」

「うーんと、人間には体内時計というのがあって、3:33が頭にあるため、

それから4:44まで無意識に数えちゃうって説もあります」

「体内時計ですか・・・ それで、そのときに、ああもしかして、
次、5:55を見るのかなあって考えて」 「それが意識するってことです」
「また漫画に戻って、そしたらその内容がちょうどそのときの私と

同じだったんです」 「同じっていうと?」 「風邪を引いた女の子が

誰もいない家の自分の部屋で本を読んでるって話でした。ただ、主人公は

小学生みたいだったし、読んでるのも小公女とかそういうのだったけど」
「はい、それでどうなりました?」 「その子が玄関のチャイムが鳴るのが

聞こえて、パジャマのまま起きていくと、玄関にその子の両親と弟が

立ってて・・・その子に、今何時だ?ってそろって聞いたんです」
「変な話ですねえ。その子以外の家族は一緒に外出してたって

ことですか?」 「たぶんそうだと思います。

で、その子が居間に入って時計を見たら5:55」

「はああ」 「で、その子が玄関に走り出て5時55分だよって言うと、
3人はくちゃっと一つにくっついて体がどんどん溶け出し、
どろどろの固まりになって。幼児の弟の顔だけ真ん中に浮き出てきて、
5時55分だねってうれしそうに言ってニヤーッと笑う・・・」
「えー、それいくら怪談でもちょっとひどい。全然脈絡がないじゃないですか」
「そうですよね。私も変な話だなあと思ったんだけど、絵がかなり怖くて」
「漫画の場合は作画は重要ですからね」 「怖いので胸の上でいったん本を閉じて、
そしたら横でカチッって音がしたんです。ああ、これ今、5:55になったんだ。
って思ったんです。何でかわかんないけど、時計を見たら絶対怖いことが起きる、
そう考えちゃって、時計見ないようにうーんと我慢してたんです」
「まあ、怖い話読んでると、妄想というか変なことが気になり出すもんですよね」

「そのときに現実に家のチャイムが鳴ったんです。家族3人はみんな

玄関の鍵持ってるから、お客さんだ出なきゃいけないとは思うものの、
怖くて出られなかったんです」 「わかる気がします、それで?」
「布団をかぶったまま動かないでいたら、チャイムはそれ1回きりで、
ノックとかもなかったのでだんだん落ち着いてきて。一番早く帰ってくるのは

母なんで、早くこないかと思いながらもう一度本を開いたら、
さっき話した5:55の話が見つからなかったんです。
胸の上の布団に開いたままにしてたので、絶対その本の中にある話なのに」
「変ですねえ。漫画の作者名とか覚えてますか?」
「私はあんまり詳しくないし、そのときも注意して見てなくて」
「じゃあ他の本は?」 「それにも載ってなかったんですよ」

「うーん、じゃあ全体が夢ってことじゃないですか。お昼にも薬飲んだんでしょう」
「そうですけど・・・ で、そのうちに玄関が開く音がして、
それから階段の下で、○○いる? 具合どう?って母の声がしたんです。
ああよかった、帰ってきたんだって思ってベッドから起き、
そのときに気になってた時計を見たんです。そしたら・・・」 「そしたら?」 

「5:54でした」 「え? じゃあさっき5:55と思ったのは、
もっと前だったわけですね」 「そういうことなんでしょうね。それで、私は下に

降りてって、母にもう治ったって言ったんです。母はあらよかったわね、って答えて

そのときまだ開いてた玄関の戸から男の子が顔を出して、絶対見ちゃダメだよ、

って言ったんです。その顔が漫画に出てきた子とそっくりで」 「お母さん

も見たんですか?」 「ええ、今のどこの子?って外まで見に行きました」

「どう考えても変な話ですねえ? 今まで聞いたことがないし解釈のしようが

ないです」「私だってわけわかんないですけど、絶対見ちゃダメっていうのは、
5:55のことじゃないかと思ったんです。それ見るとたぶん

よくないことが起きるって。だから部屋の目覚ましもデジタルじゃないのに

変えました」 「うーん、ますます意味わからないです。その時計だけ

見ちゃダメってことじゃないんでしょう。スマホだって時刻表示はデジタルだし、

街頭にも時計はありますよね」 「だから、今でも意識して

見ないようにしてます」 こんな話だったんです。
わけわかんないし、全部Yさんの夢って考えるのがやっぱ一番いいんでしょうけど、
男の子はお母さんも見てるってことですしねえ。これ、自分の経験だと、
作り話だとしたら複雑すぎますから。そう思われませんか?