前回は鳥居について書きましたが、自分の専門である考古学的な
内容だったため、思わず長くなってしまいました。
今回はできれば2つのものに触れたいと思っています。
まず一つめが「狛犬」について。

狛 犬


「犬」という言葉が入っていますが、実際には獅子、ライオンのことです。
ライオンを聖なるシンボルとするのは、古代オリエント、
エジプトにまで遡るというのが定説になっています。
百獣の王と呼ばれる力強い姿が、王家を守護するのにふさわしいと
考えられたんですね。その代表的なものがスフィンクスです。

スフィンクス


この考えが日本に入ってきたのは、おそらく中国の唐の時代だと思います。
当時の日本人はもちろん獅子を知らなかったので、
身近にイメージしやすい「犬」と呼び名が変わりました。
(ちなみに、犬は日本では縄文時代からペットとして飼われていたようで、
家族同様に埋葬された犬の遺骸が発掘されています。)

インドの狛犬


朝鮮半島を伝わってきたので、「高麗の犬」これが、外来動物を表す「狛」
という語を当てられて「狛犬」になったというわけですね。
狛犬については、平安時代の清少納言の随筆『枕草子』中の
「めでたきもの」という話の中で触れられています。

また、吉田兼好が鎌倉時代に書いた『徒然草』の中の
「丹波に出雲といふ所あり」という話にも、狛犬のことが出てきます。
面白い内容ですので、ご紹介しましょう。こんな話です。

「聖海上人という偉いお坊さんが、出雲という神社に大勢で参詣したところ、
一対の狛犬が、向き合っているのではなく、お互いに背中を向け合っていた。
上人は「これにはきっと深い仔細があるのだろう。」
と言って感動の涙を流した。しかし、社の神官に理由を聞いてみると、
神官は「子どものイタズラですよ、困ったものです。」
と答えて、すぐに直してしまった。」 

神社に狛犬を立てる風習は、遅くとも平安時代にはあったと考えられます。

さて、世界の狛犬も一対になっていることが多いのですが、
同じものが2つ造られるのが普通です。ところが日本の狛犬は片方が口を開け、
片方は閉じている場合が多く、これは「阿吽(あうん)型」と言われます。
阿吽の形になっているのは寺院の門にある仁王像などもそうですが、
仏教的な考え方が元になっています。

「阿」は梵語(サンスクリット語)で宇宙の始まり、
「吽」は同じく宇宙の終わりを意味します。そして、その間の空間が
一つの結界のようになっているわけです。ここには、日本庭園などでも
見られる、左右非対称をよしとする文化があるという人もいます。

さて、このようなことはいくらでも書けるんですが、少し端折ります。
狛犬は、その神社の神の使いでもあるわけですが、
神社によっては、猿や鹿などが神のお使いとなっているところもあります。
それらの神社では、狛犬ではなく狛猿や狛鹿が置かれたりします。
また、稲荷神社では、ご存知のように狐が神のお使いです。

狛鹿と狛猿
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次、「注連縄」にいきます。
上記のように、狛犬は外国から入ってきたものですが、
注連縄は日本古来のものと考えてもよいと思います。これまで説明した、
鳥居や狛犬も一種の結界の役割を果たしているものですが、注連縄は完全な
結界そのものと言ってよいでしょう。注連縄を張ることで、外の穢れを中に
入れないようにするのです。注連縄の中の清浄な場所には、神が訪れます。

結界 この岩の上に神が降りる


日本神話の天照大神の岩戸隠れの際、他の神々が天照大神を
ひきずり出した後の天の岩戸には、二度と入ることができないようにと、
「尻久米縄(しりくめなわ)」という縄を張ってふさぎました。
これが注連縄の起源と、一説には考えられています。

また、注連縄の多くは稲藁で作られていますが、これは古来からの
農耕文化と深い関わりがあります。相撲の横綱が注連縄を腰に巻き、
これを締めて四股を踏むことも、大地を踏んで地の邪気を払い、
豊作・幸運を招き寄せるという農耕に関係のある儀礼です。

結界 富士山の登山道を注連縄でふさぎ禁足地とする


『日本書紀』には、注連縄の正式な作り方として
藁を左巻きにすると出てきますが、現在の神社では、
自分が見たところでは、右巻きになっている場合も多いようです。
注連縄には、普通の縄と区別するために白い紙を下げますが、
これを「紙垂(しで)」と言います。注連縄の巻き方(種類)には、

前垂注連、牛蒡注連、大根注連などがあります。
大きな注連縄としては、島根県の出雲大社のものが有名ですが、
日本最大のものは、福岡県、宮地獄神社(みやじだけじんじゃ)にある、
長さ13m、重さ5tのもののようです。自分はここには行ったことが
ありませんが、下の画像を見ると、かなりの大きさですね。

宮地獄神社の大注連縄


さてさて、注連縄は庶民の家庭でも飾りますね。お正月の注連飾りの
ことですが、これは正月に迎える年神を祀るための依り代と
するものですので、玄関先に飾るのが普通です。
12月の28日に飾るのがよいとされ、

29日、31日に飾るのは縁起が悪いとされる地域もあるようです。
もうすぐお正月ですが、注連飾りを飾る際には、
以上のようなことを思い浮かべていただけたらと思います。
では、今回はこのへんで。