このお題にある「神聖装置」という語は自分が作ったものです。
どういう意味かといいますと、みなさんは神社に入ると
厳粛で清明な気分になりませんか。これは神社の構造、
まず入り口に鳥居があり、掃き清められた参道がずっと続いていて、

手水舎で手と口を清め、狛犬の間を通り、拝殿に向かってお賽銭を投げ入れ、
鈴を鳴らす。周囲をよく手入れされたご神木が取り囲み、
木の香をただよわせる・・・自分は、これらの一つ一つが、
神聖な雰囲気を高めるための装置となっている、と考えているんです。

厳島神社の大鳥居


では、これらの神聖装置それぞれについて見ていきたいと思います。
まず「鳥居」から。

鳥居を一言で表現するなら、「神域への入り口を示すための門」でしょうね。
鳥居(とりい)は「通り入る」が変化したものだと言われたりもします。
この鳥居のルーツについてはさまざまな説があります。
古代インドから来た、古朝鮮から来た、東南アジアから来た・・・

鳥居の起源とも言われるインドのトーラナ


しかし、これらの説を自分は採りません。なぜかというと、
鳥居は門であり、門の形というのは限られていると思うんです。ですから、
各国に似たものがあるのは当然だと考えます。海外に似たものが
あるから、それがルーツだろうと短絡的に考えるのは危険です。

鳥居はどこから始まったのか。自分は日本古来の「巨木信仰」と
「鳥信仰」が結びついてできたのではないかと考えます。
巨木信仰というのは縄文時代からありました。下図は青森県、
三内丸山遺跡の「六本柱建物跡」と呼ばれるものですが、

建物であったかどうかはわかりません。
というのは、発掘では柱の穴しか出てこないので、
上部の構造がどうなっていたかは想像するしかないのです。研究者の
中には、ただ柱が立っていただけなのではないかという意見もあります。

三内丸山遺跡の「六本柱建物跡」


実際、縄文時代の巨木を立てたであろう柱穴の跡は。
日本海側を中心にあちこちから発見されています。下図は、石川県、
真脇縄文遺跡の柱列です。柱を立てるといえば、諏訪神社の
御柱祭(おんばしらさい)を思い浮かべる方もおられると思いますが、
あれも古代の巨木信仰の形を今に伝えているものなのでしょう。

真脇遺跡の列柱群


古式の鳥居の形態としては、日本最古級の神社と言われる、
奈良県の大神神社(おおみわじんじゃ)に見られるようなもの
だったのではないかと思います。
下図のように、2本の巨木の間に注連縄を張った形です。

神域を示す結界としての役割を果たしていたのではないでしょうか。
これが、だんだんに変化していって現在のような形になったのは、
奈良時代から平安時代のことだと思われます。
ですから、そこまで古いわけではない。

大神神社の古式の鳥居


さて、次に鳥信仰について。
みなさんは八咫烏(やたがらす)や金鵄(きんし)という言葉を
聞いたことがあると思いますが、八咫烏は、日本神話の神武東征の際、
タカミムス匕の神によって神武天皇のもとに遣わされた導きの鳥です。

3本足であったとされ、日本サッカー協会のマークになっていることは
有名ですね。また金鵄は、神武天皇がナガスネヒコと戦っているとき、
金色のトビが天皇の弓に止まり、その体から発する光で敵の
軍勢の目がくらみ、勝利することができたとされます。
日本には、古代からの鳥信仰があったんです。

鳥居の語源の一つとして、天照大神の岩戸隠れの際、
天照大神を洞窟からおびき出すため、岩戸の入り口で、
宿り木に乗せた「常世の長鳴鶏(とこよのながなきどり)」
を鳴かしたという伝説からきているという説があります。
鳥居は、言葉どおり鳥のいる場所ということですね。

下図をごらんください。これは佐賀県、吉野ヶ里遺跡に
復元された門ですが、上部に3羽の鳥のようなものがとまっているのが
わかると思います。弥生時代の土器等に描かれた高床建物などの
屋根の棟飾りや軒飾りには、鳥の姿が描かれていることがあります。
また弥生時代の遺跡からは鳥形の木製品が出土しており、

吉野ヶ里遺跡の鳥形木製品のある門


当時の宗教的なシンボルであったと考えられます。
弥生時代は水稲耕作が始まっており、穀物の霊が尊重されましたが、
それとともに、穀霊を運ぶ生物としての鳥を崇拝する観念が
生まれたことが、この鳥形木製品や鳥の扮装をしたシャーマンの
描かれた土器などから推察できるとする意見があるんです。

土器絵画から復元された鳥装のシャーマン


さてさて、鳥居のことを書いただけでだいぶ長くなってしまいました。
自分は上記のように、日本に縄文時代からあった柱を立てる信仰と、
弥生時代に始まった鳥への信仰が結びついたものが
鳥居のルーツだと考えます。

鳥居をくぐるときには、これから神域に入らせていただくのだという
気持ちで、身を引きしめることが大切だと思いますね。
今後、狛犬や注連縄などについても書いていく予定です。
では、今回はこのへんで。

古墳時代の鳥形木製品