年を取れば取るほど死に近づく。当然だ。ただし、それがハダカデバネズミ

なら話は別。奇妙な外見をした齧歯(げっし)動物であるハダカデバネズミが、
ほかのあらゆる哺乳動物に共通する老化の法則に逆らっていることが、
新たな研究で明らかになった。今回の発見は、人間の寿命を延ばし、
老化を食い止めるのに役立つ可能性がある。

高齢になるにつれて死亡率が高くなることに関しては、「ゴムパーツ・

メーカム(Gompertz-Makeham)法」と呼ばれる死亡率の法則がある。
これは、成人以降、年齢が上がるにつれて死亡率も上昇していくことを示す数式だ。
科学誌「サイエンス」の電子版によると、人間は30歳以降、
8年毎に死亡率が2倍になるという。哺乳動物は、人間から馬、
ネズミに至るまですべて、この法則に従う。唯一、ハダカデバネズミだけが違う。

研究者たちは今回初めて、ハダカデバネズミがこの法則に逆らっているらしいこと
を発見した。ハダカデバネズミは、年を取っても死亡率が上がらない。
バイオ技術企業キャリコの研究サイトが公表したプレスリリースによれば、
毛のないこの奇妙な齧歯動物は、記録上のどんな動物よりも死亡率が低いという。
キャリコは、カリフォルニア州を本拠とするグーグル傘下企業で、この度の

研究成果を詳しく述べた論文は科学誌「eLife」で発表された。(Newsweek)



今回はこのお題でいきます。主役はハダカデバネズミ、漢字で書くと

裸出歯鼠(笑)。ひどい名前ですが、これ現在、大注目の生物なんです。
どういう点が注目されているかと言いますと、
① 老化しない ② 癌にならない ③ 無酸素でも長時間耐えられる
④ 痛みや暑さ寒さを感じない
 ・・・どうです、すごいでしょう。

ハダカデバネズミは、体調12cmほどのネズミの仲間(齧歯類)で、
群れで完全な地下生活を送り、「真社会性」を持ちます。
真社会性というのは、ハチやアリなどのように集団の中に階級があり、
役割分担して暮らすことを言いますが、
これは昆虫ならともかく、哺乳類ではきわめて珍しいんです。
1匹の女王を中心にして、地下に掘ったトンネル内で生活していて、
繁殖に関わるのは数匹のオスだけ。女王は1回で数十匹の子どもを産みます。

まず①の不老について。引用文にもありますが、
人間は年をとるほど死亡率が高くなります。これはあたり前ですね。
30歳と70歳の人で、どちらが先に亡くなるか賭けをしたら、
特殊な事情がないかぎり、誰だって70歳の人に賭けますよね。
ところが、ハダカデバネズミはどうやら老化しないようなんです。
ということは、病気や事故で死ななければ(老衰死はしないので)、
永遠に生きられる可能性があるということになります。

人間の男性の年齢別死亡率 ハダカデバネズミの場合はグラフは直線


現在、確認されているハダカデバネズミの最長寿は30歳で、
その個体は今も生きています。もしかしたら、
ある時点を過ぎると急に老化が始まったりするのかもしれませんが、
現時点でその兆候は見られないそうです。普通のネズミが、
4歳程度の寿命であるのに比べ、これだけでも異様な長寿ですよね。

しかも、いつまでも閉経せず、出産機能を失わないという不老の

性質を持っています。まあ、不老不死と考えられる生物は他にもいます。

ベニクラゲというクラゲの一種や、刺胞動物のヒドラなどです。

(ベニクラゲはある程度まで成長すると若返り!?)
それをずっとくり返す)しかし、哺乳類でこの性質を持っているのは、
ハダカデバネズミ以外にはいないんです。

じゃあ、何で不老なのか? Wikiには、
「生活環境が厳しい時に代謝を低下させる能力があり、
それが酸化による細胞の損傷を防いでいると考えられる」と出ています。
たしかに活性酸素による影響が老化を進めるとは言われてますが、
でも、それだけで説明できるわけでもないような気がします。
おそらく、ハダカデバネズミの生来の遺伝子プログラムが、
老化をさせないようになっているんだと思います。

さて、人間の染色体にはテロメアという末端部の構造があり、
細胞分裂するたびにそれがすり減っていきます。そして、テロメアが

一定の長さ以下になると、細胞は分裂を停止してしまいます。
このため、テロメアは「分裂時計」あるいは、
「細胞分裂数の回数券」とも言われているんです。わたしたち人間は、

はじめから死がプログラミングされていると考えていいでしょう。
ところが、ハダカデバネズミは人間とは違う進化の道を選んだみたいです。

テロメアの役割


あと、ハダカデバネズミが癌にならないというのも、
不老であることと密接な関係があると思われます。
人間が癌なるのは、細胞分裂時に遺伝子のコピーミスが生じるからです。
それが癌細胞になる。そして、人間が年をとるほどコピーミスの確率は

高くなります。ですから、癌は老化現象の一種であり、人間に最初から
プログラミングされた寿命要因と考えていいと思います。

これがハダカデバネズミの場合、一定のサイズに達した細胞群に新たな細胞を
増殖させない「過密」遺伝子として知られているp16、p27が、
二重の障壁となって、細胞の癌化を防いでいるようです。つまり、

ハダカデバネズミは、ある一定の年齢から、あまり細胞が増えることはなく、
しかもその細胞は酸化に強い。このあたりに不老の秘密があるみたいですね。

それから、ハダカデバネズミは、ある研究では、酸素がない環境で

18分も耐え、体に大きなダメージも残らなかったそうです。
無酸素状態になった際、通常の酸素呼吸とは別の仕組みで、
エネルギーを生み出したとみられています。

また、ある種のアミノ酸が、痛みや暑さ寒さを感じることを防いでいるため、
過酷な地下の環境で、ほとんど毛のない体でも生きていけるんですね。
ただし、子どものうちは痛みや寒さも感じるようで、
ハダカデバネズミの成獣の中には、赤ちゃんにかぶさって温める、
「布団係」などという役割も存在しています。

赤ちゃんの布団係
ひしめき合って寝る様子②

さてさて、ここまで見てきて、ハダカデバネズミって何てすごいんだ、

と思われたんじゃないでしょうか。では、ハダカデバネズミの

遺伝子を解析することで、人間に生かすことができるんでしょうか。

人間は老化せず、いつまでも若いままで、
ケガや病気以外では死なない・・・そういうふうになるんでしょうか?

これは、自分は難しいんじゃないかなあと考えます。というのは、
人間は長い進化の過程で、「その限られた寿命の中で、だんだんに成長していき、
パートナーを見つけて子孫を残し、老化していって最後には必ず死を迎える」
という性質を、自ら選択して獲得したんじゃないかと思うんです。

ハダカデバネズミの一生は はたして、人間の基準で幸せと言えるでしょうか?
一匹のメスと限られた数匹のオス以外は、繁殖にかかわることもなく、
兵隊係や穴掘り係はずっと一生そのままです。人間とはかけはなれた道を

選んだハダカデバネズミの進化。同じ哺乳類ではあっても、
まったく別の考え方で存在している生き物であるとみたほうが

よさそうですね。では、このへんで。