今回は、自分が取材した話です。自分が怖い話をブログに書いていることは
知ってる人も多く、特に、いったんお休みしたブログを再開してからは、
「こんな体験をした、こんな話を聞いた」と教えてくれる人が増えてきました。
これはありがたいことですが、怪異が起きた理由なんかを聞かれても、
自分は霊能者でもないし、わからないんですよねえ。

帽子
ある重工業会社に勤めるSさんから聞いた話です。
彼が所属している工場は巨大で、製品ごとにいくつもの生産ラインがあり、
たくさんの人が部署に分かれて働いています。これは10年ほど前、
Sさんが工業用の大型換気扇をつくるラインで班長をしていたときの話。
そこでは、毎朝、体操をしてから作業を始める内規があり、
そのときに服装の点検もしていました。上から物が落ちてくるようなことは
まずありえないんですが、原則、全員がヘルメット着用だったそうです。
で、体操を始めると、班員のFさんという人が頭に変なものをかぶっている。
カーリーヘアのかつら、それもリアルなかつらじゃなく、
テレビのバラエティで芸人がつけるような、
黒い毛糸でできたモジャモジャ頭のやつです。

Sさんは体操の号令を中断して、Fさんに、
「お前、何かぶってるんだよ。ふざけてるのか」と注意しました。
するとFさんはけげんな顔で「いや、何って、ヘルメットですよ」
「へ?」と思ってもう一度見直すと、黄色い会社のヘルメット。
「あれ、おっかしいなあ」と思いましたが、Fさんは真面目な人柄だし、
まさか手品をするわけもないし、自分の見間違いだと考えたそうです。
それから作業が始まって、特に問題もなく進んでいきました。
で、Sさんが自分の仕事が一段落して工場内を見渡すと、Fさんの頭が黒い。
朝に見たと思った毛糸のかつらをかぶってる。「そんなはずは」と、
2,3歩近づいていくと、やはりかつらではなくてヘルメット。
Sさんは首をかしげましたが、午前中にもう一度同じことがあったそうです。

昼休みになり、食事は社員食堂でとる人がほとんどでした。
Sさんが食堂に入ると、先に出たFさんが定食を食べようとしてたので、
同じテーブルに座り、ずっと気になってた黒いかつらの話をしてみたそうです。
そしたら「えー、かつらなんてかぶるわけないじゃないですか。
ああ、でもね、そう言われれば今朝方、変な夢を見たんですよ」
「どんな?」 「いや、笑われそうだけど、なんか全身が光る人が出てきて、
お前はよく働いて関心だから褒美をやろうって言うんです。何がほしいって
聞かれたから、じゃあ彼女がほしいスって言ったんですよ。そしたら、
光る人は少し考えこんでから、彼女はやれんなあ、そのかわり帽子をやろうって、
俺の頭になんかをかぶせてくれたんです。ね、変わった夢でしょ。
俺、あんまり夢なんて見ないほうなんですけどね」

こんな話をされたそうです。でも、夢は夢だし、関係ないだろうと思いました。
昼休みが終わって作業が再開してすぐ、事故が起きてFさんが
亡くなったんですね。特殊な大型破砕機に頭をはさみ込んで粉砕され、
救急車が呼ばれましたが、床にバケツでぶちまけたような血溜まりができ、
頭部の破片が散らばって、誰がどう見ても即死の状態だったそうです。
これは考えられない事故で、Fさんはそもそもそこの担当じゃないし、
頭を突っ込むような手順もありえない。セーフティガードやストッパーもついてる。
見ていた人に話を聞くと、Fさんはにこにこ笑いながら破砕機に近づいてきて
スイッチを入れ、自分から中腰になって、逆立ちするような、
かなり無理な姿勢で頭頂部をこじ入れたんだそうです。

この証言があったため、警察の調べは長くかかって、
結局、Fさんは自殺ということになりました。
でも、遺書があるわけでもなく、悩んでた様子もなく、動機もわからない。
Sさんは、「嫌な話でしょ。なんか全部、頭に関係があるじゃないですか。
俺が毛糸のかつらと見間違えたこと。それとFがした夢の話ね。
怖いなあと思いますよ。あの後しばらく、
帽子をもらう夢を自分が見たらどうしようかって思ってたんです」
こんなふうに言ってました。それと、不思議なことに、
Fさんが本来かぶっていたはずのヘルメットが、どこにも見あたらなかったそうです。
「工場内すべて探したけどないんです。どういうことなんでしょうねえ」
Sさんにこう聞かれても、わからないと答えるしかなかったです。

猫と彼氏
これはジーンズショップに勤めているCさんから聞いた話です。
Cさんは翌日休みだったので、自分の部屋で夜更かしをして明け方に寝ました。
お酒もかなり入ってたそうです。「間違いなく一人だったはずなんですけど、
ベッドの隣で、痛えよう、って声がしたんです。
それが、今つき合ってる彼氏の声だったんですよ。え?って思いました。
彼氏が部屋に来ることにはなってたけど、それは翌日の予定で、
その夜は、いるはずがないんです。でも、隣に誰か寝ていて肩が触れてる。
それで電気をつけたんです。そしたら、やっぱり彼氏がいて、
両手を上に伸ばしてガクガク震えてるし、目も変だったんです。
ええ、両方とも裏返って、白目だけになってました」
彼氏は、その姿勢のまま「俺死ぬよう、痛えよう、救急車呼んでくれよう」

苦しそうな声でくり返すので、「わかったから、しっかりして、今呼ぶから」
そう言って、スマホに手を伸ばして119番にかけようとしたそうです。
そしたら、ベッドの上の彼の姿が急に小さくなって、猫に変わったんです。
それはCさんが部屋買いしてる雑種の洋猫で、「え? え?」とまどっていると、
また彼氏の姿になり、猫になり、彼氏になり・・・・を、
10回ほどもくり返して、最後に猫の姿になって止まりました。
猫は目を開けたまま死んでいたそうです。Cさんは、
「それは悲しかったけど、彼氏が死ぬよりはねえ・・・もし救急車呼んでたら、
怒られたかも。でもこれ、どういうことなのか、bigbossmanさん、
こういうこと詳しいからわかるんじゃないですか?」
これももちろん、「すいません、わからないです」って答えるしかなかったです。

お葬式
森林管理局を退職されたUさんからうかがった話です。
Uさんは60代ですが、ひじょうに壮健で、山登りを趣味にしておられ、
日本百名山のうち、半数近くを制覇してるような方です。
あるときバーでご一緒しまして、自分が怖い話を集めている話題になり、
そのとき「うーん、山での怖い話ねえ。いや、それほど怖いってわけでもないけど、
1度だけ、あることはあるよ。あれは東北の山に登ったときだね。
そんな険しい山じゃなく、登山路も整備されててね。
ただ、もうすぐ雪になるって季節だったから、他の登山者はいなかった。
それで、一本道をペースあげて歩いてったら、
前のほうからガヤガヤ声がする。ああ、グループ登山の人たちかな
って思ったんだけど、女の声ばっかりだったんだよ。

んで、曲がり角から姿が見えてきたのは、和装の喪服姿の女性たちだった。
そりゃ驚くだろ。そんな格好で登山する人なんていない。
それがせまい登山路を2列とか3列になって、ぞろぞろ下りてくるんだ。
いや、若い人はいなかった。みな40代から60代くらいの日本髪の人たちで、
「いいお葬式だったわねえ」なんて言いながらスタスタ歩いてくる。
足元は草履だったよ。あんまり異様だったんで、思わず道から外れて藪によけた。
その女性たちは、俺のことなんか目に入ってない様子で、
がやがや喋りながら脇を通ってった。そうだなあ30人はいたと思う。
でね、これは何かに化かされてるのかもと考えて、
煙草に火をつけたり、眉をつばで濡らしてみたりしたんだ。
いや、そういうの信じてるわけじゃないが・・・

でね、首をかしげながら森林地帯を抜けると、岩場に出るんだよ。
その目立つ大岩の下に何か黒っぽいものがいるんだ。
その大岩は崖の上にあって、あまり近づくことはできないんだが、
登山路から目をこらしてみると、猿だったんだよ。大きな日本猿。
岩に背中をもたれかけて、あぐらをかいたお釈迦様みたいなポーズで、
ぴくりとも動かない。ありゃ死んでるんだと思った。
で、他の猿がまわりにいないかと探したんだが見あたらない。
うん、石を拾ってぶつけてみようかとは思ったけど、何かあったら
嫌だからやらなかった。ただね、その後頂上まで変なことはなかったから、
あの喪服の女性たちは、その猿に関係があるんだとしか思えなかったな。
どうだ、何だったのかわかるかい?」 「いや、すんません。わかんないです」