会社帰りでした。時間は8時ちょっと過ぎで、だいたいいつも

そんなもんですね。駅を出ると、バス停があるんですが、わたしは歩きで、
家までは15分くらいなんです。歩道を歩いていこうとすると、
前のほうに長いローマ時代のような白い服を着た人が5~6人いました。
このごろよく見かけるようになった宗教団体の人たちです。
噂では、強引に家に上がり込んでの勧誘などもあったようで、
「関わり合いになりたくないな」と思いました。でも、
引き返して道を変えるのも面倒だったんです。少し疲れてましたから。
宗教団体の人はみな若く、20代前半くらいで女性のほうが
多かったと思います。テイッシュ配りのようなことをしてるようでした。
もらいたくなかったので、両手をズボンのポケットにつっこみました。


そのまま下を向いて通りすぎようとしたんですが、
目の前に白い服が立ちふさがって、思わず立ちどまってしまいました。
わたしは見てのとおり、それほど太ってるわけではないですが、
その人は小学校高学年程度のきゃしゃな体つきをしていて、
そのまま進めば弾き倒してしまいそうだったんです。
「危ないじゃないか」と不機嫌に言いました。「すいません。あの、
これどうぞ」そういって何かを差し出してきたのは、短い髪の、
痩せて目の大きい女性でした。体格は小さいですが、大人だとわかりました。
で、なんとなく気を呑まれたようになって、
差し出したものを受け取ってしまったんです。わたしは
それ以上のことは言わず、渡されたものを上着のポケットにつっこんで、


肩で白服をかきわけるようにして、そこを抜け出したんですよ。
しばらく歩いてからポケットから出してみると、テイッシュの

袋の半分くらいのビニールに、携帯のストラップが入ってました。
先に4cm四方くらいの透明プラスチックがついていて、
その中に乾燥させたと思われる5つ葉のクローバーが入っていたんです。
宗教団体らしき名はどこにもついていませんでした。
「5つ葉とは珍しいな」と思いました。原価は安いものなんでしょうが、
ひもの部分は銀色で全体に上品な感じだったので、
6歳の息子にやれば喜ぶかなと思ったんです。
家まではあと5分くらいのものでしたが、
大きな通りから住宅街に入ると、めっきり人通りが少なくなりました。


近所はみな新しい建て売りで、公務員が多いところでしたので、
おおかたの人はこの時間は帰宅を済ませてるんです。
わたしの家のある小路に入り、何か様子が変だなという
気がしましたが、そのときはまだわかりませんでした。
で、家の前に来て愕然としました。なんと神社だったんです。
ほら、都会でビルの間に少しの森があって、
鳥居が立って神社になってるとこがあるじゃないですか。
あんな感じで、すぐ目の前にあまり大きくない鳥居が立ってたんです。
とっさに、「道を間違えた」と思いましたよ。でもね、
鳥居の横の生垣は間違いなくうちのものだったんです。うちは
塀じゃなく柾木の生垣にしてて、いつもわたしが剪りそろえてたんです。

まわりを見ても、お向かいは警察の竹田さんの家だし、
見慣れた風景なんですよ。驚きつつも、
なんか引き込まれるように鳥居をくぐってしまったんです。
せまい参道には玉砂利がひかれてて、左右にはけっこうな太さの
杉の木がありました。15mくらい進むと境内に出ました。
月明かりが少しありましたが、ほぼ真っ暗でした。
中は6畳間くらいだろうと思われる社殿の表戸も難く閉まっていて、
人の気配はなかったんです。いや、途方に暮れたというのは
あのことですね。どうすればいいのか考えが浮かんでこなかったんです。
「ええ嘘だろ、まさか、しかし」こんな言葉が口をついて出ました。
そのとき社殿の後ろから、シューッという音がして、


緑色の光が漏れたんです。横の草地を通って行ってみました。
それがね、ここまででも十分変な話だと思われてるでしょうが、
笹竹の中にUFOがあったんです。・・・笑わないでくださいよ。

それは雑誌でよく見るようなお釜型をしていて、小さかったです。

直径4mもあったでしょうか。下部から円形に、地面に緑色の光が漏れてました。
見ていると全面が急に四角くスライドして、そこに窓ができたんですよ。
UFO中は明るく、窓に息子の顔が張りついていました。
「あっ!」と思いました。頭の中に声が響いたんです。
「お父さんのせいでこうなった。お父さんのせいだ」
息子の声でしたが、耳で聞いてるんじゃなく、じかに頭の中に入ってきました。
耳元で「すみませーん」という女の人の声がしました。


気がつくと、駅のバス停からいくらも行かないとこに突っ立ってたんですよ。
「今、家が神社になってて息子がUFOに捕らわれてたのは、夢なのか?」
声をかけてきたのは、さっきの宗教団体の女の人でした。
「すみません、先ほどお配りたストラップなんですが、
手違いで御供養されていないものが渡ってしまいました。
こちらのと取り代えていらだけませんか」言われるままに、
ポケットから袋を出し、別ののを手のひらに受けました。
女の人は何度も頭を下げながら駅前に戻って行ったんです。
ストラップは前のと同じデザインでしたが4つ葉のクローバーで、
プラスチックの横には5つ星の変わった形のマークと、
カタカナの宗教団体の名前が入っていました。しばらく手に持って歩いて、


角を曲がったところで街路樹の根もとに放り捨てたんです。
家はね・・・普通にありましたよ。神社になってはいませんでした。
息子と妻が待っていまして、普段どおりでした。
いや、この話は誰にもしていません。そりゃ、あまりにバカげてますからね。
変な夢だろ、って笑われるだけです。駅の通りで、立ったまま見た
なんて言ったら、正気を疑われるかもしれないじゃないですか。
で、話がこれで終わりだったらしょうもなさすぎますよね。
じつは気になることがあるんです。
おととい、何気なく夏休み中の息子のランドセルを見たら、
肩の金具のところに、見覚えのあるストラップが下がってたんです。
手に取ると7つ葉のクローバーが入ってました・・・

 

もしかしたら2枚の葉を組み合わせているのかもしれません。

宗教団体の名は入ってませんでしたが、5つ星のマークはついてましたね。
息子に聞いたら、「友だちからもらった」と言いましたので、
「お礼をしなくちゃならないから、その友だちを教えなさい」と聞いたら、
火がついたように泣き出して暴れ、手におえなくなりました。
それで今もそのままにしてあるんです。どうすればいいと思いますか?

っきう