今回はこういうお題でいきます。「怖い世界史」のカテゴリですが、
それほど怖くはないと思います。さて、ルドルフ2世は、
神聖ローマ帝国の皇帝で、1552年生~1612年没、
ハプスブルク家の出身で、ヨーロッパ中世の代表的な君主です。

ルドルフ2世
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政治的には無能という評価が一般的です。すべての国政を重臣にまかせ、
何の関心も持ちませんでした。また、どういうわけか生涯独身で、
跡継ぎがいません。このあたり、調べれば面白そうなんですが、
今回は割愛します。では、ルドルフ2世が何で評価されているかというと、
その膨大なコレクションによってなんです。

ルドルフ2世は、政治に関心がないといっても、頭が悪いわけではなく、
たいへん教養に富んだ人物でした。その王宮には、
画家、詩人、音楽家、占星術師、予言者、錬金術師・・・
さまざまな文化人が集まり、一大サロンになっていたんですね。

有名どころとしては、ジュゼッペ・アルチンボルドはご存知でしょう。
野菜や魚でできた肖像画は見たことがあると思います。
それと、当時その概念が芽生えはじめたばかりの科学も大切にし、
ヨハネス・ケプラーなどの学者もサロンに出入りしていました。

アルチンボルドの絵
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さて、その有名なコレクションの中心は絵画と工芸品で、
絵画は3000点以上あったとされます。
それと、当時の最先端科学であった望遠鏡や天球儀、機械時計など。
また、世界から珍奇な生物を集めた動物園と植物園も持っていました。

コレクションのごく一部
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このコレクションを始めた動機は、ありあまる金と物欲なんですが、
皇帝に即位する以前から収集が開始されています。
これは、ルドルフ2世はノストラダムスの予言書を持っていて、
その中に、自分が皇帝になることが予言されていたからという話があります。
ただ、どこまで本当なのかはわかりません。

また、コレクションの中には、図書館をいくつもつくることができるほど
多数の本が含まれていて、その中には魔導書と呼ばれるものもあります。
よく知られているのは、「ヴォイニッチ手稿」と「ギガス写本」です。
ヴォイニッチ手稿のほうは、前にかなり詳しく書きましたので、
今回は、簡単にふれるだけにとどめておきます。

コレクションのうち「雌雄のマンドラゴラ」
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1912年にイタリアで発見された古文書で、すべて手書きで
未解読の文字が記され、多数の奇妙な絵が描かれていることが特徴です。
その内容についてはたくさんの研究があるんですが、
いまだに解読には成功していません。

ヴォイニッチ手稿の一部
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書かれているのは、でたらめな文字列ではなく、統計的解析により、
自然言語か人工言語のように確かな意味を持つ文章列であると
判断されています。ある書簡に、この手稿をルドルフ2世が大金で
買い取ったという記述があり、コレクションの一つだったのは
間違いないようです。
 

さて、今回メインでご紹介するのは「ギガス写本 Codex Gigas」
のほうです。 「ギガス gigas」は巨大なという意味で、
厚い装丁の中に、310枚の手書きの羊皮紙が束ねられており、
重さは75kgを超えるんですね。大人2人でないと持てず、
読むのは大変な苦労だったはずです。

ギガス写本
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この写本、ヴォイニッチ手稿のように読めない文字で書かれてる
わけではなく、ラテン語なんですが、「悪魔の聖書 Devil's Bible」
とも呼ばれてるんですね。内容は聖書で間違いないのに、
どうして悪魔という呼び名がついているかというと、
途中に悪魔の絵が出てくるからです。

このような伝説があります。この写本は160頭分のロバの皮でつくられ、
13世紀に現在のチェコ中央部にある修道院で、ある僧侶により
作製されました。その僧侶は重罪を犯したとして幽閉されたため、
巨大な聖書を一晩で作り上げることで、修道院に栄光をもたらし、
自らの罪を消し去ってもらおうと考えたわけです。

ところが、とうてい一晩で書き上げられるはずもなく、
ついに僧侶は、悪魔を召喚して助けを求めます。そうして、
自分の魂と引き換えに、夜明けまでに聖書は完成し、
僧侶は悪魔への感謝を示すため、姿を描いてつけ加えた・・・・

悪魔の絵 変なパンツをはいています
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という話なんですが、もちろん伝説の域を出ません。キリスト教の
教義では、悪魔は聖書と十字架にはふれることができないはずで、
わざわざ自分が嫌いなものの完成に協力するわけはないですよね。
研究によれば、13世紀初め、ボヘミア(現在のチェコ)の
ベネディクト会の修道院で作られたと考えられています。

膨大な内容ですが、一人の人物の筆跡と見られています。
長い間かけて書き、製作者はどんどん年をとっていったはずなのに、
文字の変化や乱れがないことから、上記のような伝説が生まれた
のかもしれません。ですが、科学的分析の結果、宗教的情熱によって、
完成までに20年以上を要したと考えられるようになってきました。

さてさて、ということで、「ギガス写本」を中心に、ルドルフ2世の
コレクションを見てきましたが、たしかにすごい蒐集です。
このエネルギーを政治面に傾けていれば、その後の30年戦争も
起きなかっただろうと言われるくらいなんですね。
では、今回はこのへんで。