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今回はこういうお題でいきます。現在、日本の自衛隊は、
公式には、航空母艦を所持していないことになっています。
これは、憲法の規定によって、日本は交戦権を持たず、自衛隊は、
専守防衛を目的とするものであるため、航空機を遠方まで運用する
必要性がないと解釈されてきたためです。

ただし、2000年代に入って、「いずも型」 「ひゅうが型」などの、
「ヘリコプター搭載護衛艦 DDH」、通称「ヘリ空母」を開発・運用しています。
いずも型のほうが排水量が大きく、19500 tで、
戦闘ヘリ14機を搭載することができます。また、ひゅうが型は11機です。

これらの艦艇は、将来的には、わずかの改造で航空機が搭載可能であるという
議論がありますね。たしかに、「F-35B ライトニングII」戦闘機は、
垂直離陸が可能なため、カタパルトなどの航空機発射機能を持たなくても、
搭載することができます。この議論のゆくえはわかりませんが、
もしそうなれば、日本の空母所持の復活ということになります。

さて、「艦これ」というゲームがありますよね。このせいで最近、
旧日本軍の艦船に詳しい人が増えてきましたが、
アニメになった「大和」や「武蔵」などの大型戦艦に比べて、
昔の空母について知っている人は多いとはいえません。

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旧大日本帝国海軍の空母は、瑞鳳型、翔鶴型などかなりの数がありましたが、
それとは別個に、「潜水空母」と呼ばれるものが存在していました。
これは当時としては、異次元の発想でつくられたものです。
発案者は、連合艦隊司令長官の山本五十六とされることが多いんですが、
確証があるわけではありません。

ただ、山本は、太平洋戦争を、「アメリカ本土に直接打撃を与え、
日本に有利な形で早期に終戦に導く」という構想を持っていましたので、
彼の戦略思想からみて、ありえないことではないと考えられています。
さて、これがつくられた背景として、当時の航空機は、
給油なしに日本から直接アメリカに飛んでいくことができませんでした。

イ400型の特殊ハッチ(模型)
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当然ながら、アメリカも同じです。ですから、日本とアメリカの戦闘は、
ラバウル、硫黄島など、太平洋の島々のとり合いになったわけです。
航空母艦の利点は、もちろん航空機を搭載できることですが、
敵国に近づくとすぐに発見されてしまいます。

また、潜水艦の最大の利点は、敵に探知されずに潜航できることですよね。
この2つの利点をあわせ持つ形で構想されたのが、「伊四百型潜水艦」なんです。
これには、イ400、イ401、イ402の3隻がありましたが、
イ402は実際に戦役には就いていません。

ちなみに、イは「いろは」のイで、排水量1000t以上のものを指しました。
その下は呂(ロ)号潜水艦です。ドイツのUボートを範としてつくられています。
イ400の全長は122mで、Uボートの約2倍。
艦の体積をあらわす排水量は6560tで、Uボートの約8倍。
当時就役した潜水艦の中では世界最大です。

イ400型の安全潜航深度は100メート。約50秒で潜航ができ、
これは大型艦ではかなりの急速です。燃料は重油1667トンを積むことができ、
16ノットで31000海里の航続力があったため、
一度も燃料を補給せずに地球を一周することも可能でした。

これだけの大きさがあったのは、航空機を艦載するためです。
「特潜型」ともよばれたこの潜水艦は、3機の航空機を搭載しており、
世界で唯一の「潜水空母」だったんですね。
3機 艦載された攻撃機「晴嵐」は、このために特別製造されたもので、
主翼が折り畳み式になっていました。

攻撃機「晴嵐」(模型)
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画像をみればおわかりかと思いますが、丸い穴が攻撃機を搭載するための
ハッチです。ただ、欠点もたくさんあり、一番大きいのは、
潜水艦が浮上し、晴嵐を出して翼を伸ばし、人力でフロートをつけなければ
ならなかった点です。晴嵐は帰還する際、せまい艦上に下りることはできず、
海に着水したものを回収するしかなかったんですね。

ですから、兵器としてはたいへんに効率が悪いわけです。
ただし、太平洋戦争の初期において、もし計画されていたサンフランシスコ爆撃が
実行されれば、アメリカはパニックに陥ったと考えられます。
突如、どこからともなく現れた攻撃機が爆弾を落としていくわけですから。

戦果は少なかったでしょうが、心理的な効果は大きかったでしょう。
ですが、同盟国であったドイツが降伏したことで、大西洋方面の米英艦隊が
太平洋に移動してくることが予想されたため、攻撃目標はアメリカ本土から、
パナマ運河のゲートを爆撃して破壊することに変更されました。

ハワイ沖海底のイ400とみられる画像
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そうこうしているうち、太平洋戦争は日本の敗戦に終わり、3隻の潜水空母は、
戦果を出せないまま、イ400、イ401はアメリカ軍に接収され、
ハワイ沖で撃沈処分。未就航のイ402は東シナ海で撃沈処分となりました。
この理由は、第二次世界大戦の戦勝国として一枚加わったソ連が、
潜水空母の構造に興味を示したため、秘密保持としてと言われています。

さてさて、ということで、ほとんど役に立たなかった潜水空母ですが、
潜水艦が敵国の都市を攻撃するという、当時としては異次元の発想は、
現在の「潜水艦発射弾道ミサイル SLBM」となって甦っているんですね。
では、今回はこのへんで。

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