今回はこのお題でいきます。上の画像は、タツノコプロによるTVアニメ
『ハクション大魔王』です。自分はまだ生まれてなかったので、
放映を生では見てないのですが、自分の先輩方の中には懐かしがる人が
多いですね。あと、パチンコの機種にもなってるみたいです。

これ、主人公の姿形をみると、イスラム圏でいうところの「ジン」
のようですね。ジンは精霊のことで、『アラビアンナイト』に出てくる
ランプの精もジンの一種です。ハクション大魔王は壺から出てくるので、
何かの魔法で壺に閉じ込められた、くしゃみの精なんだと思います。

余談ですが、イスラム圏では幽霊の話はほとんどありません。
なぜなら、イスラム教の聖典であるコーランが幽霊を認めてないからです。
イスラム教は厳しい一神教ですので、死者の魂はすべて、
唯一神アラーが管理している。ところが、ジンに関しては、
コーランでもその存在に触れられており、信じている人もけっこういるんです。

 



さて、「くしゃみ」をWikiで引いてみると、「一回ないし数回、けいれん状の
吸気を行った後に強い呼気をすること。くしゃみ反応は不随意運動であり、
自力で抑制することはできない。」と出てきます。
たしかに、ハクションとなる前に、強く速く息を吸い込んでますよね。
それも含めて、くしゃみなんです。

では、くしゃみは何のためにあるかというと、一つは、
鼻腔内の体温が下がったときに、体を強く振動させて、体温を上げるためです。
「えー、くしゃみくらいで体温が上がるの?」 と思われるかもしれませんが、
くしゃみをするときに体にかかる力はかなり強く、
肋骨を骨折したり、横隔膜を痛めたりする人もいるほどです。

もう一つは、鼻腔内にホコリなどの異物が入ったとき、
強い呼吸をして、それを排出するためです。これは納得しやすいですよね。
紙こよりで鼻の穴をくすぐればくしゃみが出てきます。
また、アレルギーや、「光くしゃみ反射」といって、
強い光を見たときにくしゃみが出るという人もいるようです。

 



さて、このくしゃみですが、オカルトにもけっこう関係があります。
まず、くしゃみの語源について、陰陽道の呪言の一つである、
「休息万命 くそくまんみょう」を早口で言ったものだという説があります。
でも、転訛のしかたが不自然なので、自分は違うんじゃないかと思います。

これは、「糞食め くそはめ」 が 「くさめ」になり、
やがて「くしゃみ」になったというのが正しいようです。昔から、
くしゃみをすると魂が体外に抜け出し、早死にしてしまうという俗信があり、
それに対して、「糞くらえ」という意味のおまじないを唱えたわけです。

吉田(卜部)兼好が書いた鎌倉時代の『徒然草』には、いつもずっと、
「くさめ、くさめ」 と唱えている尼さんの話が出てきていて、
どうしてそんなことをしているのか聞いたら、


「自分が小さいころにお育てした若君が、今、比叡山で修行をしていますが、
いつ くしゃみをするかもしれず、くしゃみをしたときに
呪文を唱えないと死んでしまうので、こうして、遠く離れていても、
私がいつも唱えているのです」と答えたそうです。

 

吉田兼好



くしゃみをして、その後に誰かが呪文を唱えないと死んでしまう、
という俗信があったわけですが、これは、西欧でも同じで、
キリスト教が広まる以前からあった古い風習のようです。
Wikiには、1回くしゃみをしたら「健康」、2回だと「健康とお金」、
3回だと「健康とお金と愛」と唱えていた、と出てきます。

この風習はキリスト教でもとり入れられ、16世紀、教皇のグレゴリー13世は、
くしゃみの後に「神の恵みあれ」と唱えるよう信者に命じました。
現在でも、英語圏では、くしゃみをした人に対してまわりが、
「God Bless you」 略して 「Bless you」と声をかけることが多いですよね。
ちなみに、くしゃみは英語で「sneeze」、ハクションは「ahchoo」です。



さらに、インド、アフリカ、イスラム圏、北米、南米など、
ほぼ世界中に、くしゃみの後になんらかのおまじないをする地域があり、
16世紀にスペイン人が北米のフロリダ半島に到達したとき、
現地人がくしゃみをすると、まわりの者がいっせいに両手を上げ、
「災いをお祓いください」と太陽にお祈りをした、
と記録された文献が残っています。

さてさて、なぜ、くしゃみをすると魂が抜け、死んでしまうのでしょうか。
これは、みなさん、理由はおわかりのことと思います。
くしゃみは病気の前ぶれだったんですね。医学が発達していない昔には、
風邪程度でも、簡単に死んでしまう場合が多かったんです。

さらに、もっと恐ろしいのは、くしゃみをした人だけで済む話ではなく、
疫病が大流行する前ぶれである可能性があったからです。
ペストやコレラ、あるいは悪性インフルエンザがひとたび起これば、
広い地域に壊滅的な被害をもたらします。

ですから、キリスト教でも、俗信として片づけるわけにはいかなかったんです。
ということで、日本語の「くしゃみ」、英語の「Bless you」には、
どちらも、昔からの疫病に対する恐れが含まれているんですね。
では、今回はこのへんで。

Say Bless you