えっと、某大学の廃墟探検サークルに所属してるもんです。
俺は3年なんですが、この4月に新入生が入りまして。
4人だけで全部男でしたけど。いや、女子はもともと期待してなかったんです。
ほんとに好きなやつだけ集ればいいんです。
あとね、いいですか、俺らは廃墟探索のサークルなんです。
オカルト系、心霊系とは一線を画してるっていうか・・・そのはずだったんです。
幽霊とかそういうもんはね、いないと思ってたんです。
俺らが追及してるのは「Ruin」でした。
えっと、滅亡、没落って意味です。ま、廃墟の美ってことっすね。
えー栗原亨さんって知ってますか。有名な廃墟探索家の人です。
樹海で何体も遺体を発見してる。ええ、そうです。

そんな人でもね、オカルトって信じてないんです。
何百もの廃墟を回って歩いても、不可思議なことは一度もなかったって、
インタビューや本で言ってます。だからねえ、俺らも信じてなかったんです。
実際、探索中には一度も変なことはなかったし・・・
だから毎年、新入生歓迎会はそれを叩きこむ目的でやるんですよ。
ええ、オカルトなんてないってことをね。どういうことかというと、
わざと怖い噂のある場所に連れていって、こっちが心霊現象をしかける。
でね、震えあがってるとこで、全部フェイクだぞってバラすんです。
これね、新入生一人ずつにやるんですよ。手を変え品を変えね。
で、そんときはSってやつの番だったんです。今月の始め、連休中に。
場所は、郊外の峠にある電話ボックスってことに決めてました。

え? 廃墟じゃないだろうって? まーそうなんですが、これね、
もう使われてないって設定にしてあるんです。ホントはまだ使われてますけど、
回線は普通で撤去を待ってる状態だって。それなら立派な廃墟でしょ。
ああ、ボックスの照明ね。そこも抜かりはないです。街灯はどうにもならないけど、
ボックス内の蛍光灯はあらかじめ電源を外しときました。
違法なんでしょうが、あんなとこ使うやつなんていませんよ。
そこに「一人で10分間入ってろ」ってのがSの課題だったんです。俺らの

計画はこうです。まず最初にSに、そのボックスに関する噂を吹きこんでおく。
殺人事件の被害者の女が最後に電話をかけた場所だとかなんとか。
ええ、そんな事件はない・・・ないはずなんですよ。
でね、Sを車でその近辺まで送り届けて、一人でボックスに入らせる。

ちゃんと10分いたことが証明できるように、外にビデオカメラをセットさせる。
透明プラスチックごしにSの姿が映るように。それを後に提出させるんです。
もうおわかりでしょ。俺らは近くに隠れてて、ボックスに電話をかけるんです。
ええ、ボックスの電話も決まった番号があるんです。それは事前に

入手してました。ねえ、使用中止になったボックスに電話がかかってくれば、

そりゃ怖いでしょ。ここで逃げ出したら不合格で、正座させて説教する

つもりでした。というかボックスは草むらの中なんで、仲間が一人

草の中にいて、Sが逃げ出そうとしたらドアの下部を押さえて、
出られないようにしようとも打ち合わせてたんです。
もし電話に出たら? それは合格です。肝が据わってるってことですから。
あと、呼び出し音を無視して10分ボックス内にいた場合も合格です。

でも、俺はそれは無理だと思ってましたね。一番怖いじゃないですか。
まあ確かに、俺らがイタズラでかけてると考えるもしれません。
それはそれでいいんです。冷静で先を読めるやつなら、
今後の廃墟の現場でも足手まといになりませんから。
ということで、夜の11時過ぎ、車でその峠まで行きました。
Sと俺ら3年生が4人です。いや、車通りはほとんどなかったです。
ゴールデンウイーク中で、遠出するやつらは高速通りますから。
でね、ボックスの近くでSにビデオを持たせて降ろしたんです。
そのまま俺らは行き過ぎたふりをして、
Sがビデオをセットしてボックスに入ったところを見はからって、
車を適当なとこに停めて歩いて戻ってくるんです。

そこらは草がぼうぼう生えてるんでわからないですよ。
こっちからだけボックスの中が見えるとこまで近づくと、
Sのやつはそれほどビビリ顔でもなく、壁にもたれかかってましたよ。
で、俺らの一人、Mが携帯で電話をかけたんですが・・・
「あれ、かっしいな。話し中だぜ」 「番号、間違えたんじゃね」
「いや、あらかじめ呼び出し音が鳴るのを確かめてから登録してある」
「なんだよそれ、つまんねえな。ビビらねえだろ」
ところがです。ボックスの中のSが、急に驚いたような顔になり、
ドアのほうに寄ったんです。電話のほうを見てました。
「やっぱ、鳴ってるんじゃね」 「でも話し中なんだが・・・」
「まあいい、回線が通じてて通話できないってんなら、それでいいだろ」

最初の計画通りに、Uってやつがしゃがんで草の中を歩いて

ボックスに近づき、手だけ出してドアの下を押えました。
でね、見てたらSが受話器を取ったんです。「お!」
数秒耳に当ててましたが、受話器を放り出すようにすると、
ドアから逃げ出そうとしました。ところが開かない。
俺らは大笑いしたんですが、Sがドアを肩で押し始めて・・・「あれ、

いくらなんでも開くだろ。Uは不安定な体勢で一部押さえてるだけだし」
「確かに変だな」そのとき、草むらにいたUがボックスの前に転がり出て、
立ち上がってこっちに走ってきたんです。こう叫んでました。
「白い霧、霧か煙でボックスがいっぱいになってる」
「えーなってねえよ、こっから見てみろ」

突然、ボックスの四方の壁がべこっとへこみました。
ほら、深海のに缶カラを沈めると、水圧でへこむじゃないですか。
あんな感じにです。「わ、何だあれ」 俺らが驚いてる間にも、
ボックス全体がべこんべこん、へこんでは戻りを繰り返し始めました。
Sの姿が見えなくなって、どうやら床に崩れ落ちたんだと思いました。
「わわわ」「ありえねえ!」 「お前ら逃げるなよ! Sを救出する!!」
いちおうリーダーだった俺が叫んで、みなで一斉に電話ボックスに

殺到しました。ボックスの外壁に手をかけたら、ものすごく冷たかったです。
そこは郊外で肌寒いくらいでしたが、そんなもんじゃない。
冷凍庫なみに冷えてて、俺がボックスの折りドアに手をかけると、
ちょっと抵抗がありましたが、開いたんです。

仲間2人が倒れてたSを引きずりだして、
運転してきたやつが車を取りに走って・・・Sの頬を2~3回ぺしぺし

叩いたら目を開けたんでほっとしました。車に連れ込んで、

飲み物でも飲ませたら大事にはならないだろうと思ったんです。
そんとき、ボックスの電話がまだ鳴ってることに気がつきました。
変でしょ。受話器はSが投げ出したときに外れてるんですから。
「もう電話いいから、切れよ」携帯でかけたMに言ったら、
Mは当惑した顔で、「とっくに切ってる」って答えたんです。
俺らは顔を見合わせ、結局リーダーの俺が受話器を取って、
そのまま戻せばよかったんでしょうが、
怖がってないとこを見せようと耳にあててしまったんです。

そしたら・・・ザッ、ザッという雑音が聞こえ、それに混じって、
途切れ途切れに女の声が聞こえてきたんです。まとめるとこんな内容でした。
「あなたたち、私が殺されたこと知ってるんですね。
この下の川原に埋められてるんです。早く助けてください」
意味が分かった途端、俺は電話を切りました。そんときは仲間には

話しませんでした。だってねえ、Uが見た白い霧、Sの失神、
ぼっこぼこになってひび割れたボックス・・・こんだけありえないことが

起きて、さらに混乱させるようなことをしても・・・後になってSから、
受話器を取ったとき「死んだ死んだ ここで殺された」と、
女が叫んだって聞いたんです。でね、ここに相談に来たんですよ。
どうしたもんでしょう。警察に行けばいいですか、やっぱ。