今回はこのお題でいきますが、ネタバレにご注意ください。
「まつわる話」としたのは、オカルトホラーに限定すると、
賭博を主題にしたものはそんなに多くはないからです。
むしろ文学作品に多いですね。例えばドストエフスキーの『賭博者』とか。

ジュール・ヴェルヌの『八十日間世界一周』も、旅行に出た発端は賭けからでした。
これは「賭け」そのものが十分にスリリングな要素を含んでいるので、
無理にホラーにする必要がないのかもしれません。何からいきましょうかね。
まずは日本の誇る短編小説の名手、芥川龍之介の『魔術』。



主人公の私は、インドの独立運動家にしてインド魔術の使い手、
ミスラ君の家を訪問する。そして披露された数々の鮮やかな魔術に驚嘆し、
自分にも教えてほしいと頼み込む。ミスラ君はうなずくが、
「魔術を行うものは欲を捨てなくてはなりません」と言う。

こうして魔術を習得した私は、友人たちの前で燃える石炭を金貨に変えてみせる。
金貨を暖炉に戻そうとした私に、友人たちはもったいないからやめろと言い、
私が拒否すると、じゃあ賭けをしようと誘う。私はその誘いに乗って勝ち続け、
頭に血が上った友人は、最後に、全財産を賭けて勝負しようと言い出す。

私は思わず欲が出て、こっそり魔法を使ってカードをキングに変える。
と、たちまちキングはミスラ君の顔になり、
私は最初に訪問したミスラ君の家にいることに気がつく。ミスラ君は、
「あなたはまだ修行が足りません」と私をたしなめ、私は恥じ入る・・・




こんなお話でした。自分は、芥川龍之介の作品は、
人間の心の弱さや脆さをテーマにしたものが多いと思います。この話では、
主人公は賭けで大勝ちする誘惑に負けてしまう。有名な『蜘蛛の糸』にしても、
もしカンダタが自分の後ろにたくさんの罪人がつながっているのを見て、

「下りろ、この糸は俺のものだ」と言わなければ、
おそらく極楽までたどりつくことができたに違いありません。
一つの選択・判断によってによって大きく結果が変わってしまうのは、
賭けと似ている部分があると思うんです。

さて、みなさん予想はついていると思いますが、
次にご紹介するのは、ロアルド・ダールの『南から来た男』
これはオカルトではないし、ホラーでもないというか、
奇妙な味というジャンルなんですが、大変怖い話です。



米兵がプールで遊んでいて、南米なまりの男に「どんなときでも火がつく」
とライターの自慢をする。それを聞いて男は、「じゃあ、そのライターが

10回続けてつくかどうか賭けをしよう」と持ちかける。

賭けるのは、男の所有するキャデラックと、米兵の左手の小指!
こうして賭けはスタートし、米兵は緊張でガチガチになりながらも、
ライターは8回連続で火がつく。あと2回となったときに、
男の妻が現れ、「この人は47人の人から47本の指を切り取り、

車も11台失った。でもこの人は、もう何も持っていない。
長い時間をかけて私がみんな取り上げましたから」
そう言って車のキーをつまみあげる。
妻のその手には親指ともう一本の指しかなかった・・・


最後のオチがなんとも強烈ですよね。賭博に狂った夫に対し、
妻は自分の指を賭けてすべての財産を取り上げてしまったわけです。
それが夫への愛情によるものなのか、
それとも他の感情によるものなのかは、なんともわかりません。



ダールは賭けが好きだったみたいで、もう一つ『味』という短編を書いています。
娘との結婚を賭けてワインのティスティングをする話でしたが、
『南から来た男』ほどの切れ味はなかったです。
さて、映画のほうに話を転じると、これも賭けを主題にしたものは多く、

ビリヤードをあつかった『ハスラー』とか『スティング』とか、
いくらでも名前が出てきますが、やはりなんといっても印象が強烈だったのは、
『ディア・ハンター』でのロシアンルーレットのシーンです。ただし、
これは実際に行われた例は少なく、フィクションが先行して有名になりました。

ルールでは、弾丸が入っていると予想した場合、こめかみではなく、
天井に向けて引き金を引くことも許されていたようです。
最後に、日本には賭けを主題としたマンガがあります。福本伸行氏の
『賭博黙示録カイジ』です。福本氏は麻雀マンガの『アカギ』の

シリーズも描いていますが、麻雀の手筋が重視されている『アカギ』より、
『カイジ』のほうが賭けの持つ魔力や恐ろしさがより強く出ています。
「人間競馬」とか「救出」とか、さまざまな種類の賭けが登場し、
あの内容を考え出しただけでもすごいなあと思いますね。