今回はこのお題でいきます。スティーブン・キングはアメリカのホラー作家で、
SFやファンタジーも書いてますね。1947年生まれなので、
もう70歳を過ぎています。あと、息子さんもホラー作家です。
その作品の多くが映画化されていて、ごらんになった方も多いでしょう。



前に筒井康隆氏について書いたときは「短編ベスト」にしましたが、
今回、長編にしぼったのは、たんに自分が、全部の中・短編を読んで

ないからです。さて、キング作品の特徴として、詳細かつ緻密な

日常描写というのは誰もが言及するところですよね。

登場人物の一人ひとりについて、話の大筋とは関係ないと思える場面での
行動が執拗に描かれます。これによって、その人物の性格はもちろん、
地域や学校、家族の中で置かれた立場が浮き彫りになります。
登場人物は筋を進めるためのたんなる駒ではなく、
存在がリアリティを持つわけです。

 



まあこれは、別にホラーにかぎったことではなく、優れた小説は
みなそういった面を持っているんですが、自分は、ホラーの醍醐味の一つは、
日常の中に非日常が侵入してくる瞬間にあると思っています。
で、日常が詳細に描かれていればいるほど、
それが壊れていくときの違和感・崩壊感が強まるんですね。

あと、キングの作品の多くが、平凡な田舎町を舞台にしています。
アメリカというと、ニューヨークやシカゴなどの大都市を思い浮かべる人も
多いでしょうが、あの広い土地のほとんどは、
人口数千から数万ほどの田舎の町なんです。



自分もアメリカの田舎に2年ほど住んでいたことがあるんで、
キング作品の舞台のイメージはよくわかります。日本だと鉄道が発達していて、
駅を中心に街ができますが、アメリカは車社会で、ハイウェイ沿いに点々と
家が連なっている感じなんですね。しかも、日本と違って、郊外では、
道を歩いてる人はもちろん、自転車の人さえまず見かけません。

ですから、何かあったとしても簡単に助けは呼べないし、警察も

すぐには来ません。日本のように建物が密集しているわけでもないので、
ある家で秘密のことが行われていても、おいそれとは発覚しない。
ああ、すみません。よけいな話が長くなってしまいました。

 



ベスト1、『呪われた町』これ、けっこう意外に思われるかもしれません。
キングのデビュー第2作目。ひじょうに古典的なストーリーの吸血鬼もので、
ひねったところがまったくありません。でもこれ、
読まれた方はわかると思いますけど、怖いんですよね。

ベスト2、『シャイニング』スタンリー・キューブリック監督の映画の
イメージが強いと思いますが、ジャック・ニコルソンの怪演が際立っていた

映画とはストーリーがかなり違って、超能力をテーマとしたSFとも

読める内容です。たんなる館ものホラーとは一線を画しています。

ベスト3、『ペット・セマタリー』これも映画になってますが、
映画のほうはスプラッター色が濃かったのに対して、家族愛が作中の最大の
テーマだと思います。家族を愛するゆえに愚かな過ちを犯してしまう
人間の悲しさが際立ちます。



ベスト4、『 I T 』 映画のほうは、スティーブン・キング原作の中では、
1976年の『キャリー』と並んで、傑作に仕上がってるんじゃないかと

思います。小説は長いですし、やや中だるみの部分もあるんですが、
キング特有のノスタルジックな雰囲気がいいですね。

ベスト5、『ミザリー』ホラーではあってもオカルトではない、
現実的な恐怖を描いた作品ですね。この系統は他に『クジョー』などが

ありますが、『クジョー』が狂犬病にかかった犬の恐怖だったのに対し、
本作ではストーカー化した人間の狂気が描かれます。

ベスト6、『痩せゆく男』 別ペンネームのリチャード・バックマン名義で
書かれた作品。別のペンネームで書いた場合どれだけ売れるか、
ためしてみようとしたとも言われます。キング名義の作より暴力描写がきつく、
やや差別的な部分もあります。最後のシーンのアイデアは、
日本の小説『リング』に影響を与えているかもです。



ベスト7、『ドリームキャッチャー』キングの作品は、筋自体はわりと

単純なものが多いと思うんですが、これはけっこう込み入った内容で、
山荘に集まった仲間が少年時代の思い出をさぐっていくうちに、
驚愕の真相に突きあたります。最後のほうで一気にSFになるんです。

さてさて、前半によけいなことを書いたために、10までいきませんでした。
異論はもちろんあると思います。デビュー作である『キャリー』を

選ばなかったのは、日本人として、キリスト教的な部分に違和感を持った

からです。上で書いたように、映画は傑作でした。では、今回はこのへんで。