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今回はこういうお題でいきます。「言霊 ことだま」は、古来から日本にあった
考え方で、「言葉に宿ると信じられた霊的な力」を指し、
「言魂」と書く場合もありますが、基本的には同じ意味です。
自分は、言葉の持つ霊力は、いくつかに分類することができると考えています。

さて、「言霊」という語が文献に登場するのは、『万葉集』からです。
「しきしまの やまとの国は 言霊の たすくる国ぞ 真幸くありこそ」
これは、柿本人麻呂が旅に出る人に贈った歌で、「日本は、

言霊が助けてくれる国です。ですから、私が無事に旅をしてください
と言えば、きっとそうなるはず。」こんな意味でしょうか。

柿本人麻呂
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ここで、2つの考え方を読み取ることができます。
一つは、「日本は、他国とは違って、言霊が助けてくれる特別な国」
というもので、日本の言語風土に対する自負。このことは、
人麻呂の歌だけでなく、日本の古典の随所に見ることができ、
これも興味深い話題なんですが、本項では詳しくはふれません。

もう一つは、「言葉に出して言ったことは現実になる」という考え方です。
前掲の歌も、「私が無事でと言ったので、あなたは無事に過ごせるでしょう」
という意味で歌われているんですね。このように、
言葉に出して将来のことを述べることを、「言挙げ」といいます。

で、「言挙げ」は、基本的にはポジティブなものになります。
例えば、「○○大学に絶対合格するぞ!」みたいな感じです。
ただし、言挙げした内容が、自分の慢心によるものであった場合は、
神の怒りを買って、悪い結果がもたらされることになります。

ヤマトタケルと白猪
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『古事記』では、伊吹山の神と戦うため山中に入ったヤマトタケルが、
白猪に出会い、「これは神の使いだろう、今は殺さず(神を討ち取った)
帰りに殺してやろう」と言挙げします。
しかし、この言葉は、ヤマトタケルの慢心から出たものだったため、
伊吹山の神の祟りによって、逆に殺されてしまうんですね。

ですから、上の大学受験の例も、本人がまったく努力しておらず、
ただ、「絶対 合格してやる!」と言っただけではダメなんです。
刻苦して、そう言うだけの実力を身につけていないと、
神に憎まれ、楽に合格できるはずの滑り止めまで落ちてしまうかもしれません。

あと、推理作家の井沢元彦氏は、著書の『逆説の日本史』の中で、
ネガティブな内容についても言霊が働く、といったことを書いておられます。
例えば、明日 遠足があるのに「雨が降る」などと言うこと、
また、太平洋戦争中に「日本は負ける」などと言うことは、
言葉に出すと現実になってしまうので、タブーとなったとしています。

 



たしかに、そういう面は否定できないんですが、
それは、考え方としては新しいものだと自分は思いますね。
基本的に、神社の祝詞の内容などを考えても、
古代における言挙げはポジテイブな内容のものだったはずです。
ここまでは、言霊について、言葉の意味的な面から見てきました。

ただ、言葉の霊力はそれだけではなく、もう2つほどあると考えます。
その一つが、言葉の「音 おん」に関するものです。
例えば、「ア」は明るく大きなもの、「カ」は鋭くとがったもの、といった具合に、
50音について、それぞれが固有の意味を持っているとする考え方です。

これは、文字の字面の場合もあれば、発音の響きの場合もあります。
企業が新しい商品の名前を決めるときなど、
消費者に与える印象を考えて、言葉を選んでいきますよね。
こういった考え方を「音義学 おんぎがく」といい、江戸時代の国学者、
平田篤胤などによってまとめられています。

平田篤胤
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さて、意味、音ときまして、3つめは、「言葉のつながり」
つまりリズムになります。日本で古代から伝わる言語リズムといえば、
和歌の「五 七 五 七 七」。言葉をこの順に並べ、
朗々と声に出して詠みあげることで、呪術的な効果が発生する。

紀貫之が書いた『古今和歌集』の仮名序には、「力をも入れずして天地を動かし
目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ、男女の仲をもやはらげ、
猛きもののふの心をもなぐさむるは歌なり」と出てきます。
これは、和歌の持つ力を述べたものですが、
和歌がそういった力を持つのも、リズムがあってこそです。

紀貫之
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現代でも、天皇・皇后両陛下が、新年の歌会始で御製を披露されます。
2018年の天皇陛下の御歌は、
「語りつつ あしたの苑を 歩み行けば 林の中に きんらんの咲く」
というものでした。これは、けっして私的な内容ではなく、
日本国および国民に対する、霊的な祈りが込められたものなんですね。

さてさて、ということで、言霊について3つの観点からみてきましたが、
実際は、言霊にはもっといろんな要素が含まれています。あと、なぜ

日本人が「日本は言霊の国」という考えを持つようになったかについても、
機会があれば書いていきたいと思います。では、今回はこのへんで。

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